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第40回 テレビは多様性を取り戻すべき論

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久しぶりに仕事が早く終わって、夜の7時前に家に帰りついたとする。
ひとっぷろ浴びて、さぁ夕食タイムだ。そういえば、この時間にテレビを見るのは久しぶり。どれどれと、あなたは新聞のテレビ欄を見るだろう。「えーっと、この時間にやってるテレビは……」

恐らく、ここであなたは愕然とするはずだ。4月と10月の改編期でもないのに、ゴールデンタイムの民放はどこも2時間や3時間のスペシャル番組ばかり。しかも、どの番組名を見てもピンとこない。

ためしにテレビをつけてみる。どの局でもいい。そこには――華やかなスタジオセットに、人気タレントと女子アナが司会に扮し、脇のひな壇には毒舌俳優や元アスリート、グラビアアイドル、中堅どころのお笑い芸人らがいて、VTRはどこかの国の奇祭に男女のタレントが体当たりリポートする様子を映し、ワイプにはそれにリアクションするひな壇の彼らの顔が見える――という、恐ろしく既視感のある番組が流れているだろう。

情報バラエティという禁断の果実

現在、ゴールデンタイム(19時~22時)の地上波の民放の番組は、8割近くがバラエティである。中でも多いのが「情報バラエティ」なるジャンルの番組だ。先の例もそうで、要はスタジオに司会とパネラーたちがいて、VTRを見て、トークをする類いの番組である。

そのVTRはグルメだったり、旅ものだったり、生活お役立ち情報だったり、歴史や医療などのお勉強ものだったり――と色々なパターンがあるが、何かしら「情報」が得られるのが共通点だ。スタジオ部分は、時にクイズになったり、ランキング形式になったりもするが、トーク主体である点は変わらない。要は、スタジオ+VTR+トーク=情報バラエティである。

そして――この情報バラエティこそが、近年の“テレビ離れ”の大きな要因の1つであり、テレビ界で密かに「禁断の果実」と呼ばれているのである。

途中から見始める情報バラエティ

情報バラエティの何が問題か?
――困ったことに、視聴率をそこそこ稼いでしまうのだ。
え? 視聴率が取れるなら、別に問題ないじゃないかって? いや、それはそうなんだけど、ここで言いたい問題は、視聴者がその番組を見ようと思って、見始めていない点にある。

どういうことか。
大抵、「情報バラエティ」は2時間とか3時間の長尺で作られ(レギュラー番組のスペシャル版だったり、単発スペシャルだったり)、その長尺ゆえに、視聴者はリモコンでザッピングしている途中で、目に止まって、それを見始めることが多い。VTRが気になったり、パネラー陣の中にひいきのタレントがいたり――まぁ、動機は何でもいい。とにかく、ザッピングの途中でリモコンの手が止まり、ついつい見てしまう――これが長尺の情報バラエティが見られるパターンだ。

つまり、意図して見始めたワケじゃないので、初めからじゃなく途中からの視聴となり、そうなると番組のタイトルすら把握していないケースが多いのだ。

視聴者を逃さないテクニック

そう、途中から見始めた情報バラエティ――。
次なる問題点は、一旦見始めたら最後、ズルズルと番組を見続けてしまう点にある。
え? それも別にいいことじゃないかって?

まぁ、確かに、見続けてもらえる――それ自体は番組作りの正しい姿だろう。その背景には、この65年の日本のテレビの歴史で、いかにお茶の間を飽きさせないで、番組を見てもらえるかを研究し続けたテレビマンたちの苦闘があった。その結果が、VTRとスタジオトークが絶妙に絡み合い、視聴者が何かしらお勉強した気になる「情報バラエティ」なのだ。

それは、秒単位でテロップや効果音が編集され、一度見始めたら最後、飽きることなく最後まで見続けられる。特に50代以上のテレビに愛着のある層ほど、その術中にハマりやすい。
その結果、情報バラエティは毎回、そこそこの視聴率を稼いでしまう。だが――一方で視聴者は、その番組のタイトルすら、最後まで知らなかったりするのである。

若者のテレビ離れへ

いかがだろう。情報バラエティの“禁断の果実”ぶりが、段々見えてきたと思う。
1つは、長尺であるがゆえに、途中から見始めるケースが多いこと。2つ目は、見始めたら最後、絶妙な編集でズルズルと見続けてしまい、特に高齢者ほどその“罠”にハマりやすく、結果として視聴率を稼いでしまうこと。そして――最大の問題は、視聴者はその番組のタイトル、いや、どうかしたらテレビ局すら把握していないこと――。

それは、つまるところ、何を意味するか?
テレビ局としては、そこそこ視聴率が稼げるので、また長尺の情報バラエティを作ろうという話になるだろう。
一方、視聴者は昨夜見た情報バラエティのタイトルやテレビ局すら把握していない。つまり――まるで“視聴習慣”として根づいていないのだ。

そう、視聴習慣が根づいていない――これこそが、昨今の“若者のテレビ離れ”の正体である。

昭和のテレビは人々の生活習慣の中にあった

若者のテレビ離れ――その外敵要因としては、スマホの普及や若者の生活習慣の変化などが挙げられる。だが、その最大の要因はテレビ側にあり、それは「情報バラエティ」なる禁断の果実がもたらしたのである。

そうなると、若者のテレビ離れを食い止める対策は1つしかない。
“視聴習慣”を再び根づかせるのだ。そのためには情報バラエティを減らし、印象に残る、多様性のあるレギュラープログラムを復活させるしかない。

思えば、昭和のテレビは、人々の生活習慣の中に組み込まれていた。火曜9時は『火サス』(日テレ系)、水曜9時は『欽どこ』(テレ朝系)、木曜9時は『ザ・ベストテン』(TBS系)、土曜8時は『ひょうきん族』(フジ系)――。オンエアを見るために、用事を切り上げて、急いで家に帰ることも多かった。

時代劇は週に10本以上あった

現代と昭和で、新聞のテレビ欄を見比べた時、大きく2つの点で異なる。

1つは、現代の民放テレビは年中スペシャル番組が氾濫しているが、昭和の時代は、改編期以外はレギュラープログラムの平常運転だったこと。
2つ目は、現代の民放テレビのゴールデンタイムの8割近くはバラエティだが、昭和の時代は、番組が多様性に富んでいたこと。

例えば――今や地上波で絶滅危惧種と言われる時代劇。昭和の時代は、実に週に10本以上もゴールデンタイムに放映されていたのである。
かの『水戸黄門』をはじめ、先に亡くなられた加藤剛さんの『大岡越前』、他にも『遠山の金さん』、『銭形平次』、『桃太郎侍』、『暴れん坊将軍』、『必殺仕事人』、『鬼平犯科帳』、『江戸を斬る』、『木枯し紋次郎』、『大江戸捜査網』――と、毎日のようにどこかの局が時代劇を放映していた。

昭和の時代、京都の太秦撮影所や松竹撮影所は、いつも撮影が行われ、活気に満ちていた。アイドルや若手俳優は時代劇を経験することで、自然と役者の世界のしきたりや演技の幅を学び、脚本家のタマゴや助監督らも時代劇で修業し、やがて独り立ちした。

当時はテレビが一家に一台だったので、時代劇は家族で見た。平成の時代劇のように、年寄りの娯楽じゃなかった。実際、TBSの月曜8時に『水戸黄門』が始まった当初、助さん役の杉良太郎と格さん役の横内正は共に20代で、アイドル的人気を博した。当時のOLや女子高生は、今の月9を見るように『水戸黄門』を見たのである。

伝説の歌番組『ザ・ベストテン』

今や絶滅危惧種となった番組に、歌番組もある。
最も有名な歌番組と言えば、昭和の人々の“木曜9時”の習慣に組み込まれていた、TBSの『ザ・ベストテン』だろう。

かの番組、最高視聴率は41.9%(関東地区)。その最大の要因は、“時代”を見せたことに尽きると言われる。現に、初代司会者の久米宏サンが、後にこんな趣旨のことを語っている。「『ニュースステーション』はニュース番組の形を借りたバラエティで、『ザ・ベストテン』はバラエティの形を借りたニュース番組でした」――。

そう、毎週木曜9時の生放送。スケジュールが許せば、出場歌手にはスタジオに来てもらうが、コンサートなどで地方にいる場合は、TBSの系列局のアナウンサーが現地にお邪魔して、そこから中継させてもらう――これが、同番組の最大の発明だった。
つまり――『ザ・ベストテン』は、毎週木曜9時に、今を時めくスターたちが“どこで、何をしているか”を伝える番組だったのだ。先の久米サンの言葉は、そういう意味である。

歌番組は歌を聴かせる番組だった

思えば、昭和の時代は、『ザ・ベストテン』をはじめ、各局に歌番組があり、毎日、どこかの局が放映していた。
一例を挙げると――『レッツゴーヤング』、『ビッグショー』(以上、NHK)、『NTV紅白歌のベストテン』、『ザ・トップテン』(以上、日テレ系)、『ロッテ 歌のアルバム』、『トップスターショー 歌ある限り』(以上、TBS)、『ザ・ヒットパレード』、『夜のヒットスタジオ』(以上、フジテレビ)、『ベスト30歌謡曲』、『夢のビッグスタジオ』(以上、テレビ朝日)――etc.

当然だが、当時の歌番組は純粋に歌を聴かせる番組だった。司会者がいて、出場歌手がいて、歌う前に2、3のやりとりがあって、歌う――これだけ。しかも、全て新曲で、それもヒット曲だった。延々トークをして歌手のキャラを無理に立たせたり、懐メロのコーナーを入れる必要もなかった。

だが、今や地上波のレギュラーの歌番組は絶滅寸前。その一方で、各局とも夏と冬に長尺の音楽のスペシャル番組を組むのが定例化している。要するにお祭りだ。
とはいえ、毎週歌番組を放映して、人々の生活習慣に組み込んでもらうことこそ、ヒット曲不足に悩む音楽業界を救う正攻法ではないだろうか――。

ゴールデンで放映された一社提供ドキュメンタリー

絶滅危惧種の番組はまだある。
ドキュメンタリーだ。今やドキュメンタリー番組を、民放のゴールデンタイムで見る機会はほとんどない。
一方、海外に目を向けると、ディスカバリーチャンネルやナショナルジオグラフィックなど、予算をかけて良質なドキュメンタリーを制作するチャンネルが存在し、人気も高い。

しかし――日本でも昭和の時代は、ドキュメンタリーが普通にゴールデンタイムに放映されていたのだ。『三井ワールドアワー 兼高かおる世界の旅』(TBS系)、『日立ドキュメンタリー すばらしい世界旅行』(日テレ系)、『トヨタ日曜ドキュメンタリー 知られざる世界』(日テレ系)、『NECアワー 野生の王国』(TBS系)――etc.

タイトルを見ても分かるが、ドキュメンタリーは一社提供番組が多い。それは、一社提供だと視聴率主義に走らず、良質なドキュメンタリーを安定して制作できるからである。企業イメージもよくなり、win-winの関係を築ける。
だが、平成になり、各局がし烈な視聴率競争をするようになると、いつしかドキュメンタリーはお荷物となり、ゴールデンから消えたのである。

先にも述べた通り、海外ではドキュメンタリーはメジャーな存在として扱われる。日本でも、もう一度、一社提供の質の高いドキュメンタリーをゴールデンタイムに放送できないものだろうか。視聴率とは別の視点で、“テレビ離れ”を食い止める一定の効果があると思われるが――。

三つ子の魂百まで――子供向け番組が必要な理由

40代より上の世代なら、昭和の時代、夕方5時のテレビはアニメの再放送が定番だったのを覚えているだろう。
そして、6時台のニュースを挟んで、7時の夕食タイムになると、今度は30分の子供向け番組が放送される。アニメ以外に学園ドラマなどもあった。

フジテレビには、長らく日曜夜7時半に『世界名作劇場』(当初の『カルピスこども名作劇場』から数回改題)なる枠があり、スタジオジブリを作る前の高畑勲監督や宮崎駿監督も参加して、『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』などの数々の良作のアニメを送り出した。

だが――現在、テレビ界では、それら子供向け番組は激減している。
夕方のニュースは長尺化されて主婦向けとなり、アニメの再放送枠は消滅。夜7時台も、件の情報バラエティが氾濫し、子供向けの30分番組は見る影もない。フジの「世界名作劇場」も1997年で終わってしまった。

俗に、「三つ子の魂百まで」と言うが、かつて昭和の子供たちは、子供向け番組を見て育ち、テレビが好きになった。今、“若者のテレビ離れ”と言われるが、そもそも子供向け番組を減らしておいて、何をか言わんやである。

“下世話感”が評価されたワイドショー

最後に、意外な絶滅危惧種の番組を挙げたい。それは――ワイドショーである。
え? ワイドショーなら、今でも放送されてるだろうって?

いや、『情報ライブ ミヤネ屋』(日テレ系)や『直撃LIVE グッディ!』(フジ系)といった番組は、正確には“情報ワイドショー”と言って、昭和の時代のワイドショーとは少々異なる。
その最大の違いは、“下世話感”の有無である。

例えば、昭和の時代の代表的なワイドショーに『アフタヌーンショー』(テレ朝系)なる番組があった。司会は俳優の川崎敬三サン。そこに、芸能リポーターの梨元勝サンや俳優でリポーター役の山本耕一らレギュラー陣が加わり、芸能界のスキャンダルから、下世話な社会の事件などを紹介して、論じた。ザ・ぼんちが歌う『恋のぼんちシート』の歌詞にもなった「そーなんですよ、川崎さん」の名文句は流行語になった。

昭和のワイドショーがお茶の間に好まれた理由は、いい意味で“下世話感”があったからだ。テレビというとメディアの王様みたいで偉そうに見えるが、時々、こうやって下世話なこともやってくれる。実にくだらない。だが――それがいい、と。くだらないニュースを真剣に論じ合うワイドショーに、視聴者は、安居酒屋でバカ話をしてくれる下町のおっちゃん臭を感じたのである。

一方、今の「情報ワイドショー」は、芸能プロダクションに忖度するあまり、芸能スキャンダルをほとんど扱わない。代わって取り上げるのが、政治ネタである。報道局(政治部)が作るニュースと違い、情報制作局が作る情報ワイドショーは基本、政治家に忖度する必要がないので、上から目線でガンガン叩く。正義のヒーロー気取りだが、過剰な演出や論法に正直、「何様?」と思ってしまう。その結果――テレビはかつての下世話な“親しみ”すらも、失ったのである。

なぜ恐竜は滅んだのか

今から6500万年前、メキシコのユカタン半島に直径10kmの巨大隕石が衝突して、大気中に膨大な量の煤(すす)をまき散らして地球が急激に寒冷化し、恐竜が絶滅したと言われる。

だが――ご存知の通り、小さなほ乳類や鳥類、爬虫類は生き残り、現在、我々人類は繁栄している。恐竜が絶滅したのは、種のバリエーションが少なく、あまりに巨大サイズに特化したために、環境の変化に対応できなかったからである。

そう、進化を制すのは強い個体や「種」ではない。多様な「種」である。環境が変化した時、それに対応できる個体を持っていた種が生き残るのだ。

多様な番組が未来を作る

同じことがテレビにも言えないだろうか。
この先、テレビ界にどんな環境の変化が訪れるのか分からない。だが、ゴールデンタイムの80%近くがバラエティに特化され、スペシャル番組が氾濫する現状は、果たして来るべき変化に耐えられるだろうか?

提案する。
テレビ界はもう一度、かつての昭和の時代のような「多様性」を取り戻すべきである。そしてレギュラー番組を重視して、もう一度、視聴者の生活習慣の中に、テレビを入れてもらうのだ。

このままだと、テレビは恐竜と同じ末路を辿りかねない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)


第41回 7月クールドラマ中間決算

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さて――7月クールのドラマも中盤を過ぎ、既に終盤を迎えている。

ここで、あらためて同クールの見どころをサクッと振り返ってみたいと思います。えっ、もう脱落しちゃった? なに、録画したまま気がつけば周回遅れになってる?
――大丈夫。前々から言っているように、連ドラというのはいつ見始めてもいいんです。それに特定の回を切り取って見たとしても、優れた連ドラならすぐに全体像が掴めるというもの。だから、“中抜け”して見ても大丈夫。

とはいえ、皆さん、お忙しい。
なので、ここでは、この先どのドラマを見ればいいのか、その指針をお示ししたいと思います。そう、連ドラを後半から見始める利点に、見るべき作品を絞れる特典がある――なんてね。

今クール最高傑作『ギボムス』

最初に、はっきり申し上げましょう。
この7月クールの最高傑作は、TBSの火曜10時から放送されている『義母と娘のブルース』――通称ギボムス、これ一択です。忙しい人は、とにかくこれだけ見るといい。

なんたって、主演・綾瀬はるか、脚本・森下佳子、演出・平川雄一朗と、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『JIN-仁-』などと同じ鉄板の座組。ぶっちゃけ、日曜9時の日曜劇場でもイケたが、今クールは『この世界の片隅に』がある関係(戦争ドラマ+家族の話なので、夏クールの日曜劇場で放映する以外にない)で、火曜10時になっただけのこと。

珠玉の森下脚本

まず、『ギボムス』の何が面白いって、再婚する2人の馴れ初めもプロポーズもすっ飛ばして、いきなり義母と娘の“初顔合わせ”から始まる導入だ。物語の舞台は2009年。つまり、ちょっと前の話。まだスマホはなく携帯の時代で、冒頭は、高校生に成長したみゆき(上白石萌歌)の回想ナレーションだった。
「もし、私の人生を歌にしたとすれば、それはブルースだ」

このドラマ、実はある種のミステリーなんですね。
なぜ良一と亜希子は結ばれたのか?
なぜ良一と亜希子は同じ部屋で寝ないのか?
なぜ亜希子はキャリアウーマンの地位を捨ててまで主婦の道を選んだのか――?

それら諸々の疑問はドラマが進むにつれ、徐々に氷解する。そう、これが視聴者をドラマに引き込む、いわゆる“カタルシス”なんです。

以下は、ネタバレだけど――実は良一、スキルス性の胃がんに侵され、余命いくばくもない体。そこで、自分の勤め先と同じ業界で、やり手のキャリアウーマンとして知られる亜希子にプロポーズしたのだ。自分が死んだあと、娘を育ててほしいと。一方、亜希子も密かに一人で生きる寂しさから解放されたいと思っていた。つまり、この結婚は両者の利害関係が一致した取引――“契約”だった。
「しかしながら、なぜ私に?」
「僕が知ってる女性の中で、一番頼りになりそうだからです」

驚くのは、このドラマの原作は桜沢鈴サンの4コマ漫画であること。4コマを連ドラに脚色した森下さんの筆力も相当なものだが、あらためて原作を読むと、ちゃんとドラマで描かれたエッセンスが凝縮されているのが分かる。決して、飛躍した脚色じゃない。原作を生かし、ドラマも生かす。恐るべし、森下佳子。

綾瀬はるかと竹野内豊の安定感

そして、そんな珠玉の脚本に見事な演技力で応えているのが――メインの綾瀬はるかと竹野内豊の2人である。

まず、綾瀬サン演じる亜希子の振り切ったキャラが抜群にいい。キャリアウーマンと言いつつ、やってることは、広告代理店のD通マンと変わらない。要するに、クライアントのためなら何でもやります――というアレ。すぐに土下座もするし、腹踊りも厭わない。しかも、全ての動作がまるでロボットのように、完璧に遂行されるのだ。その辺りの綾瀬サンの体を張った“新境地”も、同ドラマの見どころの1つである。

一方、竹野内サン演じる良一は、とにかく人がいい。仕事はそれほどできないけど、その人柄の良さで周囲から自然と慕われるタイプだ。これをリアリティ豊かに見せてくれる(本当にこういう人が実在しているように見える)のは、竹野内サンの真骨頂。僕は、彼ほど「引き出し」の多い役者を知らない。

役者の演技を引き出す平川演出

そして、忘れてならないのが、そんな役者の神演技を引き出す、平川雄一朗サンの神演出。笑わせ、驚かせ、そして最後に泣かせる――。

“契約結婚”に踏み切った亜希子と良一だが、そんな風にひょんなことから一緒になった2人が、やがて真実の愛を育むのは、『逃げ恥』でも見られたように、古今東西の物語の常道である。
そんなドラマ・セオリーを緩急つけながら、自然と描けるのは平川サンの名人芸。役者もスムーズに役に入り込めるというもの。

素で竹野内豊が泣いた4話の神シーン

同ドラマの印象的なシーンに、4話で亜希子と良一が娘のみゆきのために2人のなれそめの打ち合わせをした帰り、歩きながら2人が交わすやりとりがあった。

亜希子「結局のところ、していないお付き合いをしていたとするほかは、ほとんど本当のことでなれそめが出来てしまいましたね」
良一「逆に言えば、僕たちは意外と普通に結婚したってことになるんですかね」
亜希子「それは違うのではないでしょうか。普通の結婚というのは、共に人生を歩くためにするものではないかと考えます。いわば、二人三脚のようなものかと。しかしながら、私たちのそれは――リレーです」
良一「さすが……(ここで感極まる)うまいこと言いますね」

この最後の台詞のところ、竹野内サンは本当に感極まって泣いてるんですね。見ているこちらも、思わずもらい泣きしたほど。
何気ないシーンの何気ない会話で、役者の自然の演技を引き出す――これが『ギボムス』の演出なんです。

後半は現代パート

そして、ドラマは後半の6話から現代へと時間が飛び、みゆきは高校生となり、上白石萌歌サンが演じている。
一方の亜希子は、専業主婦を続けているものの、容姿に全く変化がない。その辺りの演出の割り切りもいい(描きたいのはそこじゃないから)。親子の会話も、亜希子は相変わらずビジネス敬語で、みゆきは自然体だ。
つまり――良一がいないだけで、2人の関係は基本、9年前から変わっていない。

6話の最後、みゆきが幼馴染みの大樹(ヒロキ)から告白され、驚いてその場から逃げ出すくだりがある。この時の彼女のモノローグが、ドラマの後半戦の火ぶたを切る。

「父が亡くなって9年。私は、生まれて初めて告白というものをされ、義母は再び、働きに出ることにした。ただ、それだけのことだ。――ただ、それだけのことが、義母と私の、親子関係をえぐることになってしまうのだった」

なんと、タイトルの『義母と娘のブルース』は、実は後半戦にかかっていると、この時、僕らは知らされたのだ。考えたら、前半戦は夫婦の絆の物語だったので、本当の意味での本編はこれからなのだ。

そう、ここでも視聴者をドラマの後半戦に惹きつける“カタルシス”が効いているんですね。今後、この2人にどんなブルースなエピソードが待ち受けているのか?――と。

最終回への期待

同ドラマの主題歌は、MISIA の『アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)』である。これがまたドラマにハマっている。毎回、エンディングでこれがかかると、物語がグッと盛り上がるんですね。

さて、視聴率である。
初回11.5%で始まり、その後徐々に上げて、6話で13.9%と自己最高を更新した。その時点で7月クールのトップを快走しており、2年前に同じ枠だった『逃げ恥』とほぼ同じ軌跡を描いている。このまま行けば、最終回の20%超えも夢じゃない。

もう、これは最後まで見届けるしかないでしょう。

『絶対零度』は事実上のスピンオフ

さて――ちょっと『ギボムス』への思い入れが深すぎて長くなっちゃったけど、ここから先は、その他の見るべきドラマをサクッと紹介したいと思います。

まず、フジテレビの月9。『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』のシーズン3が絶賛放映中である。これが意外と面白い。
――とはいえ、同シリーズは1シーズンごとにまるで別のドラマと言っていいくらい、各々の世界観が独立している。シーズン1はタイトルの通り、米ドラマ『コールドケース』をオマージュしたものだったし、シーズン2は「潜入捜査」の世界を描き、これは米ドラマの『NCIS:LA~極秘潜入捜査班』を彷彿とさせた。

そしてシーズン3は、まだ起きていない犯罪――「未然犯罪」がテーマである。これは恐らく、米ドラマの『PERSON of INTEREST 犯罪ユニット』をオマージュしてますね。ビッグデータやAIがプログラミングされた“システム”で犯罪を予知するプロットで、従来の刑事ドラマと一線を画す、新しい試みだ。
しかも今作から、主役が上戸彩サンから沢村一樹サンに交代している。タイトルは同じだけど、もはやスピンオフドラマと言っていい。

見えてきた月9の方向性

それにしても、『絶対零度』のシーズン1と2は火曜9時枠だったのに、なぜ今シーズンから月9になったのか。
多分――それは、本作が月9の目指す方向性に相応しいドラマだから。

え? 月9といえば、恋愛ドラマじゃないのかって?
いえいえ、この1年――恋愛モノは『海月姫』しか作られていません。不幸にも、昨年1月クールの『突然ですが、明日結婚します』が歴史的惨敗を喫して、月9は方針転換せざるを得なくなったんです。
で、この1年、試行錯誤を繰り返した結果、前クールの『コンフィデンスマンJP』から、ようやく1つの方向性が見えてきた。それは――ドラマの“世界の潮流”をいち早く取り入れるというもの。

ようやく世界を見始めた日本のドラマ界

そう、世界だ。
日本では、連ドラは苦戦しているが、実は、世界に目を向けると空前のドラマブームである。それをけん引するのはNetflixやHulu、Amazonプライムなどのネット配信企業。何が凄いって、彼らの予算の掛け方だ。1つのドラマの1シーズンの制作費が100億円なんてことも珍しくない。それだけ掛けても、ちゃんと回収できるんですね。何せ、マーケットは世界だから。

一方、日本の連ドラはスポンサーの広告予算で作られ、国内向けである。1クールの予算は3~4億円。そもそもビジネスモデルが違うから、ここからマーケットが飛躍的に拡大することもない。
ただ――このままだと世界の潮流から取り残されると、ようやく日本のテレビ局も重い腰を上げたんですね。

その手始めが、フジテレビは「月9」の改革だったと。将来の海外マーケットを見据え、その枠で掛けるドラマを世界標準に近づけようと考えた。それが、“コンゲーム”の世界を描いた前クールの『コンフィデンスマンJP』であり、従来の刑事ドラマと一線を画した今クールの『絶対零度』(シーズン3)ってワケ。ちなみに、次の10月クールは織田裕二と中島裕翔のバディーもので、米ドラマ『SUITS/スーツ』のリメイクである。

木10久々の二桁

お隣の国、韓国に目を向ければ、実は韓国のドラマはとっくに海外マーケットに舵を切っている。元々、人口が日本の半分しかないので、K-POPも早くから日本をはじめ、海外に進出したように、ドラマも必要に迫られての行動だった。

その結果――近年、韓国ドラマは“脚本力”が飛躍的に上昇したんですね。
ひと昔前、いわゆる「韓流ドラマ」は、『冬のソナタ』をはじめ、ドラマチックすぎる展開(主人公の記憶喪失や出生の秘密など)が定番だったが、今や海外マーケットを意識した、普遍的でクオリティの高い脚本のドラマが増えている。

この7月クールの、フジの木10ドラマ『グッドドクター』もその一つ。同ドラマは2013年に韓国で放映されて人気を博し、昨年、米ABCでリメイクされ、そこでも評判となった。そして今年、満を持して日本にやってきたのだ。

初回視聴率は11.5%。これ、なんと木10枠で二桁を取ったのは、2年ぶりだったんですね。そして、その後もずっと二桁をキープしている。

医療ドラマ版『ATARU』

主人公・新堂湊を演じるのは、山﨑賢人。湊は自閉症で、サヴァン症候群を抱える小児科の研修医という設定。つまり、コミュニケーション能力に難がある。果たして、そんな人物に繊細な医療が求められる小児科医が務まるのか――というのが同ドラマのカタルシスだ。

しかし、そんな周囲の心配をよそに、湊はその抜群の記憶力と、子供のような純粋な心で、次々と奇跡を起こしていく――これが同ドラマの大まかなプロット。要は、かつてのユースケ・サンタマリア(リメイク版は山下智久)主演の『アルジャーノンに花束を』とか、中居正広主演の『ATARU』みたいな路線ですね。医療ドラマ+障害モノだから、鉄板と言えば鉄板だ。

脚本は徳永友一サン。徳永サンは以前もフジで、韓国ドラマ『ミセン-未生-』をリメイクした『HOPE〜期待ゼロの新入社員〜』を手掛けている。これも面白かったので、今作の安定した仕事ぶりも頷けるというもの。未見の方は、同ドラマを見て損はないと思います。

夜の朝ドラ『この世界の片隅に』

さて、次にTBSの日曜劇場だ。今クールはドラマ版『この世界の片隅に』が絶賛放映中である。

ご存知の通り、同じ原作のアニメの映画版が一昨年、わずか63館で封切られたものの、その後、累計400館を超える大ヒット。キネマ旬報の日本映画第一位となったのは記憶に新しい。そんな超・話題作のドラマ版だから、開始前から何かと外野の声もうるさかった。

現状、中盤まで視聴率は10%前後で推移しており、同枠の潜在視聴率を考えれば、ちょっと苦戦している。とはいえ、主人公・すずを演じるのは、ドラマ初主演の松本穂香であり、役者の知名度を考えれば、致し方ない面もある。

一方、彼女の周囲を固めるのは、夫役の松坂桃李をはじめ、尾野真千子、伊藤蘭、二階堂ふみ、田口トモロヲ、宮本信子らと、こちらは実力派俳優たちがズラリと並ぶ。脚本もベテラン岡田惠和サンに、演出チーフがTBSの重鎮・土井裕泰サンと、ぬかりない。

――そう、要はこのドラマ、ヒロインに新人を当て、周囲の役者やスタッフをベテランで固めて丁寧に作り込む、NHKの朝ドラと同じ手法なんですね。恐らく、確信犯。その意味では、クオリティ面で十分健闘していると思う。

あの声明は何を意味していたのか

同ドラマは、序盤、ちょっと物議を醸した騒動があった。
それは、アニメの映画版の製作委員会が、ドラマ版のエンドロールにある「special thanks to映画『この世界の片隅に』製作委員会」のクレジットに対して、自身の公式サイトで声明を発表したからだ。「ドラマの内容・表現等につき、映画に関する設定の提供を含め、一切関知しておりません」――と。

これ、映画版の熱心なファンの中には、「片渕須直監督に無断でクレジットを入れたんだ!」と憤慨する人たちがいたけど、それは早計というもの。もちろん、クレジットは双方了承済みだし、単に片渕監督は「ドラマ版の制作にはタッチしてませんよ」と、インフォメーションしたかっただけ。
多分、ドラマ版を見た映画版の熱心なファンから監督に色々と問い合わせが来て、それに公式に回答する意味合いだったと思う。基本、両者にわだかまりは一切ない。

ドラマ化作品の楽しみ方

ここで、いい機会だから、原作のある映画やドラマの楽しみ方を解説しておきますね。これは他の作品でも同様だから、参考にしてもらえれば幸いです。

基本――小説であれ漫画であれ、原作は原作で完成しており、“最終形”である。まず、この考えをしっかり持っておいてください。だから、原作を映画化したり、ドラマ化したら、それは原作とは別ものと考えるのがスジ。原作は、映画やドラマの“脚本”じゃないのだから(←ココ大事なところです)。そうじゃないと、映画やドラマにする意味がない。それぞれを楽しめばいいんです。

それを踏まえると――『この世界の片隅に』も、原作者のこうの史代さんの漫画がそもそも最終形。映画版はそれとは違う片渕須直監督の作品であり、ドラマ版も、その2つとは違うTBSの作品。各々、好きな作品を楽しみましょう。

『チア☆ダン』は青田買い目線で

近年、TBSのドラマはキャスティングに、あるこだわりが見られる。それは、作品重視でキャストを選んでいること。
え? そんなの当たり前だろうって?

――いえいえ、先に役者を決めてから、それに相応しいドラマの題材を探すことは珍しくないし、視聴率を狙うなら、売れっ子のスターさんを起用するのも間違いじゃない。テレビドラマは見られてナンボだから。
でも、近年のTBSのドラマを見ていると、極力、作品重視でキャスティングしているように見える。今クールの『チア☆ダン』もそうだ。

正直、生徒役で名前と顔が一致するのは、メインの3人――土屋太鳳、石井杏奈、佐久間由衣くらい。あとの人たちは申し訳ないが、一般的な知名度はそれほど高くない。
でも――それでいいんです。同ドラマは、地方の高校の無名のチアダンス部が「全米制覇」という、途方もない夢へ向かって突き進む物語。視聴者にとって、部員たちに変な色が付いていないほうが感情移入できるんです。

実際、同じようなフォーマットに、3年前の同枠で放送された『表参道高校合唱部!』がある。あの時も、主演の芳根京子を筆頭に、生徒役のほとんどは一般的には無名だった。でも、彼らは同ドラマをステップに知名度を上げ、今や森川葵に志尊淳、葵わかな、吉本実憂――と、皆売れっ子になった。

そう、『チア☆ダン』も、未来のスターを青田買いする目線で見ると、より楽しめるというもの。

『dele』は21世紀版『傷だらけの天使』

さて、長くなってきたので、このコラムもそろそろ締めたいと思う。最後にオススメするのは――テレ朝の『dele(ディーリー)』である。

同ドラマ、原作は本多孝好の小説で、企画段階から並行して映像化が進められ、メインの2人――圭司と祐太郎は、山田孝之と菅田将暉を想定して当て書きされたという。それを原作者の本多をはじめ、金城一紀や渡辺雄介、青島武ら複数の脚本家が競作する体で、ドラマ化されたのだ。

“dele”とは、デジタル用語で「削除」の意味。それは、圭司と祐太郎の仕事――クライアントの依頼を受け、その人の死後に不都合なデジタル遺品をすべて内密に抹消する仕事を表している。

さて、ドラマの中身だが、さすがに当て書きしただけあって、2人の役のハマり具合が半端ない。菅田サン演じる祐太郎のアホキャラは笑えるし、山田サン演じる圭司のクールで早口の芝居もカッコいい。2人を見てると、まるで『傷だらけの天使』の亨(水谷豊)と修(萩原健一)を見てるようでもある。

そんな風にメインの2人がノリノリで演じてるものだから、とにかく同ドラマ、面白いニオイがプンプン漂ってるんですね(←ココ大事)。だから、そんなニオイに誘われるように、各回のゲストスターも、コムアイ(水曜日のカンパネラ)だったり、野田洋次郎(RADWIMPS)だったり、柴咲コウだったり――と、ちょっと面白い。これ、空気感を楽しむ意味でも、出来る限り、リアルタイム視聴をおススメします。

大事なのはカタルシス

以上、7月クールのおススメドラマを6本、ご紹介させていただきました。『義母と娘のブルース』、『絶対零度』、『グッドドクター』、『この世界の片隅に』、『チア☆ダン』、そして『dele』――。
今からでも遅くありません。この6本を見るだけで、あなたは7月クールの連ドラを堪能できるでしょう。

え? この6本と、今回選ばれなかったドラマと、何が違うのかって?
――ひと言で言えば、“カタルシス”の有無ですね。

連ドラにとって一番大事なのは、視聴者に「次も見たい!」と思わせるカタルシスなんです。それが、この6本には明確に見られ、残念ながら今回選ばれなかった作品たちには、もう一つ見られなかった。

また、10月クールにお会いしましょう。
ステキな連ドラ・ライフを!

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第32回 2017連ドラ総決算

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 最初に断っておきますが、この記事で取り上げていないからといって、決してそのドラマが劣っているワケではありません。
 1年間に放映されるGP帯の民放の連ドラは約60本。それにNHKの連ドラも加えると――全てを扱うのはとても無理。そこで視聴率がよかったり、比較的話題になった作品をピックアップしつつ、2017年の連ドラを振り返りたいと思います、ハイ。

1月 木村拓哉vs.草彅剛で始まった2017連ドラ

 まず、2017年の連ドラ界で最初に話題になったのが、前年大晦日で解散したSMAPのメンバー2人、木村拓哉と草彅剛がいきなり同じ1月クールに登場したこと。前者が『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)、後者が『嘘の戦争』(フジテレビ系)である。

 『A LIFE』はキムタク演ずる天才外科医・沖田一光を中心とした医療ドラマの群像劇。天才外科医というと、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)をはじめ、医療ドラマの主人公の鉄板キャラだけど、同ドラマが珠玉だったのは、初回でいきなり沖田に失敗させたこと。これでスーパードクタードラマが人間ドラマになった。悩めるキムタクはちょっと絵になる。そして共演者で目立ったのが浅野忠信演じる副院長・壮大。彼の“怪演”は同ドラマのもう一つの見せ場で、彼の周りだけまるで昼ドラのような空気が流れていた。

 一方の『嘘の戦争』は、『銭の戦争』に続く復讐シリーズ第2弾。草彅剛演ずる一ノ瀬浩一は天才詐欺師。草彅クンお得意のヒールキャラで、毎度のことながら役に憑依する様が見事だった。笑ったのは、藤木直人演ずる二科隆が一之瀬の正体を探ろうと名刺にあるニューヨークのオフィスに電話したら、たった今、日本から到着したばかりの水原希子演ずる相棒のハルカが電話を取り、「ハロー」。そして一之瀬に「間に合った」とLINEすると、「よかった。すぐ帰国して」と。こういう遊びができるのも草彅ドラマの特徴である。

 マスコミは2人の同一クール対決をやたら煽ったが、僕に言わせれば、それぞれの特技を生かした盤石のドラマで、SMAPの2勝0敗という印象だった。

2月 登場・柴咲コウ。異例の子役4週だった『おんな城主 直虎』

 2月になると、NHK大河『おんな城主 直虎』にようやく主演の柴咲コウが登場する。そう、かのドラマは異例の“子役4週”で始まったのだ。演じたのはNHK朝ドラ『わろてんか』でもヒロインの幼少期を演じた新井美羽。その異例の措置は脚本を担当した森下佳子サンの作戦で、亀之丞と鶴丸(後の井伊直親と小野但馬守政次)との3人の関係性を描くには、幼少期の描写が肝になるからという。事実、2人が死ぬ12話と33話は物語のターニングポイントになった。特に高橋一生演ずる政次が処刑される33話『嫌われ政次の一生』は大河史上に残る名シーンに。

3月 『カルテット』最終回で吉岡里帆確変!

 視聴率は一桁続きだったものの、1月クールの連ドラでそのクオリティが高く評価されたのが、坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系)である。松たか子・満島ひかり・高橋一生・松田龍平演ずる4人のアマチュア演奏家がカルテットを組み、軽井沢の別荘で共同生活する話。4人の「唐揚げにレモンをかけるか?」論争や、中盤以降の松たか子演ずる巻真紀のダークサイドが話題になるも、最後に持っていったのは、元地下アイドルのアルバイト店員ながら、白人男性にエスコートされて登場し、指輪を見せつけ「人生チョロかった」と高笑いする吉岡里帆演ずる有朱(ありす)だった。

4月 渡瀬恒彦急死で警視庁捜査一課ドラマに脚光

 2017年3月14日、かねてから病気療養中の渡瀬恒彦サンがよもやの急死。4月クールで放送予定の渡瀬サン主演の『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)は代役を立てず、脚本を変えて放送することに。奇しくも同じクールには『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)、『小さな巨人』(TBS系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と、「警視庁捜査一課」が舞台のドラマが4本並んだ。まるで渡瀬サンへの弔い合戦のようだった。

5月 湊かなえチーム『リバース』健闘

 4月クールのTBS金ドラは、湊かなえ原作の『リバース』である。同じく湊原作の『夜行観覧車』と『Nのために』の制作チームが再結集した。TBSは『陸王』の福澤克雄チームや、『天皇の料理番』の石丸彰彦チームなど、脚本・演出を同じ座組で制作することが多い。結果的にそれが同局のクオリティの高いドラマを生む。
同ドラマも主演の藤原竜也を筆頭に、共演の戸田恵梨香、玉森裕太、小池徹平、三浦貴大、市原隼人らが珠玉の演技を見せて、スマッシュヒット。ラストを湊サン自らドラマオリジナル用に書き換えたことも話題になった。

6月 ビートルズ来日で『ひよっこ』20%台へ

 4月からスタートしたNHK朝ドラ『ひよっこ』。開始2カ月ほどは視聴率18~19%台と低迷したが(もっとも、その責任は前ドラマの『べっぴんさん』にある。ラスト4週で19%台へ落ち込み、その流れが『ひよっこ』に持ち越されたから)、6月最終週のビートルズ来日のエピソードを機に20%台に上昇。さらに、有村架純演ずるヒロインみね子と、竹内涼真演ずる島谷が急接近する展開で、視聴率は右肩上がりへ。最終的に期間平均20.4%と、前ドラマを上回った。

 近年の朝ドラといえば、脇役陣に光が当たる“脇ブレイク”が名物だが、同ドラマも先のエピソードで竹内涼真が一躍ブレイク。
 そんな『ひよっこ』人気を支えたのは、彼ら役者陣の好演もさることながら、岡田惠和サンのハートフルな神脚本だった。また、桑田佳祐サンが歌う主題歌『若い広場』にも脚光。オープニングで流れる昭和をイメージさせるミニチュア映像は、ミニチュア写真家の田中達也サンと映像監督の森江康太サンによるコラボ作品。そんなスタッフたちの“総合力”で見せたドラマだった。

7月 月9を救ったガッキー『コード・ブルー』

 6クール連続平均一桁視聴率と低迷していたフジ月9が、久しぶりに平均二桁の14.6%と復活したのが、3rdシーズン目の『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)だった。脚本がそれまでの林宏司サンから安達奈緒子サンに変更され、不安視する向きもあったが、少なくとも視聴率の上では見事に期待に応えた。
とはいえ、本当の勝因は恐らく昨年(2016年)の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でガッキー(新垣結衣)人気がかつてないほど上昇し、お茶の間のガッキー・ロスがそのまま引っ張られ、半年後という絶妙のタイミングで同ドラマに着地したから。

 もちろん、ガッキー以外のメインの山下智久・戸田恵梨香・比嘉愛未・浅利陽介のメンバーも7年前の2ndシーズンからほとんど劣化しておらず、チーム力の勝利とも言える。教訓、月9が低迷するのは枠に原因があるのではなく、企画・役者・脚本次第で数字は取れる。

8月 『黒革の手帖』で武井咲株上昇

 原作の松本清張の没後25年となる今年、『黒革の手帖』がテレ朝で5度目のドラマ化。かつてアラサー女優が演じてきたヒロイン元子を歴代最年少の当時23歳の武井咲サンが演じるのは時期尚早との声もあったが、フタを開けたら、高身長・なで肩・細い首の3要素で着物姿が意外と様に。加えて、現代ものより、時代がかったドラマでキャラを立たせた方が彼女の演技が映えることも分かり、実年齢以上に銀座のママがハマり役に。視聴率も平均11.4%と健闘した。
これで武井サンには年上の役がハマると分かった以上、彼女は出産を経て、ある程度年齢を重ねても、女優復帰はラクかもしれない。出来れば、アラサー武井咲でもう一度『黒革の手帖』を見たい。

 そうそう、お約束だけど、同ドラマで高嶋政伸サン演じる橋田理事長の“怪演”っぷりも最高だった。もはや高嶋サンのシーンだけ空気感が違う。役者がハマリ役を得るとは、こういうこと。

9月 『過保護のカホコ』で竹内涼真人気爆発

 日テレの水10枠は“頑張る女性”の応援枠。7月クールの『過保護のカホコ』もそうで、箱入り娘が独り立ちするまでの物語だった。あの遊川和彦サンの脚本だが、元ネタは映画『ローマの休日』と言われており、箱入り娘がやんちゃな男の子と出会い、運命を切り開くフォーマットは王道中の王道。視聴率も最終回14.0%とスマッシュヒットした。
 勝因は高畑充希サンのコメディ演技がうまくハネたのと、朝ドラでブレイクした直後という竹内涼真サンの起用のタイミング。加えて、『ひよっこ』の優等生キャラとは真逆のキャラを引き出したことも、彼の魅力を広げるのに一役買った。

10月 テレ朝昼ドラ第2弾は鉄板の『トットちゃん!』

 テレ朝が倉本聰脚本の『やすらぎの郷』を引っ提げ、開拓した昼ドラ枠。その第2弾が黒柳徹子原作の『トットちゃん!』だった。『徹子の部屋』のテレ朝だけに、他局ではできない鉄板ドラマ。視聴率は前作に引き続き好調で、期間平均6.0%は、なんと前作を上回った。
 驚くのはそのクオリティだ。まるでNHKの朝ドラを思わせた。実際、脚本は『ふたりっ子』(NHK)の大石静サンだし、徹子の母・黒柳朝役に『ゲゲゲの女房』(NHK)の松下奈緒、その夫の黒柳守綱役に山本耕史と、盤石のキャスティング。徹子役にフレッシュな清野菜名サンを当てたのも、新人の登竜門の顔を持つ朝ドラを彷彿とさせた。感心したのは、徹子の祖母の門山三好役に、往年の朝ドラ『チョッちゃん』でヒロインを演じた古村比呂サンを起用したこと。これぞリスペクトの心得である。

 同ドラマは原作が黒柳徹子サンご本人なので、主要な登場人物がほとんど実名で登場するのも心強かった。森繁久彌、渥美清、野際陽子、坂本九、沢村貞子等々、全て実名である。高視聴率の背景には、フィクションに逃げない、そんな作り手の志がお茶の間に届いたからかもしれない。

11月 『ドクターX』シーズン5は横綱相撲

 『ドクターX』シーズン5の平均視聴率は20.9%、最高視聴率は25.3%。これは、同ドラマの過去のシーズンと比べても見劣りしない数字である。いや、昨今の連ドラの苦戦する視聴率事情を鑑みれば、むしろ伸びているようにも見える。主演の米倉涼子サンは今回のためにストイックに減量したというし(最終回で大門未知子がステージⅢの「後腹膜肉腫」を患っていることが判明)、期待されて、期待通りの結果を残すのは、やはり横綱相撲である。

同ドラマ、“現代の水戸黄門”とも言われ、偉大なるマンネリが指摘されるが、その一方で、例えば第1話で大地真央サンがゲスト・スターとして病院長役で登場した際、「患者ファースト」や「不倫で失脚」等々、時事ネタも積極的に投入した。守りを固める一方で、攻める姿勢も忘れない。強い理由である。

12月 『陸王』有終の美で20.5%

 そして、2017年の連ドラの有終の美を飾ったのが、クリスマス・イブに最終回が放映され、20.5%を叩き出した『陸王』(TBS系)である。シリーズものではない連ドラで20%を超えたのは、昨年10月クールの『逃げ恥』以来だ。

 とにかく、同ドラマは、演出チーフの福澤克雄サン率いるチームの企画・制作能力が半端ない。例えば、選手役の竹内涼真サンは、クランクインの3カ月前から本格的な走りの練習を始めたというし、劇中の大会シーンに数千人規模のエキストラを集めたりと、リアリティの追求が半端ない。こはぜ屋の古いミシン1つとっても、本物にこだわる姿勢に妥協がない。
 キャスティングも、今や映画にしか出ないイメージの役所広司サンを15年ぶりに連ドラに担ぎ出したり、いぶし銀の寺尾聡サンにクセのある役をやらせたり、竹内涼真と山﨑賢人という若手スターを贅沢にも脇で使ったりと、攻めの姿勢――。

本連載「TVコンシェルジュ」的には、2017年の連ドラでMVPを選ぶとしたら、やはり、この『陸王』を置いてほかにない。正直、福澤克雄チームの作品としては、あの『半沢直樹』や『下町ロケット』を超えるクオリティだと思う。

――とはいえ、ドラマの楽しみ方は人それぞれ。今回、ここに挙がらなかったドラマの中にも、傑作はまだまだあります。例えば、視聴率は低かったけど、7月クールの『僕たちがやりました』(フジテレビ系)なんて、攻めて攻めて、個人的には超・面白かったし。
 2017年――あなたの心に残る傑作ドラマは何ですか?

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第33回 2017-2018バラエティおさらいと展望

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ちょっと遅くなったけど、今年最初の『TVコンシェルジュ』はバラエティを語ろうと思う。

――とはいえ、一口にバラエティと言っても、現在、ゴールデンタイムで放送される番組の実に8割近くがバラエティ。当然、全部を網羅できるわけはなく、象徴的な番組をいくつかピックアップしたいと思う。

まず、今のバラエティ界で最も注目される番組の1つとして、これは外せない。今年のお正月――1月2日にも3時間スペシャルが放映された、テレ東の『池の水ぜんぶ抜く』である。第6弾となる今回の視聴率は13.5%。これは同番組史上最高だったんですね。ちなみに、過去6回の視聴率の
推移は――

  第1弾 8.3%
第2弾 8.1%
第3弾 9.7%
第4弾 11.8%
第5弾 12.8%
第6弾 13.5%

――惜しい! 第2弾さえ前回より上回っていたら、見事な右肩上がり。それにしても、テレ東のバラエティでこの盛り上がりは異常である。ちなみに、第4弾と第5弾は、裏のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』を視聴率で上回った。あのテレ東が、である。

タイトルに偽りなし

『池の水ぜんぶ抜く』の強さの秘密は何か。
よく言われるのが、そのシンプルなタイトルだ。実際、同番組は池の水を全部抜く。そこに何も足さない、何も引かない――そう、タイトルに偽りなし。ウケた理由の1つは、そんな分かりやすさにあると思う。

今や、テレビの視聴者はスマホ片手に番組を見る「ながら視聴」のスタイルが一般的。そんな時代に、小難しい番組は避けられる傾向にある。ある程度集中しないと話が分からないドラマの視聴率が落ちた一因はそんなところにもある。その点、『池の水~』は分かりやすさ満点だ。

タイトル=企画内容が意味するもの

思えばこの30年――テレビのバラエティで大事なのは、タイトルよりも鉱脈(ヒット企画)を掘り当てることだった。1980年代以前は、『クイズダービー』とか『クイズ100人に聞きました』とか、ストレートにタイトルが内容に直結した番組が多かったけど、90年代以降は、『進め!電波少年』とか『くりぃむナントカ』とか『中井正広のブラックバラエティ』とか『リンカーン』とか『今夜くらべてみました』とか――要するに、タイトルだけでは何をやっているのか分からないバラエティ番組が主流になった。

要は、司会を務める目玉キャストを押さえて(例えば、中居正広やダウンタウン)、あとは番組を転がしながらヒットの鉱脈を探り、ある企画が当たれば、それを広げていく――という戦略だ。『もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!』なんて、「帰れま10」の企画が当たって、途中からそればかりになり、とうとうコーナーが独立して番組になったほど。

そんな中、『池の水ぜんぶ抜く』は、最初からタイトル=企画内容である。つまり、「この番組はこの企画一本でやりまっせ!」という姿勢。実に潔いし、何よりそれは、「池の水を全部抜く」という企画が優れていることを意味する。そう、企画を転がす必要がないのだ。

王道エンタテインメントのフォーマット

そう、『池の水ぜんぶ抜く』は、その奇抜なタイトルばかりに目が行きがちだけど、同番組が強い本当の理由は、その極めて王道なエンタテインメントのフォーマットにある。順を追って説明しよう。

① まず、池という身近なロケーション。基本、生活圏内にあり、なじみ深い。取材先がアマゾンのジャングルの秘境だと感情移入しにくいけど、近場の池ならスッと入り込める。ほら、ドラマだってどこか遠くの星の異星人の話より、ごく普通の家庭の話の方が感情移入できるでしょ? あれと同じ。まず、これが一点。
 
② 次に、池の水を全部抜くことで、絵的に動きのある大きな変化が見られる。普段見られない広大な池の底が現れる。実にダイナミック。このビジュアルの変化は極めてテレビ的である。
 
③ 3つ目は、水が減るに従って現れる“外来種”という悪役だ。建前上、番組はこの外来種を駆除して、池を在来種のみの正常な環境に戻すのが大義名分である。地元の行政やボランティアの皆さんがお手伝いしてくれるのは、それゆえ。だが、大義名分と言いつつも、この「悪を退治する」図式は見ていて分かりやすい。勧善懲悪――これもテレビの王道である。
 
④ そしてクライマックス――池の底から現れる予想だにしない物体X。番組的にはこちらが真の目的だ。時にそれは、大阪・寝屋川市の池に潜んでいた北米原産の超巨大肉食魚「アリゲーターガー」だったり、日比谷公園の池に沈んでいた江戸時代の家紋入りの瓦といった“お宝”だったりする。そう、番組終盤にやってくるメインイベント。池の水を全部抜いたからこそ判明する最大の見せ場である。

――いかがです? ①馴染みのあるロケーションに、②池の水が全部抜かれるビジュアルのインパクト、③外来種を駆除する勧善懲悪のスタイル、④クライマックスにやってくる謎の物体X――と、同番組は極めてテレビ的に王道のフォーマットなのだ。奇をてらったワケでもなんでもない。人気があるのはそういう理由。勝ちに不思議の勝ちなし、である。

能動的に働くゲスト

同番組は、ロンブー淳とココリコ田中の2人のMCに、外来生物研究の第一人者の加藤英明氏と、環境保全のスペシャリストの久保田潤一氏の2人の専門家がレギュラーメンバーである。4人のチームワークは盤石だ。しかし、同番組で特筆すべきは、そのゲスト陣なのだ。

例えば、第3弾に出演した伊集院光は、この番組が大好きで、自らゲストに志望したという。そして以後、同番組が話題になるにつれ、この伊集院パターンが定例化する。第4弾ではあの芦田愛菜が自ら望んで登場。顔に泥をつけて外来種の駆除に奮闘する活躍ぶりだった。第5弾では小泉孝太郎、第6弾では満島真之介らが出演し、いずれも同番組のファンと公言し、積極的に活躍した。

そう、昨今、俳優がバラエティ番組にゲスト出演するケースはドラマや映画などの番宣が多い中、同番組は違う。純粋に企画に賛同して自ら志願して出演してくれるのだ。そのため、彼らは能動的に行動する。役者なのに、商売道具の顔に泥を付けて奮闘する。こういう絵はなかなか他のバラエティでは見られない。

企画の保険をかけない

同番組のプロデューサーは、『モヤモヤさまぁ〜ず2』でお馴染みのテレ東の名物男、伊藤隆行Pである。
今年のお正月にNHKで放映された恒例の『新春テレビ放談』(毎年、年始にやってる「テレビ」をテーマにした座談番組。局の垣根を越えてパネリストたちが語り合うのが超面白い)において、彼が同番組を立ち上げた経緯を明かしていたんだけど、これが興味深かった。
伊藤P、上から「大河の裏で戦える番組を」と言われたので、この『池の水ぜんぶ抜く』の企画を提出したところ、こう言われたそう。「面白そうだけど、企画の保険がかかってない」――。

「企画の保険」って?
視聴率を担保するための、文字通り“保険”だ。例えば、出演者が豪華だったり、お得な知識や情報を学べたり、テレビ的に映える「絶景」や「絶品グルメ」を見られたり――。これに対し、伊藤Pはこう反論したそう。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」って。

大きな企画

結局、その時は伊藤Pが押し切って、同番組は日の目を見たんだけど、このエピソードはとても大事な教訓を含んでいる。
つまり――昨今のテレビをつまらなくしている一因は、この「企画の保険」を求める風潮にあること。キャスト優先主義が過ぎるあまり、テレビ界はいつまで経っても同じ顔ぶればかりで新陳代謝が進まないし、お得な知識や情報を求めるあまり、昨今のバラエティは「情報バラエティ」ばかりが氾濫してるし、「絶景」や「絶品グルメ」の企画に至っては、もはや食傷気味である。

そうではなく、今のテレビに求められるのは「大きな企画」なのだ。何か1つの大きな企画の柱があり、そこに集中して番組を構成すること。『池の水ぜんぶ抜く』をはじめ、『YOUは何しに日本へ?』や『家、ついて行ってイイですか?』などのテレ東のバラエティが近年好調なのは、そういうことである。

2つの伝説の番組の終了

さて、一旦、話題を変えて、この春に終了する2つの番組に触れたいと思う。もう何度も報道されている通り、フジテレビの伝説のバラエティ番組――『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下/『みなおか』)と『めちゃ×2イケてるッ!』(以下/『めちゃイケ』)がこの3月で幕を閉じる。

『みなおか』は、前身番組の『~おかげです』を含めると30年半、『めちゃイケ』は22年半と、共にフジテレビ黄金期を支えた偉大な番組だ。
とはいえ、両番組とも近年は視聴率が一桁台と低迷しており、フジが民放4位から浮上するためには必要な勇退だった。気がつけば、とんねるずの2人は50代後半、ナインティナインの2人は40代後半。いつまでもお笑い番組の最前線でプレイヤーとして活動するのは、ちょっとキツいかもしれない。

そう、お笑い番組の終了――。
今回、この2つの番組の終了について注目すべきは、この点なのだ。

消えゆくお笑い番組

コラムの冒頭、ゴールデンタイムにおけるバラエティ番組が締める割合は約8割と述べた。
だが、一口にバラエティと言っても、それこそ多様性がある。昨今多いのは、何かを学べる“情報バラエティ”と、ゲストを招いたり、あるテーマについて語り合う“トークバラエティ”の2つだ。これに、食レポや旅もの、チャレンジものといったロケのVTRが付随するフォーマットが一般的。スタジオがクイズ形式になることもある。

それに対して、衰退傾向にあるのが、いわゆる芸能バラエティだ。これは大きく2つのカテゴリーに分けられ、1つは、純粋にネタを披露する“ネタ見せ番組”。かつては毎週のように各局で見られたが、今や『M-1グランプリ』や『キングオブコント』など、スペシャルにその主軸を移してしまった。
もう1つが――先の『みなおか』や『めちゃイケ』も含まれる“お笑い番組”だ。かつてはコントやパロディが主流だったが、次第に企画モノやロケものの比重が増えていった。ただ、一貫して“笑い”を追求する姿勢は変わらない。

しかし――今やこの“お笑い番組”は絶滅危惧種なのだ。

バラエティの系譜

元々、バラエティは“ヴァラエティ・ショー”と呼ばれ、それこそテレビの黎明期から存在する人気のジャンルだった。
お手本はアメリカの番組で、これを模倣して、日本に取り入れたのが、かの日本テレビの井原高忠プロデューサーである。当時のヴァラエティは歌とコントの2本柱で、クレージーキャッツやザ・ドリフターズら、昭和の“笑い”をけん引したグループが元はバンドだったのはその名残だ。

それが1980年の漫才ブームを起点に、お笑い芸人が一気にテレビに進出。コントやパロディをベースとする新たなバラエティが量産された。その中心にいたのがビートたけしや明石家さんまで、70年代以前の作り込まれた笑いと違い、楽屋オチや業界ネタなどのホンネの笑いが特徴だった。

その一方、80年代はクイズ番組も進化を見せる。それまでバラエティから独立したジャンルとして、主に視聴者参加のフォーマットだったクイズ番組が、80年代以降、芸能人を解答者とするバラエティ番組へと変貌する。単なるクイズの正誤を競うスタイルから、トークやお勉強の要素も加味され、これが今日の“トークバラエティ”や“情報バラエティ”に発展する。

バラエティ・ビックバンの90年代

そして90年代、バラエティ番組はビックバンのごとく大拡散を遂げる。キーワードは「ダウンタウン」と「カメラの小型化」である。

まず、ダウンタウンの登場で、2人に憧れる全国の面白い若者たちがこぞってお笑い芸人を目指すようになり、吉本NSCをはじめとする芸能事務所の養成所の門戸を叩く。現在、テレビ界はお笑い芸人たちがバラエティに限らず、あらゆる番組に進出しているが、この飽和状態を招いた元凶はダウンタウンである。

もう1つが、カメラの小型化によるロケ企画の増大だ。火を着けたのは、かの『進め!電波少年』(日本テレビ系)である。それまで大きく重いテレビカメラを担いでのロケは、装備や人員を要して大変だったが、技術が進んでカメラが小型化したことで、カメラマン一人でのロケが可能になった。かくして、同番組は“ドキュメント・バラエティ”の手法を確立する。世界的なリアリティショー・ブームが起きたのも同じ頃である。

これ以降、バラエティ番組にロケ企画は定番となり、食レポや旅もの、チャレンジ系の番組が増大する。

2000年代のお笑いブームと収束

ロケものバラエティが増殖した90年代――。その反動からか、2000年代に入ると、『笑う犬の生活』(フジテレビ系)を皮切りに、コント系の“お笑い番組”が見直され、『ワンナイR&R 』や『はねるのトびら』といった若手お笑い芸人たちの活躍の場が次々に誕生した。
一方、『爆笑オンエアバトル』(NHK)を起点に“ネタ見せ番組”も注目され、『エンタの神様』(日テレ系)のブレイクを機に、『爆笑レッドカーペット』(フジ系)などの同種の番組が各局に氾濫した。

2000年代半ばに訪れた空前のお笑いブーム。ここまでの盛り上がりは80年の漫才ブーム以来である。

だが、とかくブームというものは長続きしない。急速に彼らがお茶の間に消費されると、お笑い番組もネタ見せ番組も、次第にネタ切れとクオリティの低下が叫ばれるようになり、2010年代に入ると、相次いで打ち切られた。

変わって台頭したのが、先にも述べたトークバラエティと情報バラエティである。そして現在、バラエティの主流はこの2つとなっている。あとは、ここ数年の風潮として、お散歩番組の隆盛くらいだろうか。

伝説の2つの番組の位置づけ

さて――少々遠回りになったが、ここで『みなおか』と『めちゃイケ』の話に戻りたいと思う。
2つとも、バラエティのカテゴリーでは衰退しつつある“お笑い番組”に該当する。『みなおか』は80年代に始まったことからも分かる通り、ベースにあるのは楽屋オチや業界ネタなどのパロディだ。
一方の『めちゃイケ』はこれも90年代に生まれたことが象徴するように、ロケもののドキュメント・バラエティがベースにある。

いずれも、メインキャストである、とんねるずとナインティナインは時代を象徴するアイコンとなった。最高視聴率は『みなおか』が『~おかげです』時代の29.5%、『めちゃイケ』が33.2%である。共にフジテレビの三冠王に貢献し、功労賞の側面から、バラエティが時代の荒波で移り変わる中でも、長くアンタッチャブルな案件として残されてきた。

終了発表もそれぞれのカラーで

だが、フジテレビが民放4位に転落し、現状ではなかなか浮上の目がない――相当重症だと分かってきたタイミングで、恐らく阿吽の呼吸というか、双方の番組とも自ら退く決意に至ったと思われる。

番組内での終了発表は、これまた各々のカラーを反映したものだった。『みなおか』はとんねるずの2人がお馴染みの「ダーイシ」と「小港」に扮して、初代プロデューサーの港浩一サン(現・共同テレビ社長)の前で「番組が終わっちまうんだよぉ」と終了発表。最後まで楽屋オチなところも彼ららしかった。

一方の『めちゃイケ』は、これまた番組の最高責任者である片岡飛鳥総監督から突然、ナイナイ岡村に「『めちゃイケ』、終わります」と告げられ、岡村が「……リアルなやつですか?」と返し、そこからメンバー全員に岡村自ら終了を伝える様子をドキュメントで見せる、番組お馴染みのスタイルだった。

片や楽屋オチ、片やドキュメント――終了発表すらも番組のネタにしてしまうところが、お笑い番組たる所以である。

お笑い番組絶滅の危機

しかしながら、この2つの番組の終了は、別の意味で大きな意味を持つ。既に報道されているが、それぞれの後継番組は、『みなおか』の後が坂上忍MCの情報バラエティ、『めちゃイケ』の後が『世界!極タウンに住んでみる』という旅もののバラエティだ。
いずれも情報バラエティや、ロケVTRをベースとしたトークバラエティで、昨今のバラエティの主流である。

そう、『みなおか』や『めちゃイケ』の終了は、単なるフジテレビの改編に留まらず、テレビ界全体にとって“お笑い番組”が2つ減ることを意味するのだ。

企画の保険が招いたテレビ離れ

気がつけば、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティを見渡しても、純粋なお笑い番組はほとんど見当たらない。目に付くのは、情報バラエティやトークバラエティばかりである。

いずれも、お笑い番組と違って“大負け”しないのが特徴だ。そこそこの視聴率が保証されている。それが「企画の保険」が働いているということ。出演者が豪華だったり、何かお勉強できたり、絶景や絶品グルメのVTRが見られたり――etc.
しかし、大負けしないということは、裏を返せば、大勝ちもしないということ。ブレイクしない、弾けない――それ即ち、昨今の「テレビ離れ」を招いている元凶でもある。

ここで、あらためて『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤Pの言葉が思い出される。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」――そう、今こそバラエティはこの原点に立ち返る時期に来ているのかもしれない。

フジテレビさん、今がその時じゃないですか?

日テレvs.TBSのバラエティ戦争

ここからは2018年のバラエティ界の展望を見ていきたいと思う。
現在、バラエティで圧倒的な強さを見せるのは、やはり日本テレビだ。昨年、同局は年間視聴率で4年連続の三冠王(全日・ゴールデン・プライム)を達成したが、それはひとえに、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティが好調だからである。

一方、現状でそれに唯一対抗できる可能性のある局はTBSだろう。近年、同局は少しずつ話題になるバラエティが増えており、例えば、昨年は『プレバト!!』が「俳句」のコーナーでブレイク。その健闘もあって、同局は年間視聴率で10年ぶりにゴールデン帯2位に返り咲いた。

とはいえ、日テレのバラエティを横綱とすると、TBSはまだまだ小結あたり。今年はこの差がどこまで縮まるかが見どころになる。

イッテQの強さの秘密

では、日テレのバラエティの強さを紐解いてみよう。
現在、同局のバラエティのトップを走るのは『世界の果てまでイッテQ!』である。昨年、番組開始10周年を迎え、視聴率は安泰どころか上昇傾向にある。アニバーサリー月となった2月は毎週のように20%台を連発。“テレビ離れ”が叫ばれる昨今、この強さは驚きである。

人気の秘密は、今の地上波が考え得る最高のフォーマットにある。家族で安心して見られて、ウッチャンを中心にスタジオはアットホームな雰囲気で、ロケのVTRは基本がんばる系の企画で、毎回それなりの達成感がある。いわゆる少年ジャンプの「友情・努力・勝利」みたいなカタルシスがある。お茶の間で家族揃って楽しめる――地上波において、これに勝る視聴習慣はない。

それと、これまでもイモトアヤコや宮川大輔ら、同番組は最初から人気者をブッキングするのではなく、自ら人気者に育てるスタイルをとってきたが、昨年は「世界の果てまでイッタっきり」の企画で、見事に“みやぞん”がブレイク。これも同番組の視聴率を押し上げる要因になった。

家族で楽しめるフォーマットに、自ら新しい人材を育てるスタイル――同番組に象徴されるこれらの要素は、日テレの他の番組でも見受けられる。同局のバラエティの強さの秘密である。

追うTBSの戦略

だが、一見、盤石に見える日テレのバラエティだが、弱点もある。
それは、家族で楽しめるフォーマットを優先するあまり、尖った企画がやりにくいこと。それと、軒並み長寿番組なので、必然的に金属疲労に陥りやすいこと。

つまり、日テレが王道なら、これに対抗するTBSがとる戦略は、古代中国の儒家の教えに従うなら「覇道」しかない。
覇道――テレビの世界に置き換えるなら、それ即ち、強烈な毒を含む演出だったり、ある特定のターゲットに響く濃い企画のことである。比較的新しいバラエティが多いTBSは、思い切った戦略がとれるのだ。

『プレバト!!』がブレイクした理由

例えば、先に挙げた『プレバト!!』もその戦略で伸びている番組の1つ。今や同番組は「俳句の才能査定ランキング」のコーナーが大人気。人気の秘密は、「俳句」という素材が極めてテレビ的だからである。
まず、五・七・五の短い文章の中に世界観を盛り込めるし、ビジュアル的に1ショットで作品を見せられる。歴史あるジャンルだから批評にも説得力がある。極め付けが、センスがモノを言う一方で、たまに一発逆転もある――まさにテレビ的。しかし、同コーナーがブレイクした真の立役者は、俳人の夏井いつき先生の容赦ない「毒舌」なのだ。

そう、生徒たちが詠んだ自信作を容赦なくぶった切る“寸評”だ。見ていて爽快感すらある。それでいて、夏井先生自身は天然で、時々ボケを発して浜ちゃんにツッコまれるので、どこか憎めない。
同番組が視聴者を惹きつける所以である。

『水曜日のダウンタウン』に見るバラエティの可能性

TBSの覇道路線を語る上で、もう一つ外せない番組がある。『水曜日のダウンタウン』だ。
テレビ界には、俗に「面白い番組は面白い社員が作る」なる説があって(そのうち番組で検証してもらいたい)、同番組も演出の藤井健太郎サン抜きには語れない。この方、『クイズ☆タレント名鑑』や『クイズ☆正解は一年後』も作った人で、TBSの名物男。とにかく攻めの番組作りが得意な人でなんですね。

個人的には、一昨年の秋に放映した「水曜日のダウソタウソ」が傑作だった。この回、ダウンタウン以下、出演者全員がそっくりさんなんだけど、一切そこには触れず、いつもの体裁で番組が進む。スタジオに漂う超・違和感。しかし、流すVTRは過去の傑作選で、こちらは本物。要は総集編のフリの部分をそっくりさんにやらせるギミックなのだ。有り体の総集編にせずに、一枚フェイクを噛ませるところに藤井サンの非凡さがある。

ちなみに、最近の回で面白かったのは、昨年暮れに放映されたクロちゃんにドッキリを仕掛ける「フューチャークロちゃん」の回。何が凄かったって、番組の終盤、思いを寄せる女の子が仕掛け人と気づいたクロちゃんが、分かっていながら自ら落とし穴に落ちる悲しい展開。もはやバラエティを超えた人間ドラマだった。

テレ朝の危機

テレ東、フジ、日テレ、TBSと来て、民放キー局で1つだけ外すのもアレなので、最後にテレ朝のバラエティに触れたいと思う。

同局のバラエティと言えば、長らく『アメトーーク!』だのみの状況が続いているが、気がつけば、ゴールデンで戦えるバラエティが枯渇している状況にある。かつて深夜で新しいバラエティが生まれ、次々にゴールデンに上げて成功した栄光も過去の話。昨年はとうとうTBSに年間視聴率でゴールデン帯を逆転されてしまった。

そんな中、同局で唯一の光明とも言える番組が、ナスDこと友寄隆英ゼネラルプロデューサーが活躍する『陸海空 地球征服するなんて』である。だが、これも単純に喜んでばかりもいられないのだ。

ナスDの立ち位置

先に、「面白い番組は面白い社員が作る」と申し上げたけど、確かに、『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤隆行Pや『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎D、『アメトーーク!』の加地倫三GPなど、名物番組には名物社員が付きものである。その意味で『陸海空~』もナスDという名物社員が手掛けており、この法則に沿っている。

だが、1つ問題がある。同番組におけるナスDの立ち位置は、ゼネラルプロデューサーでありながら、出演者でもある。つまりプレイヤーだ。これは何を意味するかというと、誰もナスDのやることに異を唱えられないのだ。

社員が演者になることの是非

番組作りは、役割分担でもある。作家が台本を書き、ディレクターが演出をつけ、演者が演じ、カメラマンが絵を撮る。それぞれの得意分野を持ち寄り、1つの番組が完成する。そしてクオリティを一定に保ちながら、毎週のオンエアに乗せていく。これがプロの仕事だ。

だが、ナスDの行動を許してしまうと、例えそれが最高に面白くても――いや、面白ければ面白いほど、芸人は仕事を失い、編集するディレクターはテープを切れなくなる。それは結果的に、番組を一定のクオリティで毎週オンエアすることを難しくする。

石原隆サンの仕事術

かつて、フジテレビの面白いドラマは必ず、この男が携わっていると言われた社員がいる。石原隆サン(現・編成統括局長)だ。『古畑任三郎』や『王様のレストラン』、『踊る大捜査線』に『HERO』など、数々のヒットドラマは石原サン抜きには生まれていない。

そんな石原隆サンには、1つの信条がある。それは――「作家の台本に筆を入れない」こと。正直、国内外の映画に誰よりも精通し、並みの脚本家では到底太刀打ちできない豊富な知識と技量を持ちながら、石原サンは相手が新人脚本家であっても、直しが必要なら言葉で語り、脚本家自身に書き直してもらう。それが自分に課せられた役割と自負しているからである。

実際、それで石原サンは同時期に複数のドラマと映画を手掛け、高いクオリティの作品を次々に世に送り出した。石原サン自らが筆を入れていたら、とてもそんなペースで仕事は回らない。餅は餅屋なのだ。

ナスDへの期待

そう、ナスDに課せられた役割も、石原隆サンと同じじゃないだろうか。
あれほどのバイタリティーとテレビの見せ方を知り尽くした御仁である。本来、その類まれなる才能は自らプレイヤーになるのではなく、『陸海空~』をはじめとして、テレ朝のバラエティ全体を立て直すために、広く生かされるべきである。

同局のバラエティの復活は、ナスD――友寄隆英ゼネラルプロデューサーの手にかかっていると言っても過言ではない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第34回 連ドラを最終回から見ちゃいけないって誰が決めたんですか?

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ドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)の3rdシーズンにこんな話がある。

津川雅彦演じる小説家の安斎が、小学校時代に同級生だった古畑を家に招く。安斎は、若い妻が編集者と浮気していることに絶望し、自らの命と引き換えに彼女を陥れる犯罪を計画する。それは拳銃で自殺して、妻が殺したように見せかけ、古畑に逮捕させるというもの。しかし、古畑に計画を見破られ、未遂に終わる。老い先短い人生を思い、悲嘆に暮れる安斎。この時の古畑の台詞がいい。

古畑「また一からやり直せばいいじゃないですか」
安斎「俺たちはいくつになったと思っているんだ。もう振り出しには戻れない」
古畑「とんでもない。まだ始まったばかりです。いくらでもやり直せます」
そして安斎に詰め寄り、こう諭す。
古畑「よろしいですか、よろしいですか。例え、例えですね。明日、死ぬとしても、やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

――この回は、『古畑』史上唯一事件が未遂に終わり、犯人が逮捕されない珍しい回となる。え? 再放送もやっていないのに、いきなり何の話を始めるんだって?
いえ、これには理由があるんです。皆さん――最近、ドラマ見てます? 1月クールの連ドラ。多分、最初のほうは見ていたけど、途中から平昌オリンピックが始まったりして、何話か見逃すうち、いつしか脱落していた――なんて人も多いのでは。もう、終盤だし、最終回は目前。今から見直しても話についていけない、と。

そこで、冒頭の話です。古畑に倣って、そんな方々に僕はこう訴えたい。
「例え、例えですね。明日、最終回だとしても――連ドラを最終回から見ちゃいけないって、誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

山田太一さんの連ドラ理論

これは、本連載でも前に一度紹介したけど、脚本家の山田太一先生が連ドラの在り方として、こんな趣旨のことを話されたことがあった。
「連続ドラマというのは、映画館で見る映画と違い、視聴者がアタマから黙って見てくれるものじゃないし、途中2、3話飛ばされることもある。それでも、ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる。そういうドラマが優れた連続ドラマだと思います」

いかがだろう。先ほどの古畑の言葉と併せて、この山田先生の言葉を解釈すると――例え、最終回からドラマを見始めたとしても、十分楽しめるということになる。そう、今からでも遅くはないのだ。皆さん、連ドラを見ましょう。例え、それが最終回からでも――。

そこで今回は、僕がおススメする1月クールの連ドラの見どころをサクッとご紹介したいと思います。

名人・野木亜紀子がオリジナルに挑んだ『アンナチュラル』

まず、TBS金ドラ枠の『アンナチュラル』である。ご存知、脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でもお馴染みの名人・野木亜紀子サン。これまでは原作付きの脚色が多かった彼女だけど、今回はオリジナルに挑戦。しかも、法医学ミステリーという、かなり難易度の高い分野だ。正直、さすがの野木サンでもどうかと思ったが――いやいや、前言撤回。驚いた。これが、めちゃくちゃ面白いのだ。

物語の舞台は、不自然死究明研究所なる架空の施設。通称「UDIラボ」。石原さとみ演ずる主人公・三澄ミコトは、そこに勤める法医解剖医。不自然な死(アンナチュラル・デス)を遂げた死体を解剖して、死因を究明するのが彼女の仕事だ。

共演陣に、ミコトのよき相棒として市川実日子演ずる臨床検査技師の東海林夕子、そして窪田正孝演ずる医大生のバイトの久部。一方、UDIにはもう一人、法医解剖医がいて、全く組織に馴染もうとしない中堂を演じるのが、井浦新。そして、彼ら個性的なメンバーを束ねるのが、どこかトボけた神倉所長。演じるのは松重豊サン――。

そのフォーマットは『踊る大捜査線』

物語は基本、一話完結である。ただ、石原さとみ演ずる主人公ミコトの幼少期に壮絶な事件があったり、井浦新演ずる中堂の抱える秘密があったりで、ゆるく連続ドラマ的な側面もある。その意味では、あの『踊る大捜査線』に近い。だからUDI内の人間関係も刻々と変わる。

で、野木サンの脚本だけど、これがもう、神レベルなのだ。もはやハリウッド・ドラマのクオリティに近い。毎回2転、3転あって、表層的な事件だけじゃなく、人間の内面に訴える展開もある。それでいて連ドラ的に話も転がるから、次の回も気になって仕方ない。

そして特筆すべきは、その演出。これはヒロインである石原さとみサンの力も大きいけど、基本ライトコメディで見やすいんですね。法医学というと、つい暗い話を連想しちゃうけど、いえいえ、全然明るい。それって、連ドラにとってすごく大事なことなんです。かと言って、ちゃんと締めるところは締めるから、ふざけた話にならない。要はメリハリが効いているということ。

ハイ、今クール一番というより、今年一番のドラマだと思います。まだ1月クールだけどね(笑)。

吉岡里帆の単独初主演作『きみ棲み』

次に取り上げたいのが、同じくTBSの火曜10時の『きみが心に棲みついた』である。この枠は近年、『逃げ恥』や『カルテット』などの話題作が放映され、枠としての注目度も高い。比較的ドラマ好きの人たちが好んで見る枠で、作り手のモチベーションも高く、新しいことにチャレンジしやすい良枠だ。

で、1月クールは、吉岡里帆主演の『きみ棲み』。なんと言っても、彼女にとって初の単独主演ドラマになる。今、最も伸び盛りの女優なだけに、これは期待せずにはおられない。
――と言いたいところだけど、脚本は、深キョンとディーン・フジオカが共演した『ダメな私に恋してください』(通称・ダメ恋)や、波瑠と東出昌大が共演した『あなたのことはそれほど』(通称・あなそれ)の吉澤智子サン。いずれも同枠で放映されたドラマで、後半、視聴率を上げたのはよかったんだけど――特に『あなそれ』に顕著だったんだけど、軽く炎上したんですね。

そう、放映前から脚本に一抹の不安があったんです(笑)。そうでなくても、吉岡サンは同性の視聴者から誤解されやすい。炎上に発展しなければいいが――。
だが、悪い予感は当たる。

生温かい目で、ネタとして楽しみたい『きみ棲み』

『きみ棲み』は原作(コミック)付きのドラマである。だから、脚本が全て悪いワケじゃない。あらかじめ、そこはフォローさせてください(笑)。

まず、吉岡里帆演ずるヒロイン今日子は、下着メーカーに勤めるOLである。その性格は、昔から自分に自信が持てず、動揺すると挙動不審になるため、あだ名は「キョドコ」。まぁ、それはいい。
そんな彼女には、ある心のトラウマがある。それは、大学時代に知り合った、向井理演ずる星名に「君はそのままでいい」と言われ、つい好きになってしまい、彼の言うままに行動したところ、心も体も傷ついてしまったこと。これが物語のベースになる。

そして1話。会社の先輩から合コンに誘われたキョドコ。そこで、桐谷健太演ずる編集者の吉崎と出会うが、ストレートな性格の彼から説教を食らい、逆にその誠実な性格に惹かれる。最初はキョドコを避けていた吉崎も、次第に彼女の素直さに気づき、2人は接近する。しかし、キョドコの前に、再び星名が現れ――という三角関係。

視聴者の心情としては、キョドコと吉崎にくっついてもらいたいんだけど、星名から頼まれごとをされると断れないキョドコもいて(実は心の中では今も彼が好き)、下着姿でランウェイを歩かされたりして、「何やってんだよ!」とテレビの前でツッコんでしまう。

まぁ、早い話がヒロインに感情移入しづらいんだけど、それは吉岡里帆サン自身も分かっていて――とはいえ、役者というのは元来、変わった役をやりたがる生きものでもあり、彼女なりに前向きに演じている。
そんな次第で、生温かい目で、ネタとして楽しみましょう(笑)。

平凡なキムタクが見られる『BG〜身辺警護人〜』

続いて、テレビ朝日の『BG〜身辺警護人〜』である。ご存知、主演は木村拓哉。テレ朝の連ドラは『アイムホーム』以来3年ぶり。枠も前回と同じく、あの『ドクターX』と同じ木9枠だ。

で、キムタクと言えば視聴率だけど、中盤まで平均14%台半ばと、前回の『アイム~』と同じくらい。昨今の連ドラは2桁行けば御の字、十分だと思います。さすが木村拓哉。
そして脚本は、前に『GOOD LUCK!!』(TBS系)と『エンジン』(フジテレビ系)で彼と組んだことのある井上由美子サン。キムタクに何をやらせればいいのか、わかってる脚本家の一人ですね。

物語は、かつて有名プロサッカー選手のボディーガードを務めた、キムタク演ずる島崎が、とある事故の責任を取り、今はしがない民間警備会社で働いているところから始まる。社内の部署異動で再びボディーガードの仕事に就くが、腕は確かだけど派手な立ち振る舞いを好まず、堅実な仕事を身上とする。その辺りのキャラ設定は、1話で江口洋介演ずる警視庁SPの落合に対し、民間ゆえに、あえて丸腰で犯人と接する意味を説いたりして、これは見応えがあった。

鍵は平凡・キムタクの中年バージョンの確立か

そう、要は“平凡・キムタク”の路線なんです。系譜としては、かつての『あすなろ白書』や『ラブジェネレーション』、『GOOD LUCK!!』に近い。

その、警視庁SPに対する“民間警備会社のボディーガード”という立ち位置は、あの『踊る大捜査線』の本店に対する“所轄”を連想させる。それって、ドラマの主人公としては王道なんですね。小さな仕事を地道に遂行していたら、大きな仕事にぶつかって、結果的に大きな仕事まで解決してしまうのは、この種の物語の定番フォーマット。1話は比較的、その構造がうまく行っていたと思います。

ただ、回が進むごとに、かつての“一流ボディーガード”のキャラが見え隠れして、時おりスーパーマンぶりを発揮するのが、ちょっと惜しい。やるなら、過去の栄光を封印して、とことん平凡キャラで行くのも1つの美学。でも、思い切ってそこへ振り切れないのは、キムタク自身に迷いがあるからかもしれない。
若い時の彼なら、『あすなろ白書』であえて脇の取手クンの役を選んだように、引き算の芝居ができたんだけど、それは当時の彼の“自信の裏返し”でもあったワケで――。今の木村拓哉にそれを求めるのは少し酷かもしれない。

ただ、日本屈指の名優であるのは確かなので、その脱皮に期待したい。

『もみ消して冬』は類似作のない異色コメディ

さて、続いて紹介するドラマは、日テレの土曜ドラマ『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』である。
最近はジャニーズの主演作が多い土曜22時枠だけど、今回もHey! Say! JUMPの山田涼介が主演を務める既定路線。脚本は、『プロポーズ大作戦』や『世界一難しい恋』の金子茂樹サンで、彼もまたジャニーズ主演作を書くことが多いが――昔から独特の作風で知られる人で、それは今回も同様である。

そう、このドラマ、かなり異色作なんですね。普通、ドラマは何らかの元ネタがあるものだけど、同ドラマに限っては類似作が見当たらない。山田涼介演ずる主人公・北沢秀作は華麗なる一族の末っ子で、エリート警察官。兄と姉がおり、小澤征悦演ずる兄・博文は天才外科医、波瑠演ずる姉・知晶は敏腕弁護士、そして一家の主は中村梅雀演ずる私立中学の学園長の父・泰蔵である。同ドラマはこの一家が繰り広げる異色コメディなのだ。

見どころは、ドSキャラの波瑠

物語は、北沢家に起きた不祥事を、兄と姉から、末っ子のエリート警察官である秀作がもみ消し工作(軽犯罪!)を押し付けられ、それを解決することで一家が平和を取り戻すというもの。いちいち「火曜サスペンス劇場」の音楽がかかったりして、コメディ全開だ。話自体もさることながら、中でも一番の見どころは――波瑠である。

本来、役者の格で言えば、彼女は主役を張るべき人である。だが、『世界一難しい恋』で脚本の金子茂樹サンと組んだ縁だろう、今回は敢えて脇に甘んじている。そして、その「ドSキャラ」が実にいいのだ。伸び伸びと演じている。

同ドラマはオリンピックの開幕前まで視聴率二桁と堅調に推移してきたが、それは波瑠のおかげと言っても過言じゃない。それくらいのハマり役なのだ。以前、彼女が主演した朝ドラ『あさが来た』のヒロイン・あさ以来と言ってもいい。彼女を見るために、このドラマはあるとも――。

『トドメの接吻』はよくある話だが…

そして最後に紹介したいのが、日テレの日曜ドラマ『トドメの接吻』である。このドラマ、早い話が、よくあるタイムリープものですね。アニメ『時をかける少女』や、漫画原作の『僕だけがいない街』と同じ系譜。時間をさかのぼって、何度も人生をやり直すというもの。

同ドラマは、山﨑賢人演ずる主人公・旺太郎の前に、ある日、門脇麦演ずる謎の女が現れ、無理やりキスされるところから始まる。気がつくと、なんと一週間前に戻っている――。鍵は“キス”。やがて旺太郎はこのからくりに気づき、学習することで自らの運命を変えていく。

この物語には、1つの大きな背景がある。それは12年前の海難事故。旺太郎の父が船長を務めるクルーズ船に、幼い旺太郎が弟・光太と密かに乗り込み、その時に事故が起こる。旺太郎は救出されるが、光太は消息不明に――。

そして現代――。実刑判決を受けた父の代わりに、賠償金を払うことになった旺太郎はホストとなり、客の金に執着するクズ男になっていた。そんなある日、100億の資産を持つセレブの令嬢・美尊(新木優子)が友人に連れられ来店する。美尊を格好の金づると狙いを定めた旺太郎は、彼女に取り入るために、何度もタイムリープを繰り返す――。

山﨑賢人vs.新田真剣佑

同ドラマの見どころは、この“クズ男”のホストを演じる山﨑賢人ですね。これが実に似合っている(笑)。チャラい、あくどい。普通、主役はどこかで賢者モードになりたがるけど、クズ男を振り切って演じる山﨑賢人サンはさすがである。

そして、もう一つの見どころは、山﨑賢人演ずる旺太郎が、美尊に会いに乗馬倶楽部を訪れた際に出会う、彼女の兄――新田真剣佑演ずる尊氏だ。こちらも、真剣佑お得意のキャラというか、段々とダークサイドに落ちていく描写が実にいい。

正直――よくあるタイムリープの話だけに、最初は連ドラで10話前後も話が持つものかと心配したが、稀有でした。オリジナルのドラマだけど、実によく練られている。それもそのはず、脚本は『ROOKIES』のいずみ吉紘サン。緻密なプロットを積み上げ、ストーリーテリングを練り上げるのが上手な方。これぞ名人芸だ。

――という次第で、まだまだ1月クールで面白いドラマはたくさんあるけど、ひとまずはこの辺で。あとは、皆さんの目でそれぞれお確かめください。
なに、今からでも遅くはありません。最後に、あらためてこの言葉を送りたいと思います。

「例え、例えですね。明日、最終回だとしても――連ドラを最終回から見ちゃいけないって、誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第35回 ポプテピピックはお祭りである

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皆さん、この1月クールで最も印象に残ったテレビ番組は何です?

――え? 『アンナチュラル』?
まぁ、確かに野木亜紀子サンの脚本はアメリカのドラマみたいで、法医学の話でありながら人間ドラマの側面もあったし、人の死を扱いながらコメディの要素もあって見やすかったし、1話完結ながら連ドラ的な面白さもあったし、何より主人公ミコトを演じる石原さとみサンをはじめ、中堂役の井浦新サン、久部役の窪田正孝サン、東海林役の市川実日子サン、そして所長役の松重豊サンら魅力的なキャスト陣だったし――。

うん、僕は『アンナチュラル』は1月クールで最高のドラマだったと思う。いや、間違いなく今年の連ドラTOP3に入る傑作だと思う。でも――“テレビ番組”全体にまで広げると、ちょっと様相が変わってくる。

1月クール最高のテレビ番組――僕は、それはアニメの『ポプテピピック』だったと思う。

『ポプテピピック』とは何か

そう、ポプテピピック――奇妙奇天烈なタイトルだが、特段の意味はない。ちなみに、英語表記は「POP TEAM EPIC」。微妙に発音と表記が合わない気もするが、直訳すると“ポップなチームの叙事詩”。
ま、それもよく分からないので(笑)、やはり、さしたる意味はないと思われる。

原作は、竹書房が配信するウェブコミックのサイト『まんがライフWIN』で連載中の4コマ漫画である(ちなみに無料で読める)。作者は大川ぶくぶ先生。2014年11月から連載を始め、2度の休載を挟んで、現在はシーズン3が配信中だ。

主人公はポプ子(背が低いほう)とピピ美(背が高いほう)の2人の女子中学生コンビ。無邪気ですぐ暴走するのがポプ子で、達観してクールなのがピピ美である。コスチュームはセーラー服。しかし、学園シーンなどは一切登場せず、漫画はひたすら2人を中心に、シュールやパロディ、スラップスティックな世界観が描かれる。版元の竹書房を罵倒することも多く、キャッチコピーは「とびっきりのクソ4コマ!!」――。

アニメ化にあたって

基本、不条理マンガなので、マーケットはそれほど広くないと思われがちだ。だが、これが意外にも連載開始1年ほどで人気が沸騰する。火をつけたのはLINEのスタンプだった。「おこった?」「完全に理解した」「二度とやらんわこんなクソゲー」「そういうの一番きらい」「クソリプ」「さてはアンチだなオメー」「サブカルクソ女」「私が最初に言いだした事になんねーかな」――etc.

――過激な言葉が並ぶが、それとは裏腹に、主人公2人の絵柄はポップで可愛い。そのギャップが若者たちにウケたのだ。以後、全国で『ポプテピピック』のコラボカフェが開かれたり、グッズが販売されたりと人気が加速、遂にアニメ化が決定する。当初は2017年10月スタートと告知されるが、製作元のキングレコードの「勘違い」(!)という理由で3カ月後に延期。この辺りの人を食った煽りも、同マンガの世界観だと違和感がない。

かくして運命の日――第1回放送の2018年1月6日深夜25時を迎える。

世界トレンド1位に

その日、世界が変わった。
――なんて書くと、また大袈裟なと思うかもしれないが、本当に世界が変わったのだ。なんたって、その日、「ポプテピピック」というワードがTwitterの世界トレンド1位になったのである。

そのアニメは何もかもが掟破りだった。
いきなり冒頭から『星色ガールドロップ』なるフェイクアニメが始まり、そのままオープニング(これもフェイク)に突入したり、事前に告知されたキャストの女性声優(小松未可子、上坂すみれ)とまるで違う渋い男性声優の声でポプ子とピピ美が喋り始めたり(ちなみに、ベテラン声優の江原正士サンと大塚芳忠サン。大御所です)――中でも最大のサプライズは、30分の放送枠の後半、ポプ子とピピ美の声優だけ変えて(三ツ矢雄二、日髙のり子)、全く同じ内容の15分アニメが再放送されたことである。

それらの掟破りの結果、Twitterのタイムライン上には「やっぱりクソアニメ!」「人類には早すぎる!」などのコメントが並び、タイトルの“ポプテピピック”が栄えある世界トレンド1位に輝いたのだ。そして、その“事件”に触発され、同アニメを配信したニコニコ動画は史上最速で100万再生を達成する。

常識破りのサイマル放送

世界トレンド1位ということは、裏を返せば、それだけリアルタイムで『ポプテピピック』が多くの人に見られたということになる。
だが、ここでも同アニメは掟破りの手法でそれを成し遂げる。

普通、アニメでTwitterをバズらせるには、日テレで放送されるジブリ映画がお手本だけど、地上波キー局の圧倒的な番宣とリーチを駆使して、リアル視聴の“共通体験”を煽るのが一番だ。典型的なのが、映画『天空の城ラピュタ』の呪文「バルス!」である。いわゆるお祭り視聴の創出だ。

対して――『ポプテピピック』が取った手法は、それとは真逆である。
まず、放送するのは地上波キー局ではなく、東京ローカルのTOKYO MX。こう言ってはなんだが、番宣もリーチも期待できない。だが、ここからが凄い。オンエアに合わせて、複数の媒体で同時に放送(配信)する、掟破りのサイマル放送(IPサイマル放送)を行ったのだ。

どういうことか。まず地上波のオンエアに合わせて、BSでも同時に放送した。局は、アニメ番組に力を入れるBS11だ。そしてネットでも同時配信した。あにてれ、AbemaTV、Amazonビデオ、GYAO!、dTV、ニコニコ動画、ビデオマーケット、Hulu、FOD、Rakuten TV――と、実に10のサイトだ。アニメ作品を複数のサイトで配信するケースは多いが、ここでポイントになるのは、“同時配信”であること。つまり『ポプテピピック』は、地方にいても、外出先でも、どこにいても、ちょっと手を伸ばせば、誰でもリアルタイムで視聴できる環境だったのだ。

そう、同アニメを語る際、この“リアルタイム視聴”が最大のポイントになる。

民放テレビのビジネスモデル

普通、1つの番組を同時に複数の放送局やサイトで見られるサイマル放送(もしくはIPサイマル放送)は、よほどの事情がないと行われない。かつて民放各局が持ち回りで作り、大晦日に同じ番組を同時放送した『ゆく年くる年』とか、4月21日の放送広告の日に全局で流す特別番組とか、そういう特殊なケースに限られる。

なぜなら、民放テレビは、スポンサー収入が何より大事だからである。番組を放送することは、イコールCMを見てもらうこと。何を置いてもCMが大事。そのためには、リアルタイムで番組を見てもらわないといけないし、それを阻害する要素は排除しないといけない。つまり、ネット配信するにしても、オンエアを邪魔しちゃいけない。必ずオンエア終了後の配信が鉄則になる。一人でも多くの視聴者にリアルタイムで放送を見てもらい、視聴率を稼ぎ、CMを見てもらう――これが地上波民放テレビのビジネスモデルである。

しかし、アニメ番組となると、少し様相が変わってくる。

深夜アニメのビジネスモデル

その昔、アニメといえば、子供向けにゴールデンタイムの浅い時間帯(19時台)に放送されるものだった。しかし、近年は大分様相が変わって、『サザエさん』や『ドラえもん』、『ちびまる子ちゃん』といった国民的アニメを除いて、ほぼ深夜に放送される。
なぜなら、アニメというものは制作費がかかり、その割に視聴率が稼ぎにくく、スポンサーの獲得が難しいからである。そのため、近年は「製作委員会方式」が取られることが多い。

それは、テレビ局や広告代理店、映画会社、玩具メーカーらが共同出資して、作品の二次利用の売上げを出資比率に応じて分配する制度。これなら制作費を集めやすいし、リスクも分散できる。要は、昨今のアニメファンはマーケットが縮小する一方、パトロン化しており、一人が高額のDVDやグッズを買ってくれるため、二次利用の売上げに特化したビジネスモデルである。極端な話、オンエアは作品の宣伝とも言える。

前代未聞の単独出資

――だが、『ポプテピピック』は、これらスポンサー方式とも製作委員会方式とも異なる、第三の道を選んだ。
それが、キングレコードの一社製作・提供体制である。つまり、全ての制作資金をキングレコードが出資する。その代わり、二次利用その他の版権も全て同社が手中にする。

これはちょっと珍しい。一社で制作費を負担するのはかなりの高額になるし、リスクも伴う。しかも相当、二次利用の売上げが大きくないとペイしない。だが――キングレコードは敢えてそのリスクを冒してまでも、単独出資にこだわったのだ。それには理由があった。

大事なのはリミッターの針を振り切ること

単独出資方式は製作委員会方式と比べて、リスクが高い。だが、メリットもある。それは――クリエイティブの自由度が格段に上がること。
製作委員会方式だと、どうしても合議制になって、作品の内容も無難になりがちである。一方、単独出資だと、キングレコードがいいと言えば、それでOKになる。

そう、これこそが『ポプテピピック』にとって、何より大事だったのだ。同アニメは先に述べたように、その内容が掟破りである。リミッターの針を振り切っている。つまり“クソアニメ”だ。だから祭りが沸き起こり、世界トレンド1位になれたのである。

お祭り視聴のメリット

そう、『ポプテピピック』にとって何より大事なのは、“お祭り”を作ること。そのために、同時配信の手段は多ければ多いほどいい。だから掟破りのサイマル放送(IPサイマル放送)なのだ。それは、従来の地上波の民放テレビのビジネスモデルと真っ向から対峙するもの。そして、『ポプテピピック』は見事にその賭けに勝った。

お祭り視聴が生むメリット――それは、濃いファンばかりでなく、ライトファンも、通りすがりの一見さんも、老若男女が見てくれることに尽きる。聞けば、同アニメの視聴者層は、下は子供から上は60代まで幅広いという。例えば、第3話の放送終了後に「秋葉原でポプ子のお面を配布するので、ポプ子でホコ天を占拠しよう」と軽く呼びかけたところ、老若男女の千人以上が殺到。たちまちイベントは中止に追い込まれた。
――そう、かようにそれは、一人のパトロンに高額の買い物をさせる従来の深夜アニメのビジネスモデルと全く異なる。視聴者のパイが大きい分、ごく普通のライトなファンに、同アニメ関連の軽い買い物をしてもらうだけで、二次利用の収入を増やすビジネスモデルである。

前代未聞の声優キャスティング作戦

今回、『ポプテピピック』が話題となった要素の一つに、メインキャストの2人――ポプ子とピピ美の声優を毎回変えるという前代未聞の作戦もあった。何より、初回から事前に告知していた配役と違ったのだ。
以下が、これまでに起用された声優の一覧である。

第1話
Aパート
ポプ子:江原正士、ピピ美:大塚芳忠(原作マンガにシャレで書かれた希望声優)
Bパート
ポプ子:三ツ矢雄二、ピピ美:日髙のり子(『タッチ』上杉達也と浅倉南)

第2話
Aパート
ポプ子:悠木碧、ピピ美:竹達彩奈(声優ユニット「petit milady」メンバー)
Bパート
ポプ子:古川登志夫、ピピ美:千葉繁(『北斗の拳』『うる星やつら』で共演)

第3話
Aパート
ポプ子:小松未可子、ピピ美:上坂すみれ(※事前発表キャスト)
Bパート
ポプ子:中尾隆聖、ピピ美:若本規夫(『ドラゴンボールZ』フリーザとセル )

第4話
Aパート
ポプ子:日笠陽子、ピピ美:佐藤聡美(『けいおん!』『生徒会役員共』で共演)
Bパート
ポプ子:玄田哲章、ピピ美:神谷明(『シティーハンター』海坊主と冴羽獠)

第5話
Aパート
ポプ子:金田朋子、ピピ美:小林ゆう(『けものフレンズ』で共演)
Bパート
ポプ子:中村悠一、ピピ美:杉田智和(声優界の「磁石コンビ」※イニシャルに由来)

第6話
Aパート
ポプ子:三瓶由布子、ピピ美:名塚佳織(『交響詩篇エウレカセブン』レントンとエウレカ)
Bパート
ポプ子:下野紘、ピピ美:梶裕貴(ラジオ「下野紘&梶裕貴のRadio Misty」コンビ)

第7話
Aパート
ポプ子:こおろぎさとみ、ピピ美:矢島晶子(『クレヨンしんちゃん』ひまわりとしんのすけ)
Bパート
ポプ子:森久保祥太郎、ピピ美:鳥海浩輔(『テニスの王子様』『NARUTO-ナルト-』で共演)

第8話
Aパート
ポプ子:諸星すみれ、ピピ美:田所あずさ(『アイカツ!』星宮いちごと霧矢あおい)
Bパート
ポプ子:小野坂昌也、ピピ美:浪川大輔(『よんでますよ、アザゼルさん。』アザゼル篤史と芥辺)

第9話
Aパート
ポプ子:中村繪里子、ピピ美:今井麻美(『THE IDOLM@STER』天海春香と如月千早)
Bパート
ポプ子:斉藤壮馬、ピピ美:石川界人(『残響のテロル』ツエルブとナイン)

第10話
Aパート
ポプ子:徳井青空、ピピ美:三森すずこ(『ラブライブ!』矢澤にこと園田海未)
Bパート
ポプ子:小山力也、ピピ美:高木渉(『名探偵コナン』毛利小五郎と高木渉)

第11話
Aパート
ポプ子:水樹奈々、ピピ美:能登麻美子(『いちご100%』『地獄少女』で共演)
Bパート
ポプ子:郷田ほづみ、ピピ美:銀河万丈(『装甲騎兵ボトムズ』キリコとロッチナ)

――いかがだろう、レジェンドからアイドル声優まで、華麗なる有名声優たちの名前が並ぶ。そのラインナップだけでも驚きだが、絶妙なのは、各回とも何かしら関係のある2人がキャスティングされている点。

その理由について、同アニメのプロデューサーを務めるキングレコードの須藤孝太郎サンはこんな風に語っている。「アドリブも含めて、役作りを全てご本人たちにお任せしています。そうなると、ごく親しい声優さん同士のほうが盛り上がるので」――つまり、良く知った仲ならアドリブも出やすいだろうという安直な理由である。しかも、ほとんどがリハーサルなしの一発本番とか。だが、それがよかった。かの黒澤明監督もテイク1を重視したというが、それは役者の自然な演技が見られるからである。『ポプテピピック』も同様、毎回、声優たちの個性がさく裂し、神回が頻発した。

声優大作戦のメリット

何度も繰り返すが、『ポプテピピック』にとって何より優先されるのは、リアルタイム視聴を増やして、“お祭り”を作ることである。それがマーケットのパイを広げ、ライトな視聴者を増やし、二次利用収入の拡大につながる。

そう、前述の声優キャスティング作戦も当然、お祭りを生んだ。視聴者サイドは、毎回「今度はどんな繋がりか?」と2人の共通点を推理し合い、さらにABパートのアドリブの違いもネタにした。そうなるとTwitterなどでのネタバレを恐れ、リアルタイムで見るしかない。「この祭りに乗り遅れるな!」の心理である。

さらに、その作戦は声優サイドにもプラスに働いた。第2話のBパートのポプ子に起用されたベテラン古川登志夫は、こんな風に語っている。

「声優個々の演技論の違いが明確に分かるポプ子とピピ美の複数キャスティング。ある意味、俳優教育、声優教育に一石を投じるコンテンツにも思える。基礎訓練(土台)は同じでもその上に建てる演技論(家)は多様」

極論にせよ「演技論はプロの表現者の数だけ有る」は成り立つ、と。

怪我の功名、ABパート

――いかがだろう。古川サンの言葉はベテラン声優だけに、業界に波紋を呼んだ。実際、今回キャスティングされた声優たちは、最初は“お任せ”演出に戸惑いつつも、やり終えた後は一様に満足感を覚えたという。
恐らくそれは、微妙な“競争心”が芽生えた結果である。同じポプ子とピピ美を演じる他の声優たちより面白くやりたい――と。特に顕著なのは、全く同じ内容で比較されるABパートである。ここでは台本にないアドリブの違いまでが視聴者に丸わかりで比較される。声優たちが燃えないはずはない。

これは、マーケットでは当たり前の法則だけど、競争こそが製品を面白くする最良の方法なのだ。テレビの世界でも、NHKの朝ドラが今日の地位を築けたのは、大阪放送局も制作を担当するようになり、東・阪がテレコに放送する体制に移行してからである。互いに競争心が芽生え、質が向上したのだ。一時期低迷していたTBSの日曜劇場が復活したのも、『JIN-仁-』の平川雄一朗チームと、『半沢直樹』の福澤克雄チームが互いに競争心を抱き、切磋琢磨した結果である。

このABパートは、実は苦肉の策だった。原作が4コマなので、どう作ってもアニメは15分がMAXだ。しかし、地上波で流すには30分枠がマストであり、残り15分をどう埋めるかを考えた結果、前代未聞の声優だけを変えて再放送するフォーマットが生まれたのである。
結果オーライだ。

リスペクトの系譜

アニメ『ポプテピピック』は1話15分だが、その中身はバラエティに富んでいる。ストーリーものあり、ショートネタあり、ヘタウマタッチのコーナーあり、ドット絵のコーナーあり、なぜかフランス人アニメーターのコーナーあり――とにかく、矢継ぎ早に画面が切り替わる。短いネタだと数秒程度。そして切り替わる度に「ポプテピピック」のロゴのアイキャッチが入る。

僕はそれを見て、ふと往年の伝説的バラエティ番組『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』を思い出した。矢継ぎ早に展開されるショートコント(短いものなら数秒)、スタジオVTR・屋外フィルム撮影・アニメーションといった多様な映像の見せ方、そして時おり入る「ゲバゲバピー!」のアイキャッチ。似ている――と思ったら、あるインタビューで前述のキングレコードの須藤孝太郎サンがこんなことを語っていた。
「そもそも原作自体が哲学だったので、どうしようかという話になった際、バラエティ感を出していく方向性に決定しました。オムニバスといいますか、ショートショートの形……例えば『ウゴウゴルーガ』のような……」

ビンゴ! やはりバラエティ番組だったのだ。しかも、『ウゴウゴルーガ』といえば、フジテレビの奇才・福原伸治サンの演出である。そう言えば以前、福原サンが「ウゴルーは、日テレの『カリキュラマシーン』のリスペクトから生まれた」と語っていた。カリキュラといえば――そう、日テレのヴァラエティー・ショーの神様、井原高忠サンの企画である。井原サンといえば――『ゲバゲバ90分!』だ。

繋がった。『ゲバゲバ』から『ポプテピピック』へ連なる名作バラエティの系譜。エンタメの世界では、“優れた作品に、旧作へのリスペクトあり”と言われる。

『ポプテピピック』が面白いワケである。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第36回 視聴率の正体

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前回の本連載の『ポプテピピック』のコラム、思った以上に反響があり、正直驚きました。お読みいただいた皆さん、ありがとうございました。
要は――地上波キー局の番組じゃなくても、まるでお祭りに参加するように見ていた人が多かったんですね。あらためて、過渡期にある今のテレビ界の姿をおぼろげながら可視化できたように思います。

さて、そこで1つ気になったこと――。そんな風に“お祭り視聴”が実現できた『ポプテピピック』、いわゆる視聴率はどれくらいだったのだろう。

もちろん――同番組は、TOKYO MXとBS11のサイマル放送に加え、10の配信元による異例のインターネット同時生配信。現状のビデオリサーチの計測方法では視聴率の全体像は測りようがない。とはいえ、初回放送時に、Twitterのトレンドランキングでは「ポプテピピック」が栄えある世界1位という偉業を達成した。仮に、地上波キー局の番組として放送されていたなら、どれくらいの視聴率を稼いでいたのだろうかと、単純に興味が湧く。

もう1つの世界トレンド1位

それを推測するのに、1つ参考になるかもしれない番組がある。
昨年11月にAbemaTVで放映された「新しい地図」の3人(稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾)による『72時間ホンネテレビ』だ。同番組も『ポプテピピック』同様、ツイッターのトレンドランキングで「森くん」が世界1位になるなど、SNS上を大いに賑わせた。しかも、インターネットによる生配信番組という立ち位置も同じだ。

ちなみに、同番組は、3日間の総視聴数が7400万を超えたことでも話題になった。ただ、それは視聴者が番組にアクセスした合計値なので、一人が何度も番組にアクセスしたケースもあり、単純な“視聴者数”とは異なる。それでも、ネット配信番組としては前代未聞の数値に「いよいよネットが地上波に追いついたか?」なんて感想も多く聞かれた。

しかし――同じ月の月末、それを打ち消すような報道が流れる。
突如、ビデオリサーチ社がニュースリリースとして、同番組の推定視聴者数を「207万人」と発表したのだ。先に発表された総視聴数との開きに、業界関係者ばかりでなく、お茶の間も少なからず困惑した。
いや、騒動はそれだけに収まらない。翌日、AbemaTVを運営するサイバーエージェントの藤田晋社長がビデオリサーチ社に抗議して、同記事は削除されたのだ。詳細な経緯は不明だが、なんとも後味の悪い空気が残った。

ちなみに、ビデオリサーチ社は推定視聴者数の算出に際し、同番組へのスマホやPCからの接触率を2.4%と推計したという。測定方法が違うので単純には置き換えられないが、仮に視聴率でこの数字なら深夜の番組だ。ゴールデンなら即打ち切りのレベルである。

推定接触率2.4%――。衝撃の数値だ。ネット生配信に、ツイッター世界トレンド1位と、同番組と成り立ちが似ている『ポプテピピック』も、実情はその程度の視聴率(接触率)だったのだろうか?

SNSと視聴率は連動しない?

『72時間ホンネテレビ』と『ポプテピピック』に共通するのは、SNS上の異常な盛り上がりである。両番組とも配信中(放送中)は関連ワードがツイッターのトレンドの上位を独占するなど、いわばお祭り状態だった。

その状況は――直近ならそう、「平昌オリンピック」が近いだろうか。肌感覚では、オリンピック中継と『72時間』と『ポプテ』は、SNS上の盛り上がりにおいて、さほど差がないようにも思われた。

ちなみに、下が先の2月の月間視聴率TOP5である。見事にオリンピックが独占している。しかも最近、とんとお見掛けしない高い数字ばかりだ。

2月の月間視聴率TOP5(ビデオリサーチ調べ/関東)
1位 平昌オリンピック中継(フィギュア男子フリー羽生金)   33.9%
2位 平昌オリンピック中継(開会式)             28.5%
3位 平昌オリンピック中継(カーリング女子準決勝日本対韓国) 25.7%
4位 平昌オリンピック中継(カーリング女子3位決定戦)    25.0%
5位 平昌オリンピック中継(スケート女子1000m小平銀・高木銅)24.9%

一方、昨年11月の『72時間』は推定接触率2.4%である。その差は10倍以上――。
もしかしたら、SNSと視聴率は連動しないのだろうか?

SNSで可視化されたテレビの強み

いや、そんなことはない。本連載でも以前、第1回の「テレビはオワコン!?」で指摘したように、例えば、アメリカの「スーパーボウル中継」は、スマホ元年と言われる2010年以降、それまでの40%台前半の視聴率から一気に40%台後半へとハネ上がり、以後もずっとその状態をキープしている。要は、スーパーボウルの中継を見ながらSNSにアクセスすると、皆が自分と同じ思いでいることが確認できたんですね。そんな“同時体験”の快感に視聴者が目覚めたのだ。

そう――これが、テレビ視聴が持つ快感。例えば、普段飽きるほど聴いている曲でも、テレビやラジオから流れてくると、思わず聴き入ってしまう。あれは「今この瞬間、自分は皆と同じ曲を聴いている!」という快感に浸れるから。SNSはそれを可視化してくれたのである。

「箱根駅伝」はお正月の孤独を紛らわせたい男女が集う

同様の現象は、日本でも見受けられる。日本のお正月の風物詩――『箱根駅伝中継』(日本テレビ系)もその1つだ。

実際、青山学院大がV4を飾った今年の視聴率は、往路が歴代1位の29.4%、復路が歴代3位の29.7%と、視聴率的には大成功の大会だった。断わっておくが、山の神もいない、際立ったスターのいない大会である。

番組は、レース開始時刻の午前8時10分前に始まり、往復ともゴールテープが切られる午後2時過ぎまで、実に6時間以上も完全中継される。そんな長時間にわたって30%近い視聴率を維持できるのは、ひとえにSNSのお陰である。何せ、レースが行われている間、ツイッターのタイムラインはほぼ「箱根」一色。みんな「この祭りに乗り遅れるな!」と、チャンネルを合わせるのだ。

ちなみに、NTTデータの調査によると、箱根駅伝のツイートを分析した結果、浮かび上がった平均的視聴者像は、男性が34歳、女性が28歳で、男女ともに未婚が多くを占めたという。そう――皆、お正月の孤独を紛らわすために、誰かとつながりたかったのだ。

視聴率と比例して増えた『逃げ恥』のツイート

視聴率とSNSの相関関係は、ヒットドラマを通して見ると、もっと分かりやすい。
例えば、2016年10月クールに放送され、「恋ダンス」現象を巻き起こしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。家事代行の雇い主と従業員の関係で出会った2人の男女が、“契約結婚”を通して、やがて真実の愛に目覚める話である。同ドラマで脚本家の野木亜紀子サンが一躍ブレイクし、主演を務めたガッキーと相手役の星野源サンの人気も爆発した。

同ドラマの視聴率とツイート数の変化を追うと、見事に比例して右肩上がりなのが分かる。初回は、視聴率10.2%に対して、ツイート数は1万そこそこだったのが、中盤の5話では視聴率13.3%に対して、ツイート数は約2万。終盤の8話になると視聴率16.1%に対して、ツイート数は3万5千、そして最終回は視聴率20.8%に対して、ツイート数は8万を超えたのである――。

SNSの落とし穴

――以上を踏まえると、やはり視聴率とSNSは相関関係にあると思って間違いないと思う。
だが、実は1つ、SNSには大きな落とし穴がある。それを教えてくれるのは、かの国民的歌番組である。

――そう、『紅白歌合戦』だ。
紅白も先の番組たちと同様、毎回、SNSが盛り上がる番組として知られるが、スポーツ中継やヒットドラマと違い、その関係は少々“いびつ”である。

面白い記事がある。
電通総研のフェローであり、メディアコンサルタントの境治サンの署名記事で、昨年1月6日のYahoo!ニュースにも取り上げられた『「グダグダ紅白」がツイッターでもっとも盛り上がったのは「ゴジラマイク」だった』がそう。この中で、境サンは2015年と16年の紅白のツイート数を比較・分析している。

興味深いのは、15年に比べて16年のツイート数が約1.5倍も増加している点。境サンは、同年の「シン・ゴジラ」ネタ(ありましたナ)を始めとするグダグダ演出がネガティブな反応も含めてSNSを盛り上げたと分析する一方、それが視聴率を押し上げたかどうかは、確認できないと結論付けている。
実際、ツイート数が前年の1.5倍になった割には、16年の紅白(第2部)の視聴率は15年(同)からわずか1%しか増えていない。

母数の圧倒的な違い

僕は、その記事を読んで、境サンの分析に頷く一方、あるデータにくぎ付けになった。それは、紅白についてツイートした人数である。15年が約3万3,000人で、16年が約5万9,000人――なるほど、そもそもツイートした人数が倍近く増えているので、ツイートも増えたワケである。

いや、僕が驚いたのはそこじゃない。その母数だ。紅白の視聴率は約40%。大雑把に言えば、約4,000万人が見た計算になる。対して、ツイートしたのは3万~6万人。桁が3つも違う。3つだ。正直、3万人が6万人に増えたところで、視聴率の母数――4,000万人に比べたら、吹けば飛ぶような数字である。

サイレントマジョリティー

総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017年7月)によると、日本におけるツイッターの利用率は約3割弱という。つまり、約3,000万人だ。このうち40%が紅白を見たとすると、約1,200万人。そのうち実際に紅白に関してツイートしたのは6万人。率にして、0.5%――。

0.5%である。SNS時代と言いつつ、積極的に発言する人々の割合はこんなものなのだ。恐らく――0.5%の背後には、その10~20倍の沈黙の読み手がいると思われる。そう、サイレントマジョリティーだ。近年の米スーパーボウルや箱根駅伝の視聴率上昇は、そんな沈黙の彼らが動いた結果だろうし、SNS時代を迎えても紅白が大きく数字を伸ばせないのは、やはり彼らが動くのをためらっているからかもしれない。

地上波テレビの視聴率の正体

段々、見えてきた。
確かに、視聴率とSNSには相関関係がある。しかし、それは視聴率全体を押し上げるというよりは、一種の上澄み液みたいなもので、影響を及ぼすにしても全体の5~10%が上乗せされるに過ぎない。

一方、テレビの視聴率を構成する大部分――残る90~95%が、テレビの強みであり、今日に至るまでテレビが繁栄してきた正体なのだ。SNSが影響を及ぼさない、いわば視聴率の“幹”の部分だ。

僕は、その視聴率を構成する正体は、地上波テレビ(NHKとキー局)の持つ“リーチ”力だと思う。
リーチとは、テレビ業界の専門用語で「到達率」のこと。元々の意味は、ある期間内に特定のCMに触れさせることを指したが、それが転じて――テレビというメディアの持つ“引力の強さ”のような意味合いでも用いられるようになった。

地上波テレビの伝家の宝刀――リーチ

ほら、家にいる時、何をするともなくテレビをつけることってありません? 新聞のテレビ欄を見ることなく、とりあえず日テレにチャンネルを合わせてみたり、「今、なんかやってないかな」くらいの軽い気持ちでザッピングしたり――。

あの行動がリーチである。そして、テレビが他のメディアと比べて圧倒的に強いのが、その引力の強さとハードルの低さなのだ。深く考えもせず、ちょっと手を伸ばすだけで、簡単にテレビの扉を開いてしまう。別段、『紅白歌合戦』を見たいつもりじゃなかったのに、気がついたらテレビをつけて紅白を見ていた――それがリーチ。地上波テレビが半世紀を超える歴史で築き上げた、いわば“伝家の宝刀”である。

見たい人しか見なかった『72時間』と『ポプテ』

そして、話は冒頭に戻ります。
ビデオリサーチ社が一度は発表したものの、AbemaTVの藤田晋社長の抗議を受けて撤回した、あの数字。『72時間ホンネテレビ』の推定視聴者数は「207万人」で、推定接触率は「2.4%」――。

つまり、あの数字は、純粋に『72時間』を見たいと思い、行動を起こした人々の数値だったんですね。実際、番組を見るには、自らアプリにアクセスしたり、サイトを探したりといった強い行動力が求められる。
それに対して、地上波テレビの視聴率は、特に目的もなく、なんとなく手を伸ばしたらテレビを見ていた人々の数値――伝家の宝刀“リーチ”で構成される。その割合は、視聴率全体の実に90~95%にも達する。

藤田社長にしてみれば、ビデオリサーチ社の出した『72時間』の数字はそれなりに説得力のあるものかもしれないけど、そもそも地上波テレビとは視聴率の成り立ちが違うのだから、それと比較されるような数字はスポンサーの誤解を招きかねない――そんな心境だったのかもしれない。

そうなると、このコラムの冒頭で提起した『ポプテピピック』の視聴率の近似値も、自ずと見えてくる。それは、『ポプテ』を見たいと強く思い、行動したユーザーたちが、SNSによって可視化された数値である。地上波テレビのリーチで構成される圧倒的な視聴率とは別もの。恐らく――『72時間』の数値と大差ないと思われる。

民放キー局が放送法改正に反対する理由

ここから先の話はあまり長くない。
そういえば最近、「放送法改正」に関するニュースがチラチラとネットなどを騒がせている。聞けば、民放キー局の主要5局は、それに反対を唱えているという。その理由として、放送法4条の撤廃に触れて「政治的公平が保たれなくなる」云々――。

まぁ、欧米の先進国ではとうに、それに該当する放送法は撤廃されているし、極端な政治的偏りやフェイクニュースの類いは、政府よりも、BPOなりの第三者機関で取り締まるのが本来のスジなので、実はそこは大きな争点ではない。

ここまでお読みになられた皆さんなら、薄々、民放5局が法改正に反対する本当の理由が分かると思う。そう、放送法改正の要とは「放送と通信の融合」のこと。それはつまり――地上波テレビの伝家の宝刀である“リーチ”が失われる危険性を意味する。

アメリカのテレビは日本の未来?

実際、とうに放送と通信の垣根が取り払われたアメリカでは、地上波テレビの優位はない。4大ネットワークは有料放送のHBOや動画配信のNetflixらと同列に並べられ、人々はケーブルテレビと契約して、膨大なチャンネルの中から番組を選んで視聴する。視聴率はよくて2~3%という世界である。

そんな状況を見せられたら、民放5局が反対したくなるのも分かる。なんたって伝家の宝刀だ。フォースを失ったヨーダは、ただの老人である。

とはいえ、この4月から日本でも視聴率の測定法が変わる。それまでの世帯視聴率から、個人視聴率をベースとしたリアルタイムとタイムシフトの合計値になる。それは、まさにアメリカを後追いする行為だ。
そう、時代は変わる。結局、世の中を動かすのは視聴者のニーズである。視聴者がテレビの多チャンネル化を望めば、自ずとテレビの未来もその方向へ進む。

その時、テレビ界に求められるのは、SNSも含めた“能動的”な新たなる視聴率の指標だろう。シード権のように特定の事業者(放送局)だけが享受できる「リーチ」とは違う、創意工夫して視聴者を獲得した番組が正当に評価される環境づくり――。

そんな未来では、人々は今よりもっとテレビを好きになっているかもしれない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第37回 未来のテレビ

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このごろ、テレビ関係者と話していると、よく「5G」の話題になる。
5Gって?
――いわゆるモバイルネットワークの第5世代移動通信システムのことだ。Gとは「Generation(世代)」の略。ちなみに現在が4Gである。

思い返せば、1G(第1世代)が登場したのが1980年代の半ばだった。そこで普及したのが自動車電話やショルダーフォンである。ほら、ドラマ『抱きしめたい!』(88年/フジテレビ系)で浅野温子が肩から下げてたアレ。そして、2G(第2世代)に移行したのが90年代前半。ここでアナログからデジタルになり、メールのやりとりが可能になって、女子高生の間でポケベルが大流行した。ドラマ『ポケベルが鳴らなくて』(93年/日本テレビ系)がこの時期。とはいえ、当時は数字のやりとりしかできなかったので、彼女たちは「0840=おはよう」「0833=おやすみ」「114106=愛してる」などと、数々の暗号を編み出した。

3G(第3世代)の登場は21世紀である。ここで携帯電話もインターネットが可能になった。NTTドコモのiモードが活躍したのが、この時代。そして2010年代に入ると、モバイルの世界は4G(第4世代)へと進化し、高速での大容量通信が可能となった。ここで普及したのがスマホである。

日本は4G先進国

意外と知られていないが、日本は世界トップクラスの4G先進国である。
国別の4Gの普及率を見ると、トップはお隣の韓国で、次いで日本。その普及率は実に95%を超える。国土の面積や、離島や山岳地帯の多さを考えると、日本の普及率は驚異である。

それは、半世紀を超える日本のテレビ行政と無縁じゃないという。放送法のNHKの項目には「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように……」と書いてあるが、NHKや民放各局が日本中に中継局を置いて、離島だろうが山岳地帯だろうが、誰もが公平にテレビを見られるよう努力を重ねてきたノウハウが、4Gのネットワークにも生かされているのだ。中継局が足りず、ケーブルテレビに頼るようになったアメリカとそこが違う。

そして、来るべき5G(第5世代)――。
その登場は、日本は世界に先駆け2020年ごろと予測されている。あと2年だ。そして――これがテレビの世界を一変させるかもしれないのである。

衝撃の5G

5Gで何が変わるか?
――簡単に言えば、動画の超高速化と大容量化、それに伴う低コスト化である。

現在、Wi-Fiなどに接続せずにスマホで動画を見ると、すぐに通信量が上限を超え、速度制限がかかってしまう。これがネックで、若い人たちはほとんどスマホで動画を見ることはない。
ところが、これが5Gになると、通信速度は100倍、通信量は実に1000倍になるという。要は、今の1000分の1のコストで動画が見られるようになるんですね。これだと、どれだけ動画に接続しても速度制限がかかる心配はない。つまり――外出先でも気軽にテレビ番組や動画が見られるようになるってワケ。

そして、その恩恵を最も受けると言われるのが、若者たちなのだ。

若者のテレビ離れの原因

テレビ界で「若者のテレビ離れ」が叫ばれるようになって久しい。
思い返せば、その発端は2011年あたりだったと思う。その年、何が起きたかというと――東日本大震災が発生し、SNSが脚光を浴びて、スマホが一気にマーケットを広げたんですね。前年まで一桁の普及率に過ぎなかったスマホ市場が、この年倍増。それをけん引したのが、10代と20代の若者世代だったんです。

そう、若者がスマホに夢中になった――これが2011年のトピック。その結果、どうなったかというと、彼らのテレビの視聴時間が減り、比較的若者層に見られていたフジテレビがその影響をモロに受けてしまった。
実際、この年フジは前年まで7年連続で保持してきた年間視聴率三冠王の座から陥落。それを象徴するように、かつて同局で07年に平均視聴率17.0%とヒットした若者向けドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』が、4年ぶりにリメイクされるも――平均7.1%と惨敗。そう、わずか4年の間に、若者がテレビから離れてしまったのだ。

そして以降、若者のテレビ離れはますます進み、一方でテレビ界は視聴率を取るために中高年層に照準を合わせるようになった。その結果、彼らが好む情報バラエティや刑事ドラマの類いが急増する。若者のテレビ離れと言いつつ、その実“テレビの若者離れ”と言われるのはそういうことである。

なぜ若者はスマホに夢中になったのか

それにしても――なぜ、スマホはそれほどまでに若者たちを惹きつけたのか?
1つ考えられるのは、“時間”である。

そう、時間――。
ネット社会の現代は、情報が氾濫している。Googleの元CEOエリック・シュミットが「人類が生まれてから2003年までに作られたデータ量と同じ量のコンテンツが、現在では48時間で作られている」と述べたほど、現代は情報の洪水の中にある。
そんな中、僕らは日々、莫大な情報の取捨選択に忙しい。嗅覚に優れ、好奇心旺盛な若者たちなら尚更である。そんな時代を生き抜くには、いかに時間を効率的に使いこなせるかが鍵になる。

そこでスマホだ。
それは、世界とダイレクトに繋がれるツールである。しかも、どこでも自在に持ち運べる。つまり――情報の取捨選択に費やす時間を、自分の思い通りに“編成”できる。そこに若者たちは惹かれた。

すべての情報はスマホから

一方、テレビに目を向けると、放送プログラムはテレビ局の都合で編成され、視聴者は決められた時間にテレビの前に座っていなければいけない。録画した番組を見るにしても、テレビの前にいないといけないのは同じだ。
若者にしてみれば、ドラマを見るために、貴重な1時間をテレビの前に束縛されるのは、耐えられないのだ。

そんな次第で、今や若者たちはあらゆる情報をスマホから取り入れるようになった。ファッション誌がここ数年、急速に売り上げを落として休刊が相次いでいるのも、スマホにマーケットを奪われたからである。わざわざ発売日を待って、書店に足を運ばなくても、スマホを開けば様々なアプリを通じて流行の服や探している服にアクセスできる。しかも、その情報は無料で、クリック一つで購入もできるのだ。

ドラマ受難の時代へ

――とはいえ、スマホが全てに万能というワケではない。スマホにとって苦手な分野もある。その最たるが「動画」である。先にも述べたように、Wi-Fiなどに接続せずにスマホで動画を見ると、すぐに通信量が上限を超え、速度制限がかかってしまう。これがネックで若者たちは大人たちが思っているほど、スマホで動画ばかり見ているわけではない。中には、「WiMAX」などのモバイル機器を使って動画を楽しむ若者もいるにはいるけど、まだまだ少数派だ。

一方、テレビ局の側は、視聴者に“見逃した番組”をタイムシフトで見てもらおうと、今や連ドラの多くは一週間限定で、ネットで無料配信されている。でも――その施策が若者たちに十分に活用されているとは言い難い。

だが、そんな心配も、あと2年もすれば解消されるかもしれないのだ。

2020年、テレビは再び若者メディアに?

そう、それが2020年に予測される「5G」時代の到来だ。
先にも述べたように、5Gになると通信速度は今の100倍、やりとりできる通信量は実に1000倍になるという。要は、現行の1000分の1のコストで動画が見られるようになるということ。
そうなると、Wi-Fi環境のない若者でも、外出先で好き放題、動画を見ることができる。連ドラの見逃し配信も24時間、好きな時にアクセスできる。

こうなると、何が変わるかというと――再びテレビ局が、若者向けにドラマを作るかもしれないんですね。現在、連ドラは、中高年層が好む刑事ドラマや医療ドラマが多くを占めているが、これが90年代のように若者向けのラブストーリーが氾濫するようになるかもしれないのだ。
バラエティも、現行の情報バラエティや医療バラエティの隆盛から、再び若者向けのお笑い番組やドキュメントバラエティ路線へ回帰するかもしれないのだ。

テレビの視聴スタイルが変わる

いや、それだけじゃない。
動画のコストが事実上、フリーになることで予想される最大のシフトチェンジ――それは、スマホなどのモバイル端末で動画が流し放題になることで起きる“テレビの視聴スタイルの変化”である。

そう、現在、僕らはテレビを見るとき、あらかじめテレビ欄などで番組をチェックしてから見る。しかし、その視聴動機が大きく変わるかもしれないのだ。ここで活躍するのがスマートウォッチ――腕時計型のスマホである。

まず、スマートウォッチでNHKのアプリを立ち上げ、番組をオンエア状態にする。そして一旦、メインの画面は他のアプリに切り替える(番組はバックグラウンドで再生され、音声も自動でオフに)。だが、他のアプリの操作中に、番組がSNSでバズったり、緊急性のあるニュースが流れたりすると――自動的にテレビ画面に切り替わり、音声もオンになる仕組みだ。かくしてユーザーは生で決定的瞬間に立ち会えるのである。

これ、以前のコラム「『AbemaTV 72時間ホンネ』テレビを検証する」でも解説したけど、テレビの視聴スタイルが「テレビを見る→何かが起きる」から、「何かが起きる→テレビを見る」に変わる――ということなんですね。
モバイル端末でテレビが流し放題になることで起きる最大のシフトチェンジが、まさにこれである。

2020年代はIPサイマル放送時代へ

その予兆はある。
来年の2019年、NHKはインターネット同時配信(IPサイマル放送)を始める予定なんですね。既に、先のリオデジャネイロオリンピックや平昌オリンピックで試験的に実施したIPサイマル放送が、いよいよ24時間体制になるということ。ちなみに、イギリスの公共放送のBBCは2007年からネット同時配信を始めているので、これでも随分遅いくらいだ。

一方、民放各局は今のところ、この流れに反対している。民放自身はスポンサー対策や設備投資、系列局との調整などでIPサイマル放送のハードルが高く、NHKの抜け駆けを許さないという姿勢である。
だが――放送行政の大きな流れで言えば、既にラジオ業界がNHKと民放の共同で、ネット同時配信アプリの「radiko」を実現させて聴衆者を増やしたように、早晩、テレビ業界もその流れに乗ると思う。何より優先されるべきは、視聴者の利便性だからである。

リコメンド+少し巻き戻し

そう、来るべき5G時代の2020年代――。
NHKと全民放がネット同時配信(IPサイマル放送)を実現すると、テレビの視聴スタイルは大きく変わる。
先に示したスマートウォッチによるモバイル視聴(動画流し放題)が標準となり、もはやテレビは“何かが起きてから見る”メディアになる。

それは、こんなイメージだ。
まず、スマートウォッチで全テレビ局のアプリを立ち上げ、全ての番組をオンエア状態にする(5Gの容量なら全く問題ない)。そしてメインの画面では、別のアプリを操作している。と、その時――突如、画面が切り替わり、××テレビの『△△』という番組が立ち上がる。サプライズでゲストが呼ばれ、自分の贔屓の女優の○○が登場したのである――。

そう、未来のテレビは“リコメンド機能”が進化し、ユーザーの嗜好を自動で解析して、リアルタイムで決定的シーンに誘導してくれるのだ。
いや、それだけじゃない。その際、ほんの少し巻き戻して、決定的シーンの直前から見せてくれる(追っかけ再生みたいなもの)のだ。これなら、コトが起きてから誘導されても、肝心のシーンを見逃す心配はない。

スポーツは究極の3D中継に

来るべき5G時代――。
実は、テレビの世界ではもう一つ大きな進化がある。“3D”だ。

5Gになれば、やりとりできる情報量が格段に増える。それが最も生きるのが3Dの分野なのだ。3D映像は普通の二次元の映像に比べて、情報量が格段に多い。だが、5Gならその処理は問題なくできる。

2020年代――スポーツ中継はテレビの最も人気コンテンツになっている。その時代、サッカーや野球などのスポーツ中継はスマートグラスで、3Dで見るのが標準仕様だからである。スタジアムの特等席で、首を回せば360度の臨場感ある中継映像を堪能できるのだ。

さらに、その時代はスイッチャー(映像の切り替え)機能も、視聴者が自ら行えるように進化している。ボタン一つで、スタジアム内に複数設けられたベストポジションに瞬時に移動できるのだ。例えば、サッカーならゴールポストの真裏でも観戦できる。正直、実際にスタジアムで観戦するより、遥かに臨場感があって面白い。

未来のテレビは楽しい

いかがだろう。来るべき5G時代の未来のテレビ――。

その時代、テレビはモバイル端末で見るのが標準になっている。リコメンド機能で、自分が見たい番組やシーンに、オンタイムでほんの少し巻き戻して誘導してくれる。もう、「番組を見逃す」なんて言葉は死語になるかもしれない。

また、その時代、スマートグラスを使った3Dスポーツ観戦も人気を博している。ベストの観戦ポジションを、自らスイッチャー一つで切り替えながら楽しめる。正直、スタジアムで見るより100倍面白い。

そう、未来のテレビは、今よりずっとずっと――面白いのだ。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)


第38回 まだ間に合う4月クール連ドラ

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突然ですが、割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論)って、ご存知です?

――これ、かつて1990年代に米ニューヨーク市長を務めたルドルフ・ジュリアーニ氏が採用した犯罪撲滅策で、ニューヨーク市内の落書きを徹底的に消してしまおうというもの。当然、消してもまた描かれる。そうしたら、また消す。描かれる、消す――この繰り返し。大事なのは、描かれたらすぐに消すこと。そうこうするうち、気がついたらニューヨークの犯罪率は激減していたそう。

この理論の提唱者が、アメリカの犯罪学の権威であるジョージ・ケリング教授だ。かつて教授は、わざとクルマを放置する社会実験をしたところ、そのまま放置したケースでは一週間経っても何も起きなかったのに対し、フロントガラスを割って放置した場合はすぐに部品が盗まれたことに注目した。そして、こう理論付けた。
「小さな犯罪をそのままにすることで、やがて大きな犯罪の住みかになる」。

そう、これが割れ窓理論。つまりジュリアーニ市長は、これを逆手に取ったんですね。小さな犯罪(落書き)を根絶することで、その先にある凶悪犯罪を減らしてしまおうと。そして結果は大成功。90年代、ニューヨークの治安は劇的に回復したのである。

タイムシフト視聴は“週”回遅れにならないこと

え? なんでテレビのコラムなのに、突然そんな話を始めたのかって?
そう、それは――テレビのタイムシフト視聴も、これと似たようなものじゃないかって思ったから。「週末にまとめて見よう」と録画した連ドラを放置していたら、気がついたら2、3週分、録画が溜まっていた――なんて経験ありません?

僕の経験上、録画したドラマは、次の回が来るまでの一週間以内に見ないと、どんどん溜まる傾向にありますね。まさに割れ窓理論。小さなミスを放っておくと、どんどん積み重なり、やがて取り返しのつかない大きなミスに発展する。

そう、連ドラのタイムシフト視聴で大事なのは、“週”回遅れにならないこと――。

まだ間に合う4月クール連ドラ

――とはいえ、4月クールの連ドラも既に終盤。ぶっちゃけ、3話あたりで視聴が途切れて、後の回は録画したまま放置して、もはや回収を諦めている――なんて人も多いんじゃありません?
でも、大丈夫。前にも言ったけど、連ドラというのは基本、いつ見始めてもいいんです。例え、最終回からでも。繰り返し引用しますが、山田太一先生曰く「連続ドラマというのは、ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる」――。

また、例の「ニコハチの法則」もある。連ドラで大事なのは節目となる2・5・8話。8話といえば、物語の終盤の起点になりやすい。大抵、主人公が自己を見つめ直し、そこから最終回に向けての新たなターンが始まる。つまり8話から見始めても、十分に満足できるんです。

そんな次第で、今からでも遅くない、4月クールの必見ドラマを4つほど解説したいと思います。え? あとのドラマは見なくてもいいのかって? いえね、連ドラを終盤から見始めるメリットとして、見るべきドラマを絞れるという利点もあるんです(笑)。ま、他はお時間のある時にでも――。

今年最大のお祭りドラマ『コンフィデンスマンJP』

一般に、4月クールの連ドラは、1年のうちでテレビ局が最も力を入れると言われる。年度の変わり目だし、そこで華々しくスタートを切って、新年度を盛り上げようと。そのために看板役者と珠玉の企画が用意される。

その意味では、この4月クールで最もその意気込みを感じるのが、フジの月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』である。主演は大スター長澤まさみに、脚本は『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』のヒットメーカー・古沢良太。近年、視聴率も話題性もパッとしない「月9」にとって、久々の大型企画だ。

はっきり言いましょう。もし、未見の方がいたら、このドラマは絶対に見ておいた方がいい。最終回からでもいい。
聞くところによると、制作費はあのTBS日曜劇場の『ブラックペアン』を上回るというし(つまり今クール最高だ)、撮影もスタート前に全て終わっており、既に映画化も決まっているし――。そう、資金潤沢、用意周到。つまりフジテレビが社運を賭けているんですね。今年最大のお祭りドラマと言ってもいい。

アンチヒーロー&コンゲームもの

物語は、アニメの『ルパン三世』や往年のテレビドラマ『スパイ大作戦』のパターンだ。いわゆるアンチヒーローもの。そしてコンフィデンスマン(詐欺師)が活躍するコンゲームものでもある。

主人公の長澤まさみ演ずるダー子は、天才的な頭脳と、どんな専門知識も短期間でマスターできる集中力、そして変装の達人だ。ただし、ハニートラップの才能はない。
相棒は小日向文世演ずるベテラン詐欺師のリチャード。彼もまた変装の名人で、言葉巧みにターゲットに近づくインテリだ。この2人に翻弄されつつ、チームの一員として毎度奔走するのが、東出昌大演ずる正直者のボクちゃん。いつも最後は彼も騙されていたことが発覚するのも、お約束。そして2話で登場して、いつの間にかチームに加わっていた神出鬼没の五十嵐。演ずるは小手伸也――。

その基本フォーマットは、世の悪党たちをダー子たちが「詐欺」で懲らしめるというもの。だが、いつの間にか詐欺の実行役のボクちゃんも騙され、釣られてお茶の間も騙されるという二重、三重のどんでん返しが面白い。
普通、海外ではこの手のインテリ系のドラマは複数の脚本家によるチーム制で書かれるが、それを古沢良太サン一人で書いているのも凄い。『古畑任三郎』における三谷幸喜サンと同じだ。

ニコハチ傑作に駄作なし

今のところ、視聴率は8~9%台で推移し、一度も二桁に乗せていない。でも、SNSの反応や各種ネット調査を見る限り、内容に対する満足度はかなり高い。

ちなみに、「ニコハチの法則」に当てはめると――最初の通常回である2話は、「リゾート王編」。吉瀬美智子をゲストスターに、無人島を舞台に二転、三転のどんでん返しが繰り広げられた。正直、拡大版の初回の飛行機ネタが大ネタすぎて若干無理があったので、ジャストサイズのフォーマットを提供できた意味で、この2話は傑作だった。初回終了後にネットに渦巻いていたリアリティ面への批判も大方収束し、同ドラマへの評価がグッと増した回だった。

5話は「スーパードクター編」。大胆にもダー子が外科医に扮する話で、ターゲットの、かたせ梨乃演ずる病院理事長を騙して手術してしまう。当然無免許だ。いくらなんでもやりすぎと思ったら、開腹した臓器はハリウッドの特殊造形師ジョージ松原の手による作りもの。これを演じたのがカメオ出演の山田孝之だった。出演時間はわずか30秒。同回はネットでも話題となったので、見てなくても覚えてる人も多いだろう。

そして8話は、りょう演じるカリスマ美容社長を相手に、山形の廃村を舞台に大芝居が打たれた。「子猫ちゃん」と呼ばれる手下から美女たちを選抜し、村に送り込むなど用意周到にコトを運ぶが――最後に依頼者が裏切り、初のオケラ(無報酬)回に。この失敗が最終回へ向けた大逆転への布石にもなっており、節目という意味で、やはりエポックメーキングな回だった。

そう――ニコハチが傑作の連ドラに、駄作なし。

勝負はシーズン2から

さて、『コンフィデンスマンJP』は、既に映画化も決定して、間もなくクランクインと言われる。海外ロケも予定され、ゲストスターもかなりの大物が予想される。この調子なら、ドラマの知名度を生かしてヒットするのは間違いない。
要は、『ルパン三世 カリオストロの城』とか『ミッション:インポッシブル』とか『007シリーズ』とか、そんな娯楽大作ですね。むしろ、この手の企画は、映画こそ相応しいと言える。ウケない理由がない。

いや、それだけじゃない。
同ドラマは恐らくシーズン2が作られる。そして、その時――いよいよ視聴率がブレイクスルーする。
思い返せば、『古畑任三郎』も最初のシーズンは平均視聴率14.2%だったのが、シーズン2で25.3%とブレイク。古沢サン自身の作品『リーガル・ハイ』もシーズン1は平均12.5%だったが、シーズン2で18.4%と大化けした。

そう、1話完結のチームものの連ドラは、シーズンを重ねる毎にファンが増えて、数字が上がりやすいのだ。こと、『コンフィデンスマンJP』は内容面の評価も高く、映画版もヒットすれば――間違いなく、シーズン2は大化けする。その時、一緒になって盛り上がれるように、今からでも視聴しておくことをおススメします。

フジの冒険、モンテ・クリスト伯

続いては、同じくフジの木曜ドラマ、通称“木10”である。かつては月9と並ぶフジの2大看板と言われたが、近年は月9同様、低視聴率が続き、話題になる作品も少ない。

ところが――今クールはちょっと様相が違う。ディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯』である。原作はデュマが書いた、かの有名な『巌窟王』。幸せな結婚を遂げるはずの主人公が、えん罪を被せられ、遠く流刑の島に幽閉される。そこで謎の老人と出会い、莫大な隠し財産の秘密を教わり、十数年後に故郷に戻り、かつて自分を貶めた連中に対峙するという復讐劇だ。これを、現代の日本を舞台にリメイクした。

このドラマ、正直、視聴率は5~6%台と振るわないが、総じて満足度は高い。理由は――“演出”である。
あらすじだけを聞くと、なんだか昔の大映ドラマや韓流ドラマみたいでリアリティに欠けるし、一歩間違えたらネタドラマになりそうだ。だが――同ドラマは違う。ちゃんと今の連ドラっぽいのだ。肝はそこである。

珠玉の演出

それもそのはず、同ドラマの演出チーフは、フジのドラマ班のエースの西谷弘監督。いわゆる連ドラっぽさ――リアリティ感のある絵作りは、彼の功績が大きい。一般に「ドラマの9割は脚本」と言われるが、こと同ドラマに限っては有名な物語のリメイクということもあり、カギを握る「ドラマの9割は演出」である。

え? その割にはディーン・フジオカ演ずるモンテ・クリスト伯の正体に誰も気づかない描写はヘンだって?
そこだ。ドラマの設定では彼は26歳で幽閉され、戻ってきて復讐を開始するのが15年後の41歳。そしてディーン自身の実年齢が37歳。どうやったって顔が同じだからバレバレだ。ならば――そこにリソースは割かない。

あるインタビューで、西谷監督はこう述べている。「整形したのかとか、昔はすごく太っていたのかとか、それを特殊メイクでやろうとかいろいろ考えました。だけど全部小手先だし、見る人にとっては同じ役者さんだとわかっているわけだし、そこは堂々といけばいいと思いました」

何を面白がらせるのか

――そう、そもそもこの物語の面白さは、バレるかバレないかの描写ではなく、復讐の方法だ。さらに、かつての恋人、山本美月演じるすみれだけが唯一彼の正体を見抜く伏線もあり、周囲が気づかないことが大前提。
だから、整形などの小細工は、逆にドラマを安っぽく見せてしまう。ならば――あえて、そこはぬぐって、そのまま演技をさせるのがベストと判断したのだろう。そうすることで、視聴者には顔に触れるのは無意味と伝わる。結果、極めて文学性の高い、リアリティある連ドラになったのだ。

つまり、大事なのは、何を面白がらせるか。
その軸がブレないドラマは面白い。演出の意図が、ちゃんとお茶の間に伝わっているからである。同ドラマには、それがある。

女性2人のバディもの

続いては、『ドクターX~外科医・大門未知子~』をはじめ、先のキムタク主演ドラマ『BG~身辺警護人~』など、今やすっかり高視聴率ドラマの枠として定着したテレ朝の「木9」である。

今クールは、波瑠と鈴木京香の女性バディもの刑事ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』で臨んでいる。中盤まで平均視聴率は12%台で推移し、昨今、二桁行けば御の字と言われる連ドラの世界で、十分結果を残していると言っていい。

同ドラマの原作は、麻見和史サンの『警視庁文書捜査官』のシリーズだ。文書解読のエキスパートが文字や文章を手掛かりに事件解決に挑む視点は新しい試み。とはいえ――主役2人が所属するのは地下の書庫にある第6係と、いわゆる“窓際部署”が活躍するフォーマットは、刑事ドラマのド定番だ。

原作では、男女のバディものだったが、ドラマ化に際して女性2人のバディものに改訂された。理由は、ある女優を使いたかったからである。もっとも、原作でも主役2人に恋愛要素はなく、さしたる影響はない。

視聴率女優、波瑠

そう、原作の男を女に変えてまでも起用したかった女優――それが同ドラマの最大の売りである。女優の名は波瑠。ずばり――同ドラマの安定した視聴率は、作り手の狙い通り、彼女のお陰と言っていい。

思えば、前クールの日テレの『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』でも、波瑠は脇役ながら抜群の存在感を放ち、好調な視聴率は彼女のお陰と言われた。今、波瑠は数少ない“数字を持ってる”女優の一人なのだ。
実際、彼女が一躍ブレイクしたNHK朝ドラ『あさが来た』以降の出演作の平均視聴率を見てみると――

『あさが来た』(NHK)……23.5%
『世界一難しい恋』(日本テレビ系)……12.9%
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジ系)……8.1%
『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)……5.7%
『あなたのことはそれほど』(TBS)……11.2%
『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』(日テレ)……9.8%

――となる。どの作品もその枠の平均点以上の視聴率を残し、何より話題になったドラマが多いのが特徴だ。そう、波瑠は数字・記憶両方を残せる女優なのである。そして特筆すべきは、出演作が1つの局に固定されず、各局にバラけているところ。引く手あまたなのだ。

もう一人のキーマンは高田純次

もちろん、同ドラマは女性のバディものなので、表記上は文書解読エキスパートの鳴海理沙役の鈴木京香とのW主演だ。実際、2人のコンビワークはいいバランスを保っている。「静」の鈴木サンが堂々としているから、「動」の波瑠が自由に遊べる面もある。
とはいえ、脚本は朝ドラ『あさが来た』で波瑠と組んだ大森美香サンで、彼女の生かし方を心得ており、やはり事実上の波瑠の物語と思っていい。

それよりも、もう一人、キーマンを挙げるとするなら――定時に帰る、実直な財津警部を演じる高田純次サンをおススメしたい。昔から、『夜明けの刑事』の坂上二郎サンや『踊る大捜査線』のいかりや長介サンなど、コメディ系の人が実直な刑事を演じると、その刑事ドラマはヒットするという法則がある。同ドラマもその法則の延長線上にあると考えて間違いない。

安定のTBS日曜劇場

最後に挙げるドラマは、こちらもテレ朝の木9同様、今やすっかり高視聴率ドラマ枠として盤石の安定感を誇る、TBSの日曜劇場である。

元々、1956年から続く同局の看板枠。過去に橋田壽賀子脚本の『愛と死をみつめて』をはじめ、倉本聰脚本の『うちのホンカン』シリーズ、加山雄三が復活した『ぼくの妹に』、最高視聴率40%を超えた木村拓哉主演の『ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~』等々、時代時代で話題作を輩出してきたが、安定して数字を稼げるようになったのは、2009年の『JIN-仁-』以降だろう。

なぜ、近年、同枠が復活したかと言うと、前にも述べたけど、『JIN-仁-』や『とんび』、『天皇の料理番』などを手掛けた石丸彰彦P、平川雄一朗D、脚本・森下佳子からなるチームと、『半沢直樹』をはじめ、『下町ロケット』や『陸王』を手掛けた伊與田英徳P、福澤克雄D、脚本・八津弘幸からなるチームが、互いに切磋琢磨した結果なんですね。
そんな局内の適度な競争が、ドラマの質と視聴率を高め、今日の盤石の日曜劇場を築いたんです。

毎度、デジャブのような展開に

さて、そんな日曜劇場の今作は――医療ドラマの『ブラックペアン』である。座組としては、チーム福澤(克雄)の作品になるが、原作はお馴染みの池井戸潤ではなく、海堂尊の作品。脚本もいつもの八津弘幸サンではなく、丑尾健太郎サンとちょっと変化球だ。

そのせいか、同ドラマは『半沢~』や『陸王』などに比べると、ちょっと話が荒く見える。毎度、デジャブのような同じ展開に見えるのだ。恐らく、福澤監督がかなりの部分で脚本にも携わっていると思われるが、やはり餅は餅屋なのかもしれない。

『ブラックペアン』のパターン考

そう、『ブラックペアン』の物語の展開は、大体パターンがあるのだ。
まず、最新医療器機が、小泉孝太郎演ずる高階によって東城大学に持ち込まれる。目的はボスである帝華大学の西崎教授(市川猿之助)の実績を作り、理事選に勝たせるため。それを見透かした内野聖陽演じる佐伯教授はこれに難色を示すが、カトパン――加藤綾子演ずる治験コーディネーターがフレンチで接待したりして、最終的には折れて手術が行われる運びとなる。

そして、手術当日。一同が新しい手術の行方を見つめる中、決まって予期せぬミスが起こる。竹内涼真演ずる研修医の世良は取り乱し、葵わかな演ずる新人看護師は廊下を走り回る。そんな中、趣里演ずる猫田看護師が手を回して、満を持して二宮和也演じる天才外科医・渡海が現れ、華麗なる手さばきで手術をリカバーするというもの。毎回、最新医療機器がスナイプやダーウィンに変わるくらいで、大筋は同じだ。

誰が主人公か

もっとも、あの『ドクターX』も毎度展開は同じだし、1話完結の医療ドラマはこれでいいのかもしれない。視聴率も中盤まで12~13%と推移し、決して悪くない。スマッシュヒットには違いない。

それよりも――同ドラマを見ていて気になるのは、「誰が主人公か?」という問題だ。一応、クレジットの順番で言うと、トップが二宮クンで、セカンドが竹内涼真。トメが内野聖陽サンで、トメ前が小泉孝太郎である。ならば二宮クンが主人公になるが、ドラマを見ていると、語りは竹内涼真だし、物語は彼の目線で進む。実際、原作の小説では、彼が演じる研修医の世良が主人公なので、こちらも違和感がない。

役者の格と、日曜劇場への貢献度(『JIN-仁-』『とんび』等)を思えば、内野聖陽演じる佐伯教授が真の主人公という線もある。いや、ボス(西崎教授)と佐伯教授に挟まれ、なんだかんだと振り回されつつも地味に生き残ってる小泉孝太郎演ずる高階の成長物語なんて見方も――。

ドラマ『ブラックペアン』の楽しみ方

はっきり言いましょう。この手の群像劇は、名目上はクレジットの順番はあるものの、視聴者は誰に感情移入して見てもいいんです。

例えば、僕は――小泉孝太郎演ずる高階医師の目線で楽しんでますね。ボスの論文の実績を上げるために、ライバル大学にスパイとして送り込まれた彼は、毎度、新しい手術にトライするも――思わぬミスで、いつも渡海にアタマを下げて、助けてもらう。プライドはズタズタなんだけど、患者の命を最優先に、前向きに考える――ほら、これって中間管理職であるサラリーマンの悲哀に通じません? いっそ、「サラリーマンドクター」とタイトルを改題して、高階を主人公にしたほうが面白くなると思ったり――。

カトパン攻略法

そう、ドラマはもっと自由に鑑賞していいんです。必ずしも、作り手が考える通りに見なくてもいい。
例えば――カトパンが演ずる役だってそう。

彼女の役は「治験コーディネーター」だ。これ、ドラマのオリジナルキャラクターなんですね。その割に出番が多く、また彼女の演技が女子アナの域を出ないためか、お茶の間からアゲンストが吹いている。
いや、それだけじゃない。彼女の役の描写(わいろ紛いの多額の研究費や負担軽減金を用立てたり、高級フレンチで医者を接待する)が、実際の治験コーディネーターとかけ離れているとして、日本臨床薬理学会がTBSへ抗議したとの報道もある。まぁ、これについては、彼女は言われた役を演じてるだけで、はっきり言って濡れ衣だ。

提案。そんなカトパンを見る際のおススメの鑑賞法がある。
「あれは、カトパンがカトパンを演じている」と思うといい。ドラマの役と思うから、つたない演技力や、事実とかけ離れた設定に違和感を覚えるのだ。そうじゃなくて、カトパン自身と思えば、よすぎる活舌は違和感ないし、権力と才能へすり寄ったり、高級フレンチで食事する描写も“素”と思えて気にならない。まんま、カトパンのままだ。むしろ、俄然リアリティが増して、面白く見える。

――そんな次第で、まだ間に合う4月クール連ドラ、いかがでした? そう、ドラマの見方なんて、もっと自由でいいんです。あなただけの目線で楽しんでみてはいかがでしょう。
そしてもう一つ――最終回から連ドラを見始めても、決して遅くはないってこと。

では、今回はこの辺で。また7月クールにお会いしましょう。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第39回 フジテレビはV字回復できるか?

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少し前の話題で恐縮だが、フジテレビの4月クールのドラマ『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』の最終回(第9話)が2時間スペシャルで放映され、視聴率6.8%で幕を閉じた。最終回が2時間だったのは、評判がよかったから――ということではなく、単に次の週からロシア・ワールドカップが始まるからである。つまり、終盤の2話を1話にまとめた形だ。

ちなみに、全話通した平均視聴率は6.2%。これは最近のフジの木曜劇場――通称“木10”枠としては、ごくごく平均的な数値。高くも低くもない。実質全10話というのも平常運転。低視聴率で打ち切られたワケでも、評判がよくて最終回を延長したワケでもない。数字上は極めて平凡なドラマだった。

TLは“モンクリロス”の声一色に

――こう書くと、『モンテ・クリスト伯』は、最近のフジのパッとしない一連のドラマの1つと思われるかもしれない。いやいや、そうじゃないのだ。特筆すべきはSNSである。最終回の放映直後のTwitterでは、トレンドのベスト10の半分が――1位「#モンクリ」、2位「#モンテクリスト伯」、4位「#モンテ・クリスト伯」、8位「#モンクリロス」、10位「#ディーンフジオカ」――と、同ドラマ関連で占められたのだ。さらに、タイムラインは“モンクリロス”を叫ぶ声一色に――。こんなことは、久しくフジのドラマでは見られなかった。

そう、『モンテ・クリスト伯』は視聴率以上の爪痕を残したのである。

ゴールデンでテレ東に敗れたフジ

その一方で、最近、フジにとって不名誉な話もあった。
それは、『モンテ・クリスト伯』の最終回が放映された翌週――6月18日週のこと。このところ、2年連続で年間視聴率の「全日」「ゴールデン」「プライム」の3部門で、キー局4位に低迷しているフジテレビ。「振り向けばテレビ東京」と揶揄されているが、遂にそれが現実になったのだ。

その週――フジはゴールデンタイムで、テレ東に0.1ポイントの差をつけられ、民放5位に沈んだのである。これまでテレ東がゴールデンの週平均で他局に勝ったのは、毎年中継する『世界卓球』の期間中のみだったが、この週のテレ東は平常運転。しかも、W杯の中継を1つも持たないテレ東に対して、フジは2つのW杯のゲームを中継したにもかかわらずである。

フジの敗因は?
――それは、あの人の存在が大きなカギを握る。

カギを握る人物

その人物とは、ドラマ『古畑任三郎』や『踊る大捜査線』などの企画を立ち上げた、フジテレビきってのアイデアマン――石原隆サンである。

昨年6月、宮内正喜新社長の体制になって、新たに設けられた役職「編成統括局長」に就任した石原サン。それは、編成局・制作局・映画事業局・広報局の4つの局をひとまとめにして、よりダイナミックな環境で積極的にコンテンツを発信していこうという、アグレッシブな試みだった。

あれから1年――フジの改革はそれなりに進み、石原サンは一つのメドがついたとして、先日、その任を後進に譲っている。とはいえ、改革は道半ばという話もある。
一体、石原サンのもとで何が変わり、そして――何が道半ばなのか。

3つの成果

この1年、「編成統括局長」の役職にあった石原サンは、3つの“大改革”を成し遂げた。
1つ目の成果は、ご存知の通り、フジを長年支えた2つの長寿バラエティ――『とんねるずのみなさんのおかげでした』と『めちゃ×2イケてるッ!』の終了である。賛否あったが、やはり新しいことを始めるには、古い殻を破らないといけない。その意味では前向きな終了だったと思う。

ただ、スクラップ&ビルドの視点で言えば、次の番組を当てないことには、改革は終わらない。現状、新番組は『みなおか』の後が、坂上忍司会のトークバラエティ『直撃!シンソウ坂上』で、『めちゃイケ』の後が、紀行バラエティの『世界!極タウンに住んでみる』――。正直、両番組とも特段目新しくもなく、視聴率で苦戦中である。

ドラマに変化の兆し

2つ目の成果は、先の4月クールの2つのドラマ『コンフィデンスマンJP』と『モンテ・クリスト伯』である。
前者は、『リーガル・ハイ』でお馴染みの人気脚本家の古沢良太サンを起用してのコンゲームもの。脚本を1年前から準備し、初回の放映前には全話の撮影が終了していたという、盤石の体制で作られた。おまけに映画化まで決まっているという。

全10話の平均視聴率は8.88%。まるでフジを象徴するような数字だが、これも先の『モンクリ』同様、視聴率以上に毎回SNSで盛り上がったのは記憶に新しい。大スター長澤まさみの振り切った演技も話題になった。

そして、『モンテ・クリスト伯』は、かの有名なデュマの書いた名作『巌窟王』を、現代日本を舞台にアレンジしたもの。題材といい、設定といい、かなりチャレンジングな企画だったのには違いない。とはいえ、こちらもSNSで視聴率以上の反響を得たのは、先に書いた通りである。

まぁ、SNSで盛り上がったからといって、すぐに視聴率に反映されるとは限らない。以前、本連載の「視聴率の正体」の回でも書いたが、SNSによって動かされる視聴率はせいぜい全体の5~10%。一方で、視聴率を構成する“幹”の部分――90~95%は、“なんとなく”テレビをつけて、チャンネルを合わせている人たち。とはいえ、その幹を動かすには、やはり5~10%の“積極視聴者”の存在は欠かせないのだ。

カンヌのパルムドール

そして3つ目の成果が――先のカンヌ国際映画祭で最高栄誉となるパルムドールを受賞した映画『万引き家族』である。知らない人もいるかもしれないが、同映画の製作には、フジテレビが幹事会社として関わっている。

元々、フジと是枝裕和監督は、監督がドキュメンタリーのディレクターだった時代からの付き合いで、『NONFIX』で数々の秀逸なドキュメンタリーを世に送り出した。
そして、映画は2013年の『そして父になる』以降、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『三度目の殺人』(2017年)、そして今回の『万引き家族』と、5作連続で両者は組んでいる。『万引き~』が当初『声に出して呼んで』というタイトルだったのを、現行タイトルに変えるようアドバイスしたのは、フジの松崎薫プロデューサーである。そして石原隆サン自身も、是枝作品にはアドバイザー的な立場でずっと関わっている。

正直、フジと組む以前の是枝作品は海外で高い評価を得るも、興行的には今ひとつだった。それがフジと組んで以降は全国ロードショー公開となり、興行収入も10倍以上に。それまでの作家性に加え、大衆性も身に着け、メジャー作品へと昇華させたのはフジの功績だった。今回の『万引き~』のパルムドール受賞も、長年にわたる監督とフジとのパートナーシップが実を結んだ側面もあった。

天才プロデューサーの死角

――以上3点が、「編成統括局長」時代の石原サンの3つの成果である。映画で1つの歴史的結果を残し、ドラマでは反転攻勢のキッカケを作り、バラエティでは長年の懸案だった2つの伝説の番組を終了させた。

だが、そこが石原サンの限界でもあった。彼はフジテレビ入社以来、ずっと映画とドラマ畑しか経験していない。ゆえに、『コンフィデンスマンJP』や『モンテ・クリスト伯』のような、世の中の時流とは関係なく、シンプルに自分が面白いと思うドラマを見抜き、推す目は持っていた。しかし――バラエティでは何が面白いのか、多分、分からなかったと思う。天才プロデューサーにも死角があったのだ。

現状、フジに足りないもの

ゆえに、石原サンにできることは、他の民放で評判になっていたり、自局で数字を取っている番組の焼き直しという“後ろ向き”の方策しかなかったと推察する。
タレントではなくディレクターが海外で体当たりリポートする『世界!極タウンに住んでみる』は、テレ朝のナスDの『陸海空 地球征服するなんて』を彷彿とさせるし、坂上忍司会の『直撃!シンソウ坂上』は、やはり同局の『バイキング』の焼き直しに見えてしまう。『梅沢富美男のズバッと聞きます!』にしても、申し訳ないが巷のバラエティの既視感は否めない。

かくして、作り手が今ひとつ面白がっていないであろう番組を、お茶の間が面白がるワケもなく――。

そう、現状のフジに足りないのは、作り手が自ら面白がって作るバラエティである。今や、ゴールデンタイムの8割の番組が、バラエティで構成される。日テレを見れば分かるが、バラエティを制す局が、視聴率を制す時代。先のテレ東にゴールデンの週平均で敗れた話も、そういう事情である。

フジテレビがこれからやるべきこと

いかがだろう。
フジテレビの復活に必要な手順がなんとなく見えてきたのではないだろうか。多分、この先――ドラマは少しずつ持ち直すと思われる。石原隆サンが道筋をつけた“自分たちが面白いと思うドラマを作る”路線に従い、昔のようにフジテレビらしいドラマが増えるだろう。幸い、優秀な作り手やブレーンは、社内外に大勢いる。軌道に乗るまで、もう少し時間がかかるかもしれないが、SNSに引きずられる形で、徐々に視聴率も回復すると思う。

問題はバラエティである。
自分たちが面白いと思うバラエティを作るのは当然として、何か道筋になりそうなヒントはないのか?

――ある。僕は、それはフジテレビの“DNA”だと思う。

フジテレビのDNA

一般に、フジは1959年の開局から70年代までは「母と子のフジテレビ」の時代で、“第二の開局”と言われた80年代以降は「楽しくなければテレビじゃない」の時代だと思われていてる。

でも――実のところ、2つの時代は多くの点で連続している。「母と子」の看板を下ろした以降も、日曜夜7時半の『世界名作劇場』は1997年まで地上波で続いたし、『ひらけ!ポンキッキ』の後継番組の『ポンキッキーズ』も、BSフジに場所を移して、今年の3月まで続いた。ガチャピンとムックの再就職先が取りざたされたのは、ついこの間の話だ。何より、『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』といった国民的な家族アニメは今も続いている。

一方、80年代以降の「楽しくなければ~」の看板も、フジは開局の年から既に、クレージーキャッツの『おとなの漫画』という帯のコメディ番組を生放送していたし、長らくお正月の風物詩と言われた『新春かくし芸大会』も、1964年から2010年まで放送していた。あの『笑っていいとも!』も、その源流を辿ると、68年にスタートした前田武彦とコント55号司会の『お昼のゴールデンショー』に行きつく。

そう、「母と子」も「楽しくなければ~」も――図らずも開局から今日まで、フジのDNAとして連綿と続いているのである。

ここはフジテレビじゃない!

以前、本連載の「フジテレビ物語(前編)」の回でも紹介したが、1969年、日テレの伝説的バラエティ番組『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』の初回収録時に、こんなエピソードがあった。

それは、司会の前田武彦サンと大橋巨泉サンのトークのシーン。2人のやりとりには台本があり、最後に巨泉サンのひと言でマエタケさんがギャフンとなるはずだった。だが、これにマエタケさんがとっさのアドリブで切り返したのだ。スタジオに笑いが起きる。その時である。突然、副調整室のスピーカーからプロデューサーの井原高忠サンの怒鳴り声が鳴り響いたのだ。
「勝手な真似はやめろ! ここはフジテレビじゃない!」

フジテレビの持ち味

日テレのバラエティは、アメリカ仕込みの“ヴァラエティ・ショー”がベースにある。そこには台本があり、出演者はあたかも自分の言葉のように喋るテクニックが求められる。井原プロデューサーが演者に求めたのは、そういうことである。

一方、前武サンは当時、フジテレビで『お昼のゴールデンショー』と『夜のヒットスタジオ』という2つのヒット番組を持つ売れっ子司会者。フリートークとアドリブの名手と呼ばれた。そう、当時のフジは生放送で演者が自分の言葉を発し、アドリブを繰り出せる自由な空気で満ちていたのだ。

思えば、そんな局をまたいだ対比のパターンは、80年代にも再び繰り返された。それは、土曜夜8時の「土8戦争」である。台本通りにコントを演じる王者、TBSの『8時だョ!全員集合』に対し、挑戦者のフジの『オレたちひょうきん族』は、アドリブの宝庫。当初はトリプルスコアを付けられていた『ひょうきん族』だったが、じりじりと差を詰め、遂には『全員集合』を抜き去り、終了へと追い込んだのだ。

カギは非・予定調和

そう――思うに、フジの強み(DNA)とは、昔から一貫して、演者のフリートークとアドリブだと思う。その際、作り手に求められるのは、演者をリラックスさせて、自由な発言が飛び出す空気を作ること。これに関しては、フジは昔から他局に長けている。日テレもTBSも、この自由な空気感はマネできない。

これだ。フジがバラエティで復活する道は、この持って生まれたDNAを生かさない手はない。要はそれを21世紀にアップデートするのだ。コンプライアンスが叫ばれる今だからこそ、挑戦しがいがあるのではないか。

しょせん、日テレ流の作り込んだバラエティで勝負しても、フジに勝ち目はない。それは、日テレのDNAだから。『世界の果てまでイッテQ!』はその集大成なのだ。だったら、フジはフジのやり方で勝負するしかない。そう、何が飛び出すか分からない“非・予定調和”だ。

ターゲットは女性と若者

それともう一つ――フジテレビならではのターゲットの特性にも留意したい。
「母と子のフジテレビ」の昔から、フジは他局に比べて女性と若年層の視聴者が多い傾向にある。これは今も変わらない。各種データを見ても、NHKと民放キー局を通して、フジの視聴者層が最も若い。そして女性が多い。

現状、視聴率を稼ぐには、高齢者を狙えと言われる。日テレとテレ朝の視聴率が比較的高いのは、要は視聴者の年齢層が高いからである。だから、その線で勝負しても、フジに勝ち目はない。

だったら、ここは割り切って、女性と若者にターゲットを絞り、新しいバラエティを仕掛けるのだ。考えたら、『あいのり』や、その発展形の『テラスハウス』(現在は『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』)は今も人気だし、やはり餅は餅屋なのだ。
それに、本当に面白い番組を作れば、例えメインターゲットが女性と若者でも、幅広い層が見てくれる。全盛期の『みなおか』や『めちゃイケ』が20%から30%の視聴率を稼いだのは、そういうことである。

面白い番組は面白い社員が作る

そして、面白い番組を作るにあたって、忘れてはいけないこと――それは、つまるところ、“面白い番組は、面白い社員が作る”ということだ。

思えば、80年代にフジがバラエティで一世を風靡した時は、いわゆる“ひょうきんディレクターズ”らにもスポットが当たった。90年代にフジが連ドラブームをけん引した時は、大多亮プロデューサー亀山千広プロデューサーも注目を浴びた。2000年代に入り、フジが再び三冠王に就いた時は、『めちゃイケ』の片岡飛鳥総監督が脚光を浴びた。

それは、他局も同様である。90年代に日テレがバラエティで視聴率を伸ばした時代は、Tプロデューサーこと土屋敏男サンや五味一男サンが注目を浴びたし、今、バラエティで良くも悪くも物議を醸している『水曜日のダウンタウン』は、TBSの藤井健太郎Dの存在抜きには語れない。テレビ朝日なら『アメトーーク!』の加地倫三サンに、『陸海空 地球征服するなんて』のナスDこと友寄隆英Dが目立っているし、テレ東なら『池の水ぜんぶ抜く』をはじめ、面白い企画は大抵、伊藤隆行プロデューサーの影がちらつく。

そう、フジテレビ復活のカギは、面白い社員がどんどんオモテに出ることだ。もう、「裏方に徹する」なんて謙遜しなくていい。幸い、フジには面白い社員がまだまだ大勢いる。積極的に露出していこう。

フジテレビ復活の顔

最後に、フジテレビ復活を期待して、その顔になってほしい一人の女子アナを紹介して、このコラムを〆たいと思う。
その人物とは――宮司愛海アナである。

思えば、先日、物議を醸したサッカーロシアW杯予選リーグ最終戦の「日本対ポーランド」。フジテレビはその中継局だったが、あの時、スタジオにいたのが宮司アナだった。例の「フェアプレーポイント」で日本が決勝へ進む微妙な空気の中、そんな戸惑う空気をあえて隠さず、さりとてしっかりとした口調で進行する宮司アナが、気になった視聴者も多かっただろう。

彼女は福岡出身で、僕の同郷だから推すワケじゃないけど――似たようなミディアムヘアーの女子アナが多い中、そのショートカットの美貌は抜群の存在感を放っている。何より、アナウンス力・アドリブ・キャラと、その才能は申し分ない。この4月から週末のスポーツニュース『S-PARK』のメインMCに抜擢されたのが、彼女の実力を物語る。いや、それだけじゃない。ここ一番の大舞台のMC――最近では、先の衆院選の開票速報特番や今回のW杯など――は、決まって宮司アナが指名されることが多いのだ。それは図らずも、上層部からの信頼を伺わせる。つまり、彼女なら安心して任せられるのだ。

過去、フジテレビの調子がいい時は、必ず“顔”となる女子アナがいた。古くは80年代前半のひょうきんアナの3人に、80年代後半の『プロ野球ニュース』の中井美穂アナ90年代に入ると、有賀さつき・河野景子・八木亜希子の三人娘が注目を浴び、2000年代に入ると、『めざましテレビ』発でアヤパン・ショーパン・カトパンらが脚光を浴びた

そして今――その顔は、宮司愛海アナが担うべきだと僕は思う。
彼女がフジテレビの顔と世間から認知されたその時、フジは不死鳥のごとくV字回復を遂げていると確信する。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第40回 テレビは多様性を取り戻すべき論

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久しぶりに仕事が早く終わって、夜の7時前に家に帰りついたとする。
ひとっぷろ浴びて、さぁ夕食タイムだ。そういえば、この時間にテレビを見るのは久しぶり。どれどれと、あなたは新聞のテレビ欄を見るだろう。「えーっと、この時間にやってるテレビは……」

恐らく、ここであなたは愕然とするはずだ。4月と10月の改編期でもないのに、ゴールデンタイムの民放はどこも2時間や3時間のスペシャル番組ばかり。しかも、どの番組名を見てもピンとこない。

ためしにテレビをつけてみる。どの局でもいい。そこには――華やかなスタジオセットに、人気タレントと女子アナが司会に扮し、脇のひな壇には毒舌俳優や元アスリート、グラビアアイドル、中堅どころのお笑い芸人らがいて、VTRはどこかの国の奇祭に男女のタレントが体当たりリポートする様子を映し、ワイプにはそれにリアクションするひな壇の彼らの顔が見える――という、恐ろしく既視感のある番組が流れているだろう。

情報バラエティという禁断の果実

現在、ゴールデンタイム(19時~22時)の地上波の民放の番組は、8割近くがバラエティである。中でも多いのが「情報バラエティ」なるジャンルの番組だ。先の例もそうで、要はスタジオに司会とパネラーたちがいて、VTRを見て、トークをする類いの番組である。

そのVTRはグルメだったり、旅ものだったり、生活お役立ち情報だったり、歴史や医療などのお勉強ものだったり――と色々なパターンがあるが、何かしら「情報」が得られるのが共通点だ。スタジオ部分は、時にクイズになったり、ランキング形式になったりもするが、トーク主体である点は変わらない。要は、スタジオ+VTR+トーク=情報バラエティである。

そして――この情報バラエティこそが、近年の“テレビ離れ”の大きな要因の1つであり、テレビ界で密かに「禁断の果実」と呼ばれているのである。

途中から見始める情報バラエティ

情報バラエティの何が問題か?
――困ったことに、視聴率をそこそこ稼いでしまうのだ。
え? 視聴率が取れるなら、別に問題ないじゃないかって? いや、それはそうなんだけど、ここで言いたい問題は、視聴者がその番組を見ようと思って、見始めていない点にある。

どういうことか。
大抵、「情報バラエティ」は2時間とか3時間の長尺で作られ(レギュラー番組のスペシャル版だったり、単発スペシャルだったり)、その長尺ゆえに、視聴者はリモコンでザッピングしている途中で、目に止まって、それを見始めることが多い。VTRが気になったり、パネラー陣の中にひいきのタレントがいたり――まぁ、動機は何でもいい。とにかく、ザッピングの途中でリモコンの手が止まり、ついつい見てしまう――これが長尺の情報バラエティが見られるパターンだ。

つまり、意図して見始めたワケじゃないので、初めからじゃなく途中からの視聴となり、そうなると番組のタイトルすら把握していないケースが多いのだ。

視聴者を逃さないテクニック

そう、途中から見始めた情報バラエティ――。
次なる問題点は、一旦見始めたら最後、ズルズルと番組を見続けてしまう点にある。
え? それも別にいいことじゃないかって?

まぁ、確かに、見続けてもらえる――それ自体は番組作りの正しい姿だろう。その背景には、この65年の日本のテレビの歴史で、いかにお茶の間を飽きさせないで、番組を見てもらえるかを研究し続けたテレビマンたちの苦闘があった。その結果が、VTRとスタジオトークが絶妙に絡み合い、視聴者が何かしらお勉強した気になる「情報バラエティ」なのだ。

それは、秒単位でテロップや効果音が編集され、一度見始めたら最後、飽きることなく最後まで見続けられる。特に50代以上のテレビに愛着のある層ほど、その術中にハマりやすい。
その結果、情報バラエティは毎回、そこそこの視聴率を稼いでしまう。だが――一方で視聴者は、その番組のタイトルすら、最後まで知らなかったりするのである。

若者のテレビ離れへ

いかがだろう。情報バラエティの“禁断の果実”ぶりが、段々見えてきたと思う。
1つは、長尺であるがゆえに、途中から見始めるケースが多いこと。2つ目は、見始めたら最後、絶妙な編集でズルズルと見続けてしまい、特に高齢者ほどその“罠”にハマりやすく、結果として視聴率を稼いでしまうこと。そして――最大の問題は、視聴者はその番組のタイトル、いや、どうかしたらテレビ局すら把握していないこと――。

それは、つまるところ、何を意味するか?
テレビ局としては、そこそこ視聴率が稼げるので、また長尺の情報バラエティを作ろうという話になるだろう。
一方、視聴者は昨夜見た情報バラエティのタイトルやテレビ局すら把握していない。つまり――まるで“視聴習慣”として根づいていないのだ。

そう、視聴習慣が根づいていない――これこそが、昨今の“若者のテレビ離れ”の正体である。

昭和のテレビは人々の生活習慣の中にあった

若者のテレビ離れ――その外敵要因としては、スマホの普及や若者の生活習慣の変化などが挙げられる。だが、その最大の要因はテレビ側にあり、それは「情報バラエティ」なる禁断の果実がもたらしたのである。

そうなると、若者のテレビ離れを食い止める対策は1つしかない。
“視聴習慣”を再び根づかせるのだ。そのためには情報バラエティを減らし、印象に残る、多様性のあるレギュラープログラムを復活させるしかない。

思えば、昭和のテレビは、人々の生活習慣の中に組み込まれていた。火曜9時は『火サス』(日テレ系)、水曜9時は『欽どこ』(テレ朝系)、木曜9時は『ザ・ベストテン』(TBS系)、土曜8時は『ひょうきん族』(フジ系)――。オンエアを見るために、用事を切り上げて、急いで家に帰ることも多かった。

時代劇は週に10本以上あった

現代と昭和で、新聞のテレビ欄を見比べた時、大きく2つの点で異なる。

1つは、現代の民放テレビは年中スペシャル番組が氾濫しているが、昭和の時代は、改編期以外はレギュラープログラムの平常運転だったこと。
2つ目は、現代の民放テレビのゴールデンタイムの8割近くはバラエティだが、昭和の時代は、番組が多様性に富んでいたこと。

例えば――今や地上波で絶滅危惧種と言われる時代劇。昭和の時代は、実に週に10本以上もゴールデンタイムに放映されていたのである。
かの『水戸黄門』をはじめ、先に亡くなられた加藤剛さんの『大岡越前』、他にも『遠山の金さん』、『銭形平次』、『桃太郎侍』、『暴れん坊将軍』、『必殺仕事人』、『鬼平犯科帳』、『江戸を斬る』、『木枯し紋次郎』、『大江戸捜査網』――と、毎日のようにどこかの局が時代劇を放映していた。

昭和の時代、京都の太秦撮影所や松竹撮影所は、いつも撮影が行われ、活気に満ちていた。アイドルや若手俳優は時代劇を経験することで、自然と役者の世界のしきたりや演技の幅を学び、脚本家のタマゴや助監督らも時代劇で修業し、やがて独り立ちした。

当時はテレビが一家に一台だったので、時代劇は家族で見た。平成の時代劇のように、年寄りの娯楽じゃなかった。実際、TBSの月曜8時に『水戸黄門』が始まった当初、助さん役の杉良太郎と格さん役の横内正は共に20代で、アイドル的人気を博した。当時のOLや女子高生は、今の月9を見るように『水戸黄門』を見たのである。

伝説の歌番組『ザ・ベストテン』

今や絶滅危惧種となった番組に、歌番組もある。
最も有名な歌番組と言えば、昭和の人々の“木曜9時”の習慣に組み込まれていた、TBSの『ザ・ベストテン』だろう。

かの番組、最高視聴率は41.9%(関東地区)。その最大の要因は、“時代”を見せたことに尽きると言われる。現に、初代司会者の久米宏サンが、後にこんな趣旨のことを語っている。「『ニュースステーション』はニュース番組の形を借りたバラエティで、『ザ・ベストテン』はバラエティの形を借りたニュース番組でした」――。

そう、毎週木曜9時の生放送。スケジュールが許せば、出場歌手にはスタジオに来てもらうが、コンサートなどで地方にいる場合は、TBSの系列局のアナウンサーが現地にお邪魔して、そこから中継させてもらう――これが、同番組の最大の発明だった。
つまり――『ザ・ベストテン』は、毎週木曜9時に、今を時めくスターたちが“どこで、何をしているか”を伝える番組だったのだ。先の久米サンの言葉は、そういう意味である。

歌番組は歌を聴かせる番組だった

思えば、昭和の時代は、『ザ・ベストテン』をはじめ、各局に歌番組があり、毎日、どこかの局が放映していた。
一例を挙げると――『レッツゴーヤング』、『ビッグショー』(以上、NHK)、『NTV紅白歌のベストテン』、『ザ・トップテン』(以上、日テレ系)、『ロッテ 歌のアルバム』、『トップスターショー 歌ある限り』(以上、TBS)、『ザ・ヒットパレード』、『夜のヒットスタジオ』(以上、フジテレビ)、『ベスト30歌謡曲』、『夢のビッグスタジオ』(以上、テレビ朝日)――etc.

当然だが、当時の歌番組は純粋に歌を聴かせる番組だった。司会者がいて、出場歌手がいて、歌う前に2、3のやりとりがあって、歌う――これだけ。しかも、全て新曲で、それもヒット曲だった。延々トークをして歌手のキャラを無理に立たせたり、懐メロのコーナーを入れる必要もなかった。

だが、今や地上波のレギュラーの歌番組は絶滅寸前。その一方で、各局とも夏と冬に長尺の音楽のスペシャル番組を組むのが定例化している。要するにお祭りだ。
とはいえ、毎週歌番組を放映して、人々の生活習慣に組み込んでもらうことこそ、ヒット曲不足に悩む音楽業界を救う正攻法ではないだろうか――。

ゴールデンで放映された一社提供ドキュメンタリー

絶滅危惧種の番組はまだある。
ドキュメンタリーだ。今やドキュメンタリー番組を、民放のゴールデンタイムで見る機会はほとんどない。
一方、海外に目を向けると、ディスカバリーチャンネルやナショナルジオグラフィックなど、予算をかけて良質なドキュメンタリーを制作するチャンネルが存在し、人気も高い。

しかし――日本でも昭和の時代は、ドキュメンタリーが普通にゴールデンタイムに放映されていたのだ。『三井ワールドアワー 兼高かおる世界の旅』(TBS系)、『日立ドキュメンタリー すばらしい世界旅行』(日テレ系)、『トヨタ日曜ドキュメンタリー 知られざる世界』(日テレ系)、『NECアワー 野生の王国』(TBS系)――etc.

タイトルを見ても分かるが、ドキュメンタリーは一社提供番組が多い。それは、一社提供だと視聴率主義に走らず、良質なドキュメンタリーを安定して制作できるからである。企業イメージもよくなり、win-winの関係を築ける。
だが、平成になり、各局がし烈な視聴率競争をするようになると、いつしかドキュメンタリーはお荷物となり、ゴールデンから消えたのである。

先にも述べた通り、海外ではドキュメンタリーはメジャーな存在として扱われる。日本でも、もう一度、一社提供の質の高いドキュメンタリーをゴールデンタイムに放送できないものだろうか。視聴率とは別の視点で、“テレビ離れ”を食い止める一定の効果があると思われるが――。

三つ子の魂百まで――子供向け番組が必要な理由

40代より上の世代なら、昭和の時代、夕方5時のテレビはアニメの再放送が定番だったのを覚えているだろう。
そして、6時台のニュースを挟んで、7時の夕食タイムになると、今度は30分の子供向け番組が放送される。アニメ以外に学園ドラマなどもあった。

フジテレビには、長らく日曜夜7時半に『世界名作劇場』(当初の『カルピスこども名作劇場』から数回改題)なる枠があり、スタジオジブリを作る前の高畑勲監督や宮崎駿監督も参加して、『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』などの数々の良作のアニメを送り出した。

だが――現在、テレビ界では、それら子供向け番組は激減している。
夕方のニュースは長尺化されて主婦向けとなり、アニメの再放送枠は消滅。夜7時台も、件の情報バラエティが氾濫し、子供向けの30分番組は見る影もない。フジの「世界名作劇場」も1997年で終わってしまった。

俗に、「三つ子の魂百まで」と言うが、かつて昭和の子供たちは、子供向け番組を見て育ち、テレビが好きになった。今、“若者のテレビ離れ”と言われるが、そもそも子供向け番組を減らしておいて、何をか言わんやである。

“下世話感”が評価されたワイドショー

最後に、意外な絶滅危惧種の番組を挙げたい。それは――ワイドショーである。
え? ワイドショーなら、今でも放送されてるだろうって?

いや、『情報ライブ ミヤネ屋』(日テレ系)や『直撃LIVE グッディ!』(フジ系)といった番組は、正確には“情報ワイドショー”と言って、昭和の時代のワイドショーとは少々異なる。
その最大の違いは、“下世話感”の有無である。

例えば、昭和の時代の代表的なワイドショーに『アフタヌーンショー』(テレ朝系)なる番組があった。司会は俳優の川崎敬三サン。そこに、芸能リポーターの梨元勝サンや俳優でリポーター役の山本耕一らレギュラー陣が加わり、芸能界のスキャンダルから、下世話な社会の事件などを紹介して、論じた。ザ・ぼんちが歌う『恋のぼんちシート』の歌詞にもなった「そーなんですよ、川崎さん」の名文句は流行語になった。

昭和のワイドショーがお茶の間に好まれた理由は、いい意味で“下世話感”があったからだ。テレビというとメディアの王様みたいで偉そうに見えるが、時々、こうやって下世話なこともやってくれる。実にくだらない。だが――それがいい、と。くだらないニュースを真剣に論じ合うワイドショーに、視聴者は、安居酒屋でバカ話をしてくれる下町のおっちゃん臭を感じたのである。

一方、今の「情報ワイドショー」は、芸能プロダクションに忖度するあまり、芸能スキャンダルをほとんど扱わない。代わって取り上げるのが、政治ネタである。報道局(政治部)が作るニュースと違い、情報制作局が作る情報ワイドショーは基本、政治家に忖度する必要がないので、上から目線でガンガン叩く。正義のヒーロー気取りだが、過剰な演出や論法に正直、「何様?」と思ってしまう。その結果――テレビはかつての下世話な“親しみ”すらも、失ったのである。

なぜ恐竜は滅んだのか

今から6500万年前、メキシコのユカタン半島に直径10kmの巨大隕石が衝突して、大気中に膨大な量の煤(すす)をまき散らして地球が急激に寒冷化し、恐竜が絶滅したと言われる。

だが――ご存知の通り、小さなほ乳類や鳥類、爬虫類は生き残り、現在、我々人類は繁栄している。恐竜が絶滅したのは、種のバリエーションが少なく、あまりに巨大サイズに特化したために、環境の変化に対応できなかったからである。

そう、進化を制すのは強い個体や「種」ではない。多様な「種」である。環境が変化した時、それに対応できる個体を持っていた種が生き残るのだ。

多様な番組が未来を作る

同じことがテレビにも言えないだろうか。
この先、テレビ界にどんな環境の変化が訪れるのか分からない。だが、ゴールデンタイムの80%近くがバラエティに特化され、スペシャル番組が氾濫する現状は、果たして来るべき変化に耐えられるだろうか?

提案する。
テレビ界はもう一度、かつての昭和の時代のような「多様性」を取り戻すべきである。そしてレギュラー番組を重視して、もう一度、視聴者の生活習慣の中に、テレビを入れてもらうのだ。

このままだと、テレビは恐竜と同じ末路を辿りかねない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第41回 7月クールドラマ中間決算

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さて――7月クールのドラマも中盤を過ぎ、既に終盤を迎えている。

ここで、あらためて同クールの見どころをサクッと振り返ってみたいと思います。えっ、もう脱落しちゃった? なに、録画したまま気がつけば周回遅れになってる?
――大丈夫。前々から言っているように、連ドラというのはいつ見始めてもいいんです。それに特定の回を切り取って見たとしても、優れた連ドラならすぐに全体像が掴めるというもの。だから、“中抜け”して見ても大丈夫。

とはいえ、皆さん、お忙しい。
なので、ここでは、この先どのドラマを見ればいいのか、その指針をお示ししたいと思います。そう、連ドラを後半から見始める利点に、見るべき作品を絞れる特典がある――なんてね。

今クール最高傑作『ギボムス』

最初に、はっきり申し上げましょう。
この7月クールの最高傑作は、TBSの火曜10時から放送されている『義母と娘のブルース』――通称ギボムス、これ一択です。忙しい人は、とにかくこれだけ見るといい。

なんたって、主演・綾瀬はるか、脚本・森下佳子、演出・平川雄一朗と、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『JIN-仁-』などと同じ鉄板の座組。ぶっちゃけ、日曜9時の日曜劇場でもイケたが、今クールは『この世界の片隅に』がある関係(戦争ドラマ+家族の話なので、夏クールの日曜劇場で放映する以外にない)で、火曜10時になっただけのこと。

珠玉の森下脚本

まず、『ギボムス』の何が面白いって、再婚する2人の馴れ初めもプロポーズもすっ飛ばして、いきなり義母と娘の“初顔合わせ”から始まる導入だ。物語の舞台は2009年。つまり、ちょっと前の話。まだスマホはなく携帯の時代で、冒頭は、高校生に成長したみゆき(上白石萌歌)の回想ナレーションだった。
「もし、私の人生を歌にしたとすれば、それはブルースだ」

このドラマ、実はある種のミステリーなんですね。
なぜ良一と亜希子は結ばれたのか?
なぜ良一と亜希子は同じ部屋で寝ないのか?
なぜ亜希子はキャリアウーマンの地位を捨ててまで主婦の道を選んだのか――?

それら諸々の疑問はドラマが進むにつれ、徐々に氷解する。そう、これが視聴者をドラマに引き込む、いわゆる“カタルシス”なんです。

以下は、ネタバレだけど――実は良一、スキルス性の胃がんに侵され、余命いくばくもない体。そこで、自分の勤め先と同じ業界で、やり手のキャリアウーマンとして知られる亜希子にプロポーズしたのだ。自分が死んだあと、娘を育ててほしいと。一方、亜希子も密かに一人で生きる寂しさから解放されたいと思っていた。つまり、この結婚は両者の利害関係が一致した取引――“契約”だった。
「しかしながら、なぜ私に?」
「僕が知ってる女性の中で、一番頼りになりそうだからです」

驚くのは、このドラマの原作は桜沢鈴サンの4コマ漫画であること。4コマを連ドラに脚色した森下さんの筆力も相当なものだが、あらためて原作を読むと、ちゃんとドラマで描かれたエッセンスが凝縮されているのが分かる。決して、飛躍した脚色じゃない。原作を生かし、ドラマも生かす。恐るべし、森下佳子。

綾瀬はるかと竹野内豊の安定感

そして、そんな珠玉の脚本に見事な演技力で応えているのが――メインの綾瀬はるかと竹野内豊の2人である。

まず、綾瀬サン演じる亜希子の振り切ったキャラが抜群にいい。キャリアウーマンと言いつつ、やってることは、広告代理店のD通マンと変わらない。要するに、クライアントのためなら何でもやります――というアレ。すぐに土下座もするし、腹踊りも厭わない。しかも、全ての動作がまるでロボットのように、完璧に遂行されるのだ。その辺りの綾瀬サンの体を張った“新境地”も、同ドラマの見どころの1つである。

一方、竹野内サン演じる良一は、とにかく人がいい。仕事はそれほどできないけど、その人柄の良さで周囲から自然と慕われるタイプだ。これをリアリティ豊かに見せてくれる(本当にこういう人が実在しているように見える)のは、竹野内サンの真骨頂。僕は、彼ほど「引き出し」の多い役者を知らない。

役者の演技を引き出す平川演出

そして、忘れてならないのが、そんな役者の神演技を引き出す、平川雄一朗サンの神演出。笑わせ、驚かせ、そして最後に泣かせる――。

“契約結婚”に踏み切った亜希子と良一だが、そんな風にひょんなことから一緒になった2人が、やがて真実の愛を育むのは、『逃げ恥』でも見られたように、古今東西の物語の常道である。
そんなドラマ・セオリーを緩急つけながら、自然と描けるのは平川サンの名人芸。役者もスムーズに役に入り込めるというもの。

素で竹野内豊が泣いた4話の神シーン

同ドラマの印象的なシーンに、4話で亜希子と良一が娘のみゆきのために2人のなれそめの打ち合わせをした帰り、歩きながら2人が交わすやりとりがあった。

亜希子「結局のところ、していないお付き合いをしていたとするほかは、ほとんど本当のことでなれそめが出来てしまいましたね」
良一「逆に言えば、僕たちは意外と普通に結婚したってことになるんですかね」
亜希子「それは違うのではないでしょうか。普通の結婚というのは、共に人生を歩くためにするものではないかと考えます。いわば、二人三脚のようなものかと。しかしながら、私たちのそれは――リレーです」
良一「さすが……(ここで感極まる)うまいこと言いますね」

この最後の台詞のところ、竹野内サンは本当に感極まって泣いてるんですね。見ているこちらも、思わずもらい泣きしたほど。
何気ないシーンの何気ない会話で、役者の自然の演技を引き出す――これが『ギボムス』の演出なんです。

後半は現代パート

そして、ドラマは後半の6話から現代へと時間が飛び、みゆきは高校生となり、上白石萌歌サンが演じている。
一方の亜希子は、専業主婦を続けているものの、容姿に全く変化がない。その辺りの演出の割り切りもいい(描きたいのはそこじゃないから)。親子の会話も、亜希子は相変わらずビジネス敬語で、みゆきは自然体だ。
つまり――良一がいないだけで、2人の関係は基本、9年前から変わっていない。

6話の最後、みゆきが幼馴染みの大樹(ヒロキ)から告白され、驚いてその場から逃げ出すくだりがある。この時の彼女のモノローグが、ドラマの後半戦の火ぶたを切る。

「父が亡くなって9年。私は、生まれて初めて告白というものをされ、義母は再び、働きに出ることにした。ただ、それだけのことだ。――ただ、それだけのことが、義母と私の、親子関係をえぐることになってしまうのだった」

なんと、タイトルの『義母と娘のブルース』は、実は後半戦にかかっていると、この時、僕らは知らされたのだ。考えたら、前半戦は夫婦の絆の物語だったので、本当の意味での本編はこれからなのだ。

そう、ここでも視聴者をドラマの後半戦に惹きつける“カタルシス”が効いているんですね。今後、この2人にどんなブルースなエピソードが待ち受けているのか?――と。

最終回への期待

同ドラマの主題歌は、MISIA の『アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)』である。これがまたドラマにハマっている。毎回、エンディングでこれがかかると、物語がグッと盛り上がるんですね。

さて、視聴率である。
初回11.5%で始まり、その後徐々に上げて、6話で13.9%と自己最高を更新した。その時点で7月クールのトップを快走しており、2年前に同じ枠だった『逃げ恥』とほぼ同じ軌跡を描いている。このまま行けば、最終回の20%超えも夢じゃない。

もう、これは最後まで見届けるしかないでしょう。

『絶対零度』は事実上のスピンオフ

さて――ちょっと『ギボムス』への思い入れが深すぎて長くなっちゃったけど、ここから先は、その他の見るべきドラマをサクッと紹介したいと思います。

まず、フジテレビの月9。『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』のシーズン3が絶賛放映中である。これが意外と面白い。
――とはいえ、同シリーズは1シーズンごとにまるで別のドラマと言っていいくらい、各々の世界観が独立している。シーズン1はタイトルの通り、米ドラマ『コールドケース』をオマージュしたものだったし、シーズン2は「潜入捜査」の世界を描き、これは米ドラマの『NCIS:LA~極秘潜入捜査班』を彷彿とさせた。

そしてシーズン3は、まだ起きていない犯罪――「未然犯罪」がテーマである。これは恐らく、米ドラマの『PERSON of INTEREST 犯罪ユニット』をオマージュしてますね。ビッグデータやAIがプログラミングされた“システム”で犯罪を予知するプロットで、従来の刑事ドラマと一線を画す、新しい試みだ。
しかも今作から、主役が上戸彩サンから沢村一樹サンに交代している。タイトルは同じだけど、もはやスピンオフドラマと言っていい。

見えてきた月9の方向性

それにしても、『絶対零度』のシーズン1と2は火曜9時枠だったのに、なぜ今シーズンから月9になったのか。
多分――それは、本作が月9の目指す方向性に相応しいドラマだから。

え? 月9といえば、恋愛ドラマじゃないのかって?
いえいえ、この1年――恋愛モノは『海月姫』しか作られていません。不幸にも、昨年1月クールの『突然ですが、明日結婚します』が歴史的惨敗を喫して、月9は方針転換せざるを得なくなったんです。
で、この1年、試行錯誤を繰り返した結果、前クールの『コンフィデンスマンJP』から、ようやく1つの方向性が見えてきた。それは――ドラマの“世界の潮流”をいち早く取り入れるというもの。

ようやく世界を見始めた日本のドラマ界

そう、世界だ。
日本では、連ドラは苦戦しているが、実は、世界に目を向けると空前のドラマブームである。それをけん引するのはNetflixやHulu、Amazonプライムなどのネット配信企業。何が凄いって、彼らの予算の掛け方だ。1つのドラマの1シーズンの制作費が100億円なんてことも珍しくない。それだけ掛けても、ちゃんと回収できるんですね。何せ、マーケットは世界だから。

一方、日本の連ドラはスポンサーの広告予算で作られ、国内向けである。1クールの予算は3~4億円。そもそもビジネスモデルが違うから、ここからマーケットが飛躍的に拡大することもない。
ただ――このままだと世界の潮流から取り残されると、ようやく日本のテレビ局も重い腰を上げたんですね。

その手始めが、フジテレビは「月9」の改革だったと。将来の海外マーケットを見据え、その枠で掛けるドラマを世界標準に近づけようと考えた。それが、“コンゲーム”の世界を描いた前クールの『コンフィデンスマンJP』であり、従来の刑事ドラマと一線を画した今クールの『絶対零度』(シーズン3)ってワケ。ちなみに、次の10月クールは織田裕二と中島裕翔のバディーもので、米ドラマ『SUITS/スーツ』のリメイクである。

木10久々の二桁

お隣の国、韓国に目を向ければ、実は韓国のドラマはとっくに海外マーケットに舵を切っている。元々、人口が日本の半分しかないので、K-POPも早くから日本をはじめ、海外に進出したように、ドラマも必要に迫られての行動だった。

その結果――近年、韓国ドラマは“脚本力”が飛躍的に上昇したんですね。
ひと昔前、いわゆる「韓流ドラマ」は、『冬のソナタ』をはじめ、ドラマチックすぎる展開(主人公の記憶喪失や出生の秘密など)が定番だったが、今や海外マーケットを意識した、普遍的でクオリティの高い脚本のドラマが増えている。

この7月クールの、フジの木10ドラマ『グッドドクター』もその一つ。同ドラマは2013年に韓国で放映されて人気を博し、昨年、米ABCでリメイクされ、そこでも評判となった。そして今年、満を持して日本にやってきたのだ。

初回視聴率は11.5%。これ、なんと木10枠で二桁を取ったのは、2年ぶりだったんですね。そして、その後もずっと二桁をキープしている。

医療ドラマ版『ATARU』

主人公・新堂湊を演じるのは、山﨑賢人。湊は自閉症で、サヴァン症候群を抱える小児科の研修医という設定。つまり、コミュニケーション能力に難がある。果たして、そんな人物に繊細な医療が求められる小児科医が務まるのか――というのが同ドラマのカタルシスだ。

しかし、そんな周囲の心配をよそに、湊はその抜群の記憶力と、子供のような純粋な心で、次々と奇跡を起こしていく――これが同ドラマの大まかなプロット。要は、かつてのユースケ・サンタマリア(リメイク版は山下智久)主演の『アルジャーノンに花束を』とか、中居正広主演の『ATARU』みたいな路線ですね。医療ドラマ+障害モノだから、鉄板と言えば鉄板だ。

脚本は徳永友一サン。徳永サンは以前もフジで、韓国ドラマ『ミセン-未生-』をリメイクした『HOPE〜期待ゼロの新入社員〜』を手掛けている。これも面白かったので、今作の安定した仕事ぶりも頷けるというもの。未見の方は、同ドラマを見て損はないと思います。

夜の朝ドラ『この世界の片隅に』

さて、次にTBSの日曜劇場だ。今クールはドラマ版『この世界の片隅に』が絶賛放映中である。

ご存知の通り、同じ原作のアニメの映画版が一昨年、わずか63館で封切られたものの、その後、累計400館を超える大ヒット。キネマ旬報の日本映画第一位となったのは記憶に新しい。そんな超・話題作のドラマ版だから、開始前から何かと外野の声もうるさかった。

現状、中盤まで視聴率は10%前後で推移しており、同枠の潜在視聴率を考えれば、ちょっと苦戦している。とはいえ、主人公・すずを演じるのは、ドラマ初主演の松本穂香であり、役者の知名度を考えれば、致し方ない面もある。

一方、彼女の周囲を固めるのは、夫役の松坂桃李をはじめ、尾野真千子、伊藤蘭、二階堂ふみ、田口トモロヲ、宮本信子らと、こちらは実力派俳優たちがズラリと並ぶ。脚本もベテラン岡田惠和サンに、演出チーフがTBSの重鎮・土井裕泰サンと、ぬかりない。

――そう、要はこのドラマ、ヒロインに新人を当て、周囲の役者やスタッフをベテランで固めて丁寧に作り込む、NHKの朝ドラと同じ手法なんですね。恐らく、確信犯。その意味では、クオリティ面で十分健闘していると思う。

あの声明は何を意味していたのか

同ドラマは、序盤、ちょっと物議を醸した騒動があった。
それは、アニメの映画版の製作委員会が、ドラマ版のエンドロールにある「special thanks to映画『この世界の片隅に』製作委員会」のクレジットに対して、自身の公式サイトで声明を発表したからだ。「ドラマの内容・表現等につき、映画に関する設定の提供を含め、一切関知しておりません」――と。

これ、映画版の熱心なファンの中には、「片渕須直監督に無断でクレジットを入れたんだ!」と憤慨する人たちがいたけど、それは早計というもの。もちろん、クレジットは双方了承済みだし、単に片渕監督は「ドラマ版の制作にはタッチしてませんよ」と、インフォメーションしたかっただけ。
多分、ドラマ版を見た映画版の熱心なファンから監督に色々と問い合わせが来て、それに公式に回答する意味合いだったと思う。基本、両者にわだかまりは一切ない。

ドラマ化作品の楽しみ方

ここで、いい機会だから、原作のある映画やドラマの楽しみ方を解説しておきますね。これは他の作品でも同様だから、参考にしてもらえれば幸いです。

基本――小説であれ漫画であれ、原作は原作で完成しており、“最終形”である。まず、この考えをしっかり持っておいてください。だから、原作を映画化したり、ドラマ化したら、それは原作とは別ものと考えるのがスジ。原作は、映画やドラマの“脚本”じゃないのだから(←ココ大事なところです)。そうじゃないと、映画やドラマにする意味がない。それぞれを楽しめばいいんです。

それを踏まえると――『この世界の片隅に』も、原作者のこうの史代さんの漫画がそもそも最終形。映画版はそれとは違う片渕須直監督の作品であり、ドラマ版も、その2つとは違うTBSの作品。各々、好きな作品を楽しみましょう。

『チア☆ダン』は青田買い目線で

近年、TBSのドラマはキャスティングに、あるこだわりが見られる。それは、作品重視でキャストを選んでいること。
え? そんなの当たり前だろうって?

――いえいえ、先に役者を決めてから、それに相応しいドラマの題材を探すことは珍しくないし、視聴率を狙うなら、売れっ子のスターさんを起用するのも間違いじゃない。テレビドラマは見られてナンボだから。
でも、近年のTBSのドラマを見ていると、極力、作品重視でキャスティングしているように見える。今クールの『チア☆ダン』もそうだ。

正直、生徒役で名前と顔が一致するのは、メインの3人――土屋太鳳、石井杏奈、佐久間由衣くらい。あとの人たちは申し訳ないが、一般的な知名度はそれほど高くない。
でも――それでいいんです。同ドラマは、地方の高校の無名のチアダンス部が「全米制覇」という、途方もない夢へ向かって突き進む物語。視聴者にとって、部員たちに変な色が付いていないほうが感情移入できるんです。

実際、同じようなフォーマットに、3年前の同枠で放送された『表参道高校合唱部!』がある。あの時も、主演の芳根京子を筆頭に、生徒役のほとんどは一般的には無名だった。でも、彼らは同ドラマをステップに知名度を上げ、今や森川葵に志尊淳、葵わかな、吉本実憂――と、皆売れっ子になった。

そう、『チア☆ダン』も、未来のスターを青田買いする目線で見ると、より楽しめるというもの。

『dele』は21世紀版『傷だらけの天使』

さて、長くなってきたので、このコラムもそろそろ締めたいと思う。最後にオススメするのは――テレ朝の『dele(ディーリー)』である。

同ドラマ、原作は本多孝好の小説で、企画段階から並行して映像化が進められ、メインの2人――圭司と祐太郎は、山田孝之と菅田将暉を想定して当て書きされたという。それを原作者の本多をはじめ、金城一紀や渡辺雄介、青島武ら複数の脚本家が競作する体で、ドラマ化されたのだ。

“dele”とは、デジタル用語で「削除」の意味。それは、圭司と祐太郎の仕事――クライアントの依頼を受け、その人の死後に不都合なデジタル遺品をすべて内密に抹消する仕事を表している。

さて、ドラマの中身だが、さすがに当て書きしただけあって、2人の役のハマり具合が半端ない。菅田サン演じる祐太郎のアホキャラは笑えるし、山田サン演じる圭司のクールで早口の芝居もカッコいい。2人を見てると、まるで『傷だらけの天使』の亨(水谷豊)と修(萩原健一)を見てるようでもある。

そんな風にメインの2人がノリノリで演じてるものだから、とにかく同ドラマ、面白いニオイがプンプン漂ってるんですね(←ココ大事)。だから、そんなニオイに誘われるように、各回のゲストスターも、コムアイ(水曜日のカンパネラ)だったり、野田洋次郎(RADWIMPS)だったり、柴咲コウだったり――と、ちょっと面白い。これ、空気感を楽しむ意味でも、出来る限り、リアルタイム視聴をおススメします。

大事なのはカタルシス

以上、7月クールのおススメドラマを6本、ご紹介させていただきました。『義母と娘のブルース』、『絶対零度』、『グッドドクター』、『この世界の片隅に』、『チア☆ダン』、そして『dele』――。
今からでも遅くありません。この6本を見るだけで、あなたは7月クールの連ドラを堪能できるでしょう。

え? この6本と、今回選ばれなかったドラマと、何が違うのかって?
――ひと言で言えば、“カタルシス”の有無ですね。

連ドラにとって一番大事なのは、視聴者に「次も見たい!」と思わせるカタルシスなんです。それが、この6本には明確に見られ、残念ながら今回選ばれなかった作品たちには、もう一つ見られなかった。

また、10月クールにお会いしましょう。
ステキな連ドラ・ライフを!

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第32回 2017連ドラ総決算

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 最初に断っておきますが、この記事で取り上げていないからといって、決してそのドラマが劣っているワケではありません。
 1年間に放映されるGP帯の民放の連ドラは約60本。それにNHKの連ドラも加えると――全てを扱うのはとても無理。そこで視聴率がよかったり、比較的話題になった作品をピックアップしつつ、2017年の連ドラを振り返りたいと思います、ハイ。

1月 木村拓哉vs.草彅剛で始まった2017連ドラ

 まず、2017年の連ドラ界で最初に話題になったのが、前年大晦日で解散したSMAPのメンバー2人、木村拓哉と草彅剛がいきなり同じ1月クールに登場したこと。前者が『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)、後者が『嘘の戦争』(フジテレビ系)である。

 『A LIFE』はキムタク演ずる天才外科医・沖田一光を中心とした医療ドラマの群像劇。天才外科医というと、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)をはじめ、医療ドラマの主人公の鉄板キャラだけど、同ドラマが珠玉だったのは、初回でいきなり沖田に失敗させたこと。これでスーパードクタードラマが人間ドラマになった。悩めるキムタクはちょっと絵になる。そして共演者で目立ったのが浅野忠信演じる副院長・壮大。彼の“怪演”は同ドラマのもう一つの見せ場で、彼の周りだけまるで昼ドラのような空気が流れていた。

 一方の『嘘の戦争』は、『銭の戦争』に続く復讐シリーズ第2弾。草彅剛演ずる一ノ瀬浩一は天才詐欺師。草彅クンお得意のヒールキャラで、毎度のことながら役に憑依する様が見事だった。笑ったのは、藤木直人演ずる二科隆が一之瀬の正体を探ろうと名刺にあるニューヨークのオフィスに電話したら、たった今、日本から到着したばかりの水原希子演ずる相棒のハルカが電話を取り、「ハロー」。そして一之瀬に「間に合った」とLINEすると、「よかった。すぐ帰国して」と。こういう遊びができるのも草彅ドラマの特徴である。

 マスコミは2人の同一クール対決をやたら煽ったが、僕に言わせれば、それぞれの特技を生かした盤石のドラマで、SMAPの2勝0敗という印象だった。

2月 登場・柴咲コウ。異例の子役4週だった『おんな城主 直虎』

 2月になると、NHK大河『おんな城主 直虎』にようやく主演の柴咲コウが登場する。そう、かのドラマは異例の“子役4週”で始まったのだ。演じたのはNHK朝ドラ『わろてんか』でもヒロインの幼少期を演じた新井美羽。その異例の措置は脚本を担当した森下佳子サンの作戦で、亀之丞と鶴丸(後の井伊直親と小野但馬守政次)との3人の関係性を描くには、幼少期の描写が肝になるからという。事実、2人が死ぬ12話と33話は物語のターニングポイントになった。特に高橋一生演ずる政次が処刑される33話『嫌われ政次の一生』は大河史上に残る名シーンに。

3月 『カルテット』最終回で吉岡里帆確変!

 視聴率は一桁続きだったものの、1月クールの連ドラでそのクオリティが高く評価されたのが、坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系)である。松たか子・満島ひかり・高橋一生・松田龍平演ずる4人のアマチュア演奏家がカルテットを組み、軽井沢の別荘で共同生活する話。4人の「唐揚げにレモンをかけるか?」論争や、中盤以降の松たか子演ずる巻真紀のダークサイドが話題になるも、最後に持っていったのは、元地下アイドルのアルバイト店員ながら、白人男性にエスコートされて登場し、指輪を見せつけ「人生チョロかった」と高笑いする吉岡里帆演ずる有朱(ありす)だった。

4月 渡瀬恒彦急死で警視庁捜査一課ドラマに脚光

 2017年3月14日、かねてから病気療養中の渡瀬恒彦サンがよもやの急死。4月クールで放送予定の渡瀬サン主演の『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)は代役を立てず、脚本を変えて放送することに。奇しくも同じクールには『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)、『小さな巨人』(TBS系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と、「警視庁捜査一課」が舞台のドラマが4本並んだ。まるで渡瀬サンへの弔い合戦のようだった。

5月 湊かなえチーム『リバース』健闘

 4月クールのTBS金ドラは、湊かなえ原作の『リバース』である。同じく湊原作の『夜行観覧車』と『Nのために』の制作チームが再結集した。TBSは『陸王』の福澤克雄チームや、『天皇の料理番』の石丸彰彦チームなど、脚本・演出を同じ座組で制作することが多い。結果的にそれが同局のクオリティの高いドラマを生む。
同ドラマも主演の藤原竜也を筆頭に、共演の戸田恵梨香、玉森裕太、小池徹平、三浦貴大、市原隼人らが珠玉の演技を見せて、スマッシュヒット。ラストを湊サン自らドラマオリジナル用に書き換えたことも話題になった。

6月 ビートルズ来日で『ひよっこ』20%台へ

 4月からスタートしたNHK朝ドラ『ひよっこ』。開始2カ月ほどは視聴率18~19%台と低迷したが(もっとも、その責任は前ドラマの『べっぴんさん』にある。ラスト4週で19%台へ落ち込み、その流れが『ひよっこ』に持ち越されたから)、6月最終週のビートルズ来日のエピソードを機に20%台に上昇。さらに、有村架純演ずるヒロインみね子と、竹内涼真演ずる島谷が急接近する展開で、視聴率は右肩上がりへ。最終的に期間平均20.4%と、前ドラマを上回った。

 近年の朝ドラといえば、脇役陣に光が当たる“脇ブレイク”が名物だが、同ドラマも先のエピソードで竹内涼真が一躍ブレイク。
 そんな『ひよっこ』人気を支えたのは、彼ら役者陣の好演もさることながら、岡田惠和サンのハートフルな神脚本だった。また、桑田佳祐サンが歌う主題歌『若い広場』にも脚光。オープニングで流れる昭和をイメージさせるミニチュア映像は、ミニチュア写真家の田中達也サンと映像監督の森江康太サンによるコラボ作品。そんなスタッフたちの“総合力”で見せたドラマだった。

7月 月9を救ったガッキー『コード・ブルー』

 6クール連続平均一桁視聴率と低迷していたフジ月9が、久しぶりに平均二桁の14.6%と復活したのが、3rdシーズン目の『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)だった。脚本がそれまでの林宏司サンから安達奈緒子サンに変更され、不安視する向きもあったが、少なくとも視聴率の上では見事に期待に応えた。
とはいえ、本当の勝因は恐らく昨年(2016年)の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でガッキー(新垣結衣)人気がかつてないほど上昇し、お茶の間のガッキー・ロスがそのまま引っ張られ、半年後という絶妙のタイミングで同ドラマに着地したから。

 もちろん、ガッキー以外のメインの山下智久・戸田恵梨香・比嘉愛未・浅利陽介のメンバーも7年前の2ndシーズンからほとんど劣化しておらず、チーム力の勝利とも言える。教訓、月9が低迷するのは枠に原因があるのではなく、企画・役者・脚本次第で数字は取れる。

8月 『黒革の手帖』で武井咲株上昇

 原作の松本清張の没後25年となる今年、『黒革の手帖』がテレ朝で5度目のドラマ化。かつてアラサー女優が演じてきたヒロイン元子を歴代最年少の当時23歳の武井咲サンが演じるのは時期尚早との声もあったが、フタを開けたら、高身長・なで肩・細い首の3要素で着物姿が意外と様に。加えて、現代ものより、時代がかったドラマでキャラを立たせた方が彼女の演技が映えることも分かり、実年齢以上に銀座のママがハマり役に。視聴率も平均11.4%と健闘した。
これで武井サンには年上の役がハマると分かった以上、彼女は出産を経て、ある程度年齢を重ねても、女優復帰はラクかもしれない。出来れば、アラサー武井咲でもう一度『黒革の手帖』を見たい。

 そうそう、お約束だけど、同ドラマで高嶋政伸サン演じる橋田理事長の“怪演”っぷりも最高だった。もはや高嶋サンのシーンだけ空気感が違う。役者がハマリ役を得るとは、こういうこと。

9月 『過保護のカホコ』で竹内涼真人気爆発

 日テレの水10枠は“頑張る女性”の応援枠。7月クールの『過保護のカホコ』もそうで、箱入り娘が独り立ちするまでの物語だった。あの遊川和彦サンの脚本だが、元ネタは映画『ローマの休日』と言われており、箱入り娘がやんちゃな男の子と出会い、運命を切り開くフォーマットは王道中の王道。視聴率も最終回14.0%とスマッシュヒットした。
 勝因は高畑充希サンのコメディ演技がうまくハネたのと、朝ドラでブレイクした直後という竹内涼真サンの起用のタイミング。加えて、『ひよっこ』の優等生キャラとは真逆のキャラを引き出したことも、彼の魅力を広げるのに一役買った。

10月 テレ朝昼ドラ第2弾は鉄板の『トットちゃん!』

 テレ朝が倉本聰脚本の『やすらぎの郷』を引っ提げ、開拓した昼ドラ枠。その第2弾が黒柳徹子原作の『トットちゃん!』だった。『徹子の部屋』のテレ朝だけに、他局ではできない鉄板ドラマ。視聴率は前作に引き続き好調で、期間平均6.0%は、なんと前作を上回った。
 驚くのはそのクオリティだ。まるでNHKの朝ドラを思わせた。実際、脚本は『ふたりっ子』(NHK)の大石静サンだし、徹子の母・黒柳朝役に『ゲゲゲの女房』(NHK)の松下奈緒、その夫の黒柳守綱役に山本耕史と、盤石のキャスティング。徹子役にフレッシュな清野菜名サンを当てたのも、新人の登竜門の顔を持つ朝ドラを彷彿とさせた。感心したのは、徹子の祖母の門山三好役に、往年の朝ドラ『チョッちゃん』でヒロインを演じた古村比呂サンを起用したこと。これぞリスペクトの心得である。

 同ドラマは原作が黒柳徹子サンご本人なので、主要な登場人物がほとんど実名で登場するのも心強かった。森繁久彌、渥美清、野際陽子、坂本九、沢村貞子等々、全て実名である。高視聴率の背景には、フィクションに逃げない、そんな作り手の志がお茶の間に届いたからかもしれない。

11月 『ドクターX』シーズン5は横綱相撲

 『ドクターX』シーズン5の平均視聴率は20.9%、最高視聴率は25.3%。これは、同ドラマの過去のシーズンと比べても見劣りしない数字である。いや、昨今の連ドラの苦戦する視聴率事情を鑑みれば、むしろ伸びているようにも見える。主演の米倉涼子サンは今回のためにストイックに減量したというし(最終回で大門未知子がステージⅢの「後腹膜肉腫」を患っていることが判明)、期待されて、期待通りの結果を残すのは、やはり横綱相撲である。

同ドラマ、“現代の水戸黄門”とも言われ、偉大なるマンネリが指摘されるが、その一方で、例えば第1話で大地真央サンがゲスト・スターとして病院長役で登場した際、「患者ファースト」や「不倫で失脚」等々、時事ネタも積極的に投入した。守りを固める一方で、攻める姿勢も忘れない。強い理由である。

12月 『陸王』有終の美で20.5%

 そして、2017年の連ドラの有終の美を飾ったのが、クリスマス・イブに最終回が放映され、20.5%を叩き出した『陸王』(TBS系)である。シリーズものではない連ドラで20%を超えたのは、昨年10月クールの『逃げ恥』以来だ。

 とにかく、同ドラマは、演出チーフの福澤克雄サン率いるチームの企画・制作能力が半端ない。例えば、選手役の竹内涼真サンは、クランクインの3カ月前から本格的な走りの練習を始めたというし、劇中の大会シーンに数千人規模のエキストラを集めたりと、リアリティの追求が半端ない。こはぜ屋の古いミシン1つとっても、本物にこだわる姿勢に妥協がない。
 キャスティングも、今や映画にしか出ないイメージの役所広司サンを15年ぶりに連ドラに担ぎ出したり、いぶし銀の寺尾聡サンにクセのある役をやらせたり、竹内涼真と山﨑賢人という若手スターを贅沢にも脇で使ったりと、攻めの姿勢――。

本連載「TVコンシェルジュ」的には、2017年の連ドラでMVPを選ぶとしたら、やはり、この『陸王』を置いてほかにない。正直、福澤克雄チームの作品としては、あの『半沢直樹』や『下町ロケット』を超えるクオリティだと思う。

――とはいえ、ドラマの楽しみ方は人それぞれ。今回、ここに挙がらなかったドラマの中にも、傑作はまだまだあります。例えば、視聴率は低かったけど、7月クールの『僕たちがやりました』(フジテレビ系)なんて、攻めて攻めて、個人的には超・面白かったし。
 2017年――あなたの心に残る傑作ドラマは何ですか?

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第33回 2017-2018バラエティおさらいと展望

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ちょっと遅くなったけど、今年最初の『TVコンシェルジュ』はバラエティを語ろうと思う。

――とはいえ、一口にバラエティと言っても、現在、ゴールデンタイムで放送される番組の実に8割近くがバラエティ。当然、全部を網羅できるわけはなく、象徴的な番組をいくつかピックアップしたいと思う。

まず、今のバラエティ界で最も注目される番組の1つとして、これは外せない。今年のお正月――1月2日にも3時間スペシャルが放映された、テレ東の『池の水ぜんぶ抜く』である。第6弾となる今回の視聴率は13.5%。これは同番組史上最高だったんですね。ちなみに、過去6回の視聴率の
推移は――

  第1弾 8.3%
第2弾 8.1%
第3弾 9.7%
第4弾 11.8%
第5弾 12.8%
第6弾 13.5%

――惜しい! 第2弾さえ前回より上回っていたら、見事な右肩上がり。それにしても、テレ東のバラエティでこの盛り上がりは異常である。ちなみに、第4弾と第5弾は、裏のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』を視聴率で上回った。あのテレ東が、である。

タイトルに偽りなし

『池の水ぜんぶ抜く』の強さの秘密は何か。
よく言われるのが、そのシンプルなタイトルだ。実際、同番組は池の水を全部抜く。そこに何も足さない、何も引かない――そう、タイトルに偽りなし。ウケた理由の1つは、そんな分かりやすさにあると思う。

今や、テレビの視聴者はスマホ片手に番組を見る「ながら視聴」のスタイルが一般的。そんな時代に、小難しい番組は避けられる傾向にある。ある程度集中しないと話が分からないドラマの視聴率が落ちた一因はそんなところにもある。その点、『池の水~』は分かりやすさ満点だ。

タイトル=企画内容が意味するもの

思えばこの30年――テレビのバラエティで大事なのは、タイトルよりも鉱脈(ヒット企画)を掘り当てることだった。1980年代以前は、『クイズダービー』とか『クイズ100人に聞きました』とか、ストレートにタイトルが内容に直結した番組が多かったけど、90年代以降は、『進め!電波少年』とか『くりぃむナントカ』とか『中井正広のブラックバラエティ』とか『リンカーン』とか『今夜くらべてみました』とか――要するに、タイトルだけでは何をやっているのか分からないバラエティ番組が主流になった。

要は、司会を務める目玉キャストを押さえて(例えば、中居正広やダウンタウン)、あとは番組を転がしながらヒットの鉱脈を探り、ある企画が当たれば、それを広げていく――という戦略だ。『もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!』なんて、「帰れま10」の企画が当たって、途中からそればかりになり、とうとうコーナーが独立して番組になったほど。

そんな中、『池の水ぜんぶ抜く』は、最初からタイトル=企画内容である。つまり、「この番組はこの企画一本でやりまっせ!」という姿勢。実に潔いし、何よりそれは、「池の水を全部抜く」という企画が優れていることを意味する。そう、企画を転がす必要がないのだ。

王道エンタテインメントのフォーマット

そう、『池の水ぜんぶ抜く』は、その奇抜なタイトルばかりに目が行きがちだけど、同番組が強い本当の理由は、その極めて王道なエンタテインメントのフォーマットにある。順を追って説明しよう。

① まず、池という身近なロケーション。基本、生活圏内にあり、なじみ深い。取材先がアマゾンのジャングルの秘境だと感情移入しにくいけど、近場の池ならスッと入り込める。ほら、ドラマだってどこか遠くの星の異星人の話より、ごく普通の家庭の話の方が感情移入できるでしょ? あれと同じ。まず、これが一点。
 
② 次に、池の水を全部抜くことで、絵的に動きのある大きな変化が見られる。普段見られない広大な池の底が現れる。実にダイナミック。このビジュアルの変化は極めてテレビ的である。
 
③ 3つ目は、水が減るに従って現れる“外来種”という悪役だ。建前上、番組はこの外来種を駆除して、池を在来種のみの正常な環境に戻すのが大義名分である。地元の行政やボランティアの皆さんがお手伝いしてくれるのは、それゆえ。だが、大義名分と言いつつも、この「悪を退治する」図式は見ていて分かりやすい。勧善懲悪――これもテレビの王道である。
 
④ そしてクライマックス――池の底から現れる予想だにしない物体X。番組的にはこちらが真の目的だ。時にそれは、大阪・寝屋川市の池に潜んでいた北米原産の超巨大肉食魚「アリゲーターガー」だったり、日比谷公園の池に沈んでいた江戸時代の家紋入りの瓦といった“お宝”だったりする。そう、番組終盤にやってくるメインイベント。池の水を全部抜いたからこそ判明する最大の見せ場である。

――いかがです? ①馴染みのあるロケーションに、②池の水が全部抜かれるビジュアルのインパクト、③外来種を駆除する勧善懲悪のスタイル、④クライマックスにやってくる謎の物体X――と、同番組は極めてテレビ的に王道のフォーマットなのだ。奇をてらったワケでもなんでもない。人気があるのはそういう理由。勝ちに不思議の勝ちなし、である。

能動的に働くゲスト

同番組は、ロンブー淳とココリコ田中の2人のMCに、外来生物研究の第一人者の加藤英明氏と、環境保全のスペシャリストの久保田潤一氏の2人の専門家がレギュラーメンバーである。4人のチームワークは盤石だ。しかし、同番組で特筆すべきは、そのゲスト陣なのだ。

例えば、第3弾に出演した伊集院光は、この番組が大好きで、自らゲストに志望したという。そして以後、同番組が話題になるにつれ、この伊集院パターンが定例化する。第4弾ではあの芦田愛菜が自ら望んで登場。顔に泥をつけて外来種の駆除に奮闘する活躍ぶりだった。第5弾では小泉孝太郎、第6弾では満島真之介らが出演し、いずれも同番組のファンと公言し、積極的に活躍した。

そう、昨今、俳優がバラエティ番組にゲスト出演するケースはドラマや映画などの番宣が多い中、同番組は違う。純粋に企画に賛同して自ら志願して出演してくれるのだ。そのため、彼らは能動的に行動する。役者なのに、商売道具の顔に泥を付けて奮闘する。こういう絵はなかなか他のバラエティでは見られない。

企画の保険をかけない

同番組のプロデューサーは、『モヤモヤさまぁ〜ず2』でお馴染みのテレ東の名物男、伊藤隆行Pである。
今年のお正月にNHKで放映された恒例の『新春テレビ放談』(毎年、年始にやってる「テレビ」をテーマにした座談番組。局の垣根を越えてパネリストたちが語り合うのが超面白い)において、彼が同番組を立ち上げた経緯を明かしていたんだけど、これが興味深かった。
伊藤P、上から「大河の裏で戦える番組を」と言われたので、この『池の水ぜんぶ抜く』の企画を提出したところ、こう言われたそう。「面白そうだけど、企画の保険がかかってない」――。

「企画の保険」って?
視聴率を担保するための、文字通り“保険”だ。例えば、出演者が豪華だったり、お得な知識や情報を学べたり、テレビ的に映える「絶景」や「絶品グルメ」を見られたり――。これに対し、伊藤Pはこう反論したそう。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」って。

大きな企画

結局、その時は伊藤Pが押し切って、同番組は日の目を見たんだけど、このエピソードはとても大事な教訓を含んでいる。
つまり――昨今のテレビをつまらなくしている一因は、この「企画の保険」を求める風潮にあること。キャスト優先主義が過ぎるあまり、テレビ界はいつまで経っても同じ顔ぶればかりで新陳代謝が進まないし、お得な知識や情報を求めるあまり、昨今のバラエティは「情報バラエティ」ばかりが氾濫してるし、「絶景」や「絶品グルメ」の企画に至っては、もはや食傷気味である。

そうではなく、今のテレビに求められるのは「大きな企画」なのだ。何か1つの大きな企画の柱があり、そこに集中して番組を構成すること。『池の水ぜんぶ抜く』をはじめ、『YOUは何しに日本へ?』や『家、ついて行ってイイですか?』などのテレ東のバラエティが近年好調なのは、そういうことである。

2つの伝説の番組の終了

さて、一旦、話題を変えて、この春に終了する2つの番組に触れたいと思う。もう何度も報道されている通り、フジテレビの伝説のバラエティ番組――『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下/『みなおか』)と『めちゃ×2イケてるッ!』(以下/『めちゃイケ』)がこの3月で幕を閉じる。

『みなおか』は、前身番組の『~おかげです』を含めると30年半、『めちゃイケ』は22年半と、共にフジテレビ黄金期を支えた偉大な番組だ。
とはいえ、両番組とも近年は視聴率が一桁台と低迷しており、フジが民放4位から浮上するためには必要な勇退だった。気がつけば、とんねるずの2人は50代後半、ナインティナインの2人は40代後半。いつまでもお笑い番組の最前線でプレイヤーとして活動するのは、ちょっとキツいかもしれない。

そう、お笑い番組の終了――。
今回、この2つの番組の終了について注目すべきは、この点なのだ。

消えゆくお笑い番組

コラムの冒頭、ゴールデンタイムにおけるバラエティ番組が締める割合は約8割と述べた。
だが、一口にバラエティと言っても、それこそ多様性がある。昨今多いのは、何かを学べる“情報バラエティ”と、ゲストを招いたり、あるテーマについて語り合う“トークバラエティ”の2つだ。これに、食レポや旅もの、チャレンジものといったロケのVTRが付随するフォーマットが一般的。スタジオがクイズ形式になることもある。

それに対して、衰退傾向にあるのが、いわゆる芸能バラエティだ。これは大きく2つのカテゴリーに分けられ、1つは、純粋にネタを披露する“ネタ見せ番組”。かつては毎週のように各局で見られたが、今や『M-1グランプリ』や『キングオブコント』など、スペシャルにその主軸を移してしまった。
もう1つが――先の『みなおか』や『めちゃイケ』も含まれる“お笑い番組”だ。かつてはコントやパロディが主流だったが、次第に企画モノやロケものの比重が増えていった。ただ、一貫して“笑い”を追求する姿勢は変わらない。

しかし――今やこの“お笑い番組”は絶滅危惧種なのだ。

バラエティの系譜

元々、バラエティは“ヴァラエティ・ショー”と呼ばれ、それこそテレビの黎明期から存在する人気のジャンルだった。
お手本はアメリカの番組で、これを模倣して、日本に取り入れたのが、かの日本テレビの井原高忠プロデューサーである。当時のヴァラエティは歌とコントの2本柱で、クレージーキャッツやザ・ドリフターズら、昭和の“笑い”をけん引したグループが元はバンドだったのはその名残だ。

それが1980年の漫才ブームを起点に、お笑い芸人が一気にテレビに進出。コントやパロディをベースとする新たなバラエティが量産された。その中心にいたのがビートたけしや明石家さんまで、70年代以前の作り込まれた笑いと違い、楽屋オチや業界ネタなどのホンネの笑いが特徴だった。

その一方、80年代はクイズ番組も進化を見せる。それまでバラエティから独立したジャンルとして、主に視聴者参加のフォーマットだったクイズ番組が、80年代以降、芸能人を解答者とするバラエティ番組へと変貌する。単なるクイズの正誤を競うスタイルから、トークやお勉強の要素も加味され、これが今日の“トークバラエティ”や“情報バラエティ”に発展する。

バラエティ・ビックバンの90年代

そして90年代、バラエティ番組はビックバンのごとく大拡散を遂げる。キーワードは「ダウンタウン」と「カメラの小型化」である。

まず、ダウンタウンの登場で、2人に憧れる全国の面白い若者たちがこぞってお笑い芸人を目指すようになり、吉本NSCをはじめとする芸能事務所の養成所の門戸を叩く。現在、テレビ界はお笑い芸人たちがバラエティに限らず、あらゆる番組に進出しているが、この飽和状態を招いた元凶はダウンタウンである。

もう1つが、カメラの小型化によるロケ企画の増大だ。火を着けたのは、かの『進め!電波少年』(日本テレビ系)である。それまで大きく重いテレビカメラを担いでのロケは、装備や人員を要して大変だったが、技術が進んでカメラが小型化したことで、カメラマン一人でのロケが可能になった。かくして、同番組は“ドキュメント・バラエティ”の手法を確立する。世界的なリアリティショー・ブームが起きたのも同じ頃である。

これ以降、バラエティ番組にロケ企画は定番となり、食レポや旅もの、チャレンジ系の番組が増大する。

2000年代のお笑いブームと収束

ロケものバラエティが増殖した90年代――。その反動からか、2000年代に入ると、『笑う犬の生活』(フジテレビ系)を皮切りに、コント系の“お笑い番組”が見直され、『ワンナイR&R 』や『はねるのトびら』といった若手お笑い芸人たちの活躍の場が次々に誕生した。
一方、『爆笑オンエアバトル』(NHK)を起点に“ネタ見せ番組”も注目され、『エンタの神様』(日テレ系)のブレイクを機に、『爆笑レッドカーペット』(フジ系)などの同種の番組が各局に氾濫した。

2000年代半ばに訪れた空前のお笑いブーム。ここまでの盛り上がりは80年の漫才ブーム以来である。

だが、とかくブームというものは長続きしない。急速に彼らがお茶の間に消費されると、お笑い番組もネタ見せ番組も、次第にネタ切れとクオリティの低下が叫ばれるようになり、2010年代に入ると、相次いで打ち切られた。

変わって台頭したのが、先にも述べたトークバラエティと情報バラエティである。そして現在、バラエティの主流はこの2つとなっている。あとは、ここ数年の風潮として、お散歩番組の隆盛くらいだろうか。

伝説の2つの番組の位置づけ

さて――少々遠回りになったが、ここで『みなおか』と『めちゃイケ』の話に戻りたいと思う。
2つとも、バラエティのカテゴリーでは衰退しつつある“お笑い番組”に該当する。『みなおか』は80年代に始まったことからも分かる通り、ベースにあるのは楽屋オチや業界ネタなどのパロディだ。
一方の『めちゃイケ』はこれも90年代に生まれたことが象徴するように、ロケもののドキュメント・バラエティがベースにある。

いずれも、メインキャストである、とんねるずとナインティナインは時代を象徴するアイコンとなった。最高視聴率は『みなおか』が『~おかげです』時代の29.5%、『めちゃイケ』が33.2%である。共にフジテレビの三冠王に貢献し、功労賞の側面から、バラエティが時代の荒波で移り変わる中でも、長くアンタッチャブルな案件として残されてきた。

終了発表もそれぞれのカラーで

だが、フジテレビが民放4位に転落し、現状ではなかなか浮上の目がない――相当重症だと分かってきたタイミングで、恐らく阿吽の呼吸というか、双方の番組とも自ら退く決意に至ったと思われる。

番組内での終了発表は、これまた各々のカラーを反映したものだった。『みなおか』はとんねるずの2人がお馴染みの「ダーイシ」と「小港」に扮して、初代プロデューサーの港浩一サン(現・共同テレビ社長)の前で「番組が終わっちまうんだよぉ」と終了発表。最後まで楽屋オチなところも彼ららしかった。

一方の『めちゃイケ』は、これまた番組の最高責任者である片岡飛鳥総監督から突然、ナイナイ岡村に「『めちゃイケ』、終わります」と告げられ、岡村が「……リアルなやつですか?」と返し、そこからメンバー全員に岡村自ら終了を伝える様子をドキュメントで見せる、番組お馴染みのスタイルだった。

片や楽屋オチ、片やドキュメント――終了発表すらも番組のネタにしてしまうところが、お笑い番組たる所以である。

お笑い番組絶滅の危機

しかしながら、この2つの番組の終了は、別の意味で大きな意味を持つ。既に報道されているが、それぞれの後継番組は、『みなおか』の後が坂上忍MCの情報バラエティ、『めちゃイケ』の後が『世界!極タウンに住んでみる』という旅もののバラエティだ。
いずれも情報バラエティや、ロケVTRをベースとしたトークバラエティで、昨今のバラエティの主流である。

そう、『みなおか』や『めちゃイケ』の終了は、単なるフジテレビの改編に留まらず、テレビ界全体にとって“お笑い番組”が2つ減ることを意味するのだ。

企画の保険が招いたテレビ離れ

気がつけば、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティを見渡しても、純粋なお笑い番組はほとんど見当たらない。目に付くのは、情報バラエティやトークバラエティばかりである。

いずれも、お笑い番組と違って“大負け”しないのが特徴だ。そこそこの視聴率が保証されている。それが「企画の保険」が働いているということ。出演者が豪華だったり、何かお勉強できたり、絶景や絶品グルメのVTRが見られたり――etc.
しかし、大負けしないということは、裏を返せば、大勝ちもしないということ。ブレイクしない、弾けない――それ即ち、昨今の「テレビ離れ」を招いている元凶でもある。

ここで、あらためて『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤Pの言葉が思い出される。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」――そう、今こそバラエティはこの原点に立ち返る時期に来ているのかもしれない。

フジテレビさん、今がその時じゃないですか?

日テレvs.TBSのバラエティ戦争

ここからは2018年のバラエティ界の展望を見ていきたいと思う。
現在、バラエティで圧倒的な強さを見せるのは、やはり日本テレビだ。昨年、同局は年間視聴率で4年連続の三冠王(全日・ゴールデン・プライム)を達成したが、それはひとえに、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティが好調だからである。

一方、現状でそれに唯一対抗できる可能性のある局はTBSだろう。近年、同局は少しずつ話題になるバラエティが増えており、例えば、昨年は『プレバト!!』が「俳句」のコーナーでブレイク。その健闘もあって、同局は年間視聴率で10年ぶりにゴールデン帯2位に返り咲いた。

とはいえ、日テレのバラエティを横綱とすると、TBSはまだまだ小結あたり。今年はこの差がどこまで縮まるかが見どころになる。

イッテQの強さの秘密

では、日テレのバラエティの強さを紐解いてみよう。
現在、同局のバラエティのトップを走るのは『世界の果てまでイッテQ!』である。昨年、番組開始10周年を迎え、視聴率は安泰どころか上昇傾向にある。アニバーサリー月となった2月は毎週のように20%台を連発。“テレビ離れ”が叫ばれる昨今、この強さは驚きである。

人気の秘密は、今の地上波が考え得る最高のフォーマットにある。家族で安心して見られて、ウッチャンを中心にスタジオはアットホームな雰囲気で、ロケのVTRは基本がんばる系の企画で、毎回それなりの達成感がある。いわゆる少年ジャンプの「友情・努力・勝利」みたいなカタルシスがある。お茶の間で家族揃って楽しめる――地上波において、これに勝る視聴習慣はない。

それと、これまでもイモトアヤコや宮川大輔ら、同番組は最初から人気者をブッキングするのではなく、自ら人気者に育てるスタイルをとってきたが、昨年は「世界の果てまでイッタっきり」の企画で、見事に“みやぞん”がブレイク。これも同番組の視聴率を押し上げる要因になった。

家族で楽しめるフォーマットに、自ら新しい人材を育てるスタイル――同番組に象徴されるこれらの要素は、日テレの他の番組でも見受けられる。同局のバラエティの強さの秘密である。

追うTBSの戦略

だが、一見、盤石に見える日テレのバラエティだが、弱点もある。
それは、家族で楽しめるフォーマットを優先するあまり、尖った企画がやりにくいこと。それと、軒並み長寿番組なので、必然的に金属疲労に陥りやすいこと。

つまり、日テレが王道なら、これに対抗するTBSがとる戦略は、古代中国の儒家の教えに従うなら「覇道」しかない。
覇道――テレビの世界に置き換えるなら、それ即ち、強烈な毒を含む演出だったり、ある特定のターゲットに響く濃い企画のことである。比較的新しいバラエティが多いTBSは、思い切った戦略がとれるのだ。

『プレバト!!』がブレイクした理由

例えば、先に挙げた『プレバト!!』もその戦略で伸びている番組の1つ。今や同番組は「俳句の才能査定ランキング」のコーナーが大人気。人気の秘密は、「俳句」という素材が極めてテレビ的だからである。
まず、五・七・五の短い文章の中に世界観を盛り込めるし、ビジュアル的に1ショットで作品を見せられる。歴史あるジャンルだから批評にも説得力がある。極め付けが、センスがモノを言う一方で、たまに一発逆転もある――まさにテレビ的。しかし、同コーナーがブレイクした真の立役者は、俳人の夏井いつき先生の容赦ない「毒舌」なのだ。

そう、生徒たちが詠んだ自信作を容赦なくぶった切る“寸評”だ。見ていて爽快感すらある。それでいて、夏井先生自身は天然で、時々ボケを発して浜ちゃんにツッコまれるので、どこか憎めない。
同番組が視聴者を惹きつける所以である。

『水曜日のダウンタウン』に見るバラエティの可能性

TBSの覇道路線を語る上で、もう一つ外せない番組がある。『水曜日のダウンタウン』だ。
テレビ界には、俗に「面白い番組は面白い社員が作る」なる説があって(そのうち番組で検証してもらいたい)、同番組も演出の藤井健太郎サン抜きには語れない。この方、『クイズ☆タレント名鑑』や『クイズ☆正解は一年後』も作った人で、TBSの名物男。とにかく攻めの番組作りが得意な人でなんですね。

個人的には、一昨年の秋に放映した「水曜日のダウソタウソ」が傑作だった。この回、ダウンタウン以下、出演者全員がそっくりさんなんだけど、一切そこには触れず、いつもの体裁で番組が進む。スタジオに漂う超・違和感。しかし、流すVTRは過去の傑作選で、こちらは本物。要は総集編のフリの部分をそっくりさんにやらせるギミックなのだ。有り体の総集編にせずに、一枚フェイクを噛ませるところに藤井サンの非凡さがある。

ちなみに、最近の回で面白かったのは、昨年暮れに放映されたクロちゃんにドッキリを仕掛ける「フューチャークロちゃん」の回。何が凄かったって、番組の終盤、思いを寄せる女の子が仕掛け人と気づいたクロちゃんが、分かっていながら自ら落とし穴に落ちる悲しい展開。もはやバラエティを超えた人間ドラマだった。

テレ朝の危機

テレ東、フジ、日テレ、TBSと来て、民放キー局で1つだけ外すのもアレなので、最後にテレ朝のバラエティに触れたいと思う。

同局のバラエティと言えば、長らく『アメトーーク!』だのみの状況が続いているが、気がつけば、ゴールデンで戦えるバラエティが枯渇している状況にある。かつて深夜で新しいバラエティが生まれ、次々にゴールデンに上げて成功した栄光も過去の話。昨年はとうとうTBSに年間視聴率でゴールデン帯を逆転されてしまった。

そんな中、同局で唯一の光明とも言える番組が、ナスDこと友寄隆英ゼネラルプロデューサーが活躍する『陸海空 地球征服するなんて』である。だが、これも単純に喜んでばかりもいられないのだ。

ナスDの立ち位置

先に、「面白い番組は面白い社員が作る」と申し上げたけど、確かに、『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤隆行Pや『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎D、『アメトーーク!』の加地倫三GPなど、名物番組には名物社員が付きものである。その意味で『陸海空~』もナスDという名物社員が手掛けており、この法則に沿っている。

だが、1つ問題がある。同番組におけるナスDの立ち位置は、ゼネラルプロデューサーでありながら、出演者でもある。つまりプレイヤーだ。これは何を意味するかというと、誰もナスDのやることに異を唱えられないのだ。

社員が演者になることの是非

番組作りは、役割分担でもある。作家が台本を書き、ディレクターが演出をつけ、演者が演じ、カメラマンが絵を撮る。それぞれの得意分野を持ち寄り、1つの番組が完成する。そしてクオリティを一定に保ちながら、毎週のオンエアに乗せていく。これがプロの仕事だ。

だが、ナスDの行動を許してしまうと、例えそれが最高に面白くても――いや、面白ければ面白いほど、芸人は仕事を失い、編集するディレクターはテープを切れなくなる。それは結果的に、番組を一定のクオリティで毎週オンエアすることを難しくする。

石原隆サンの仕事術

かつて、フジテレビの面白いドラマは必ず、この男が携わっていると言われた社員がいる。石原隆サン(現・編成統括局長)だ。『古畑任三郎』や『王様のレストラン』、『踊る大捜査線』に『HERO』など、数々のヒットドラマは石原サン抜きには生まれていない。

そんな石原隆サンには、1つの信条がある。それは――「作家の台本に筆を入れない」こと。正直、国内外の映画に誰よりも精通し、並みの脚本家では到底太刀打ちできない豊富な知識と技量を持ちながら、石原サンは相手が新人脚本家であっても、直しが必要なら言葉で語り、脚本家自身に書き直してもらう。それが自分に課せられた役割と自負しているからである。

実際、それで石原サンは同時期に複数のドラマと映画を手掛け、高いクオリティの作品を次々に世に送り出した。石原サン自らが筆を入れていたら、とてもそんなペースで仕事は回らない。餅は餅屋なのだ。

ナスDへの期待

そう、ナスDに課せられた役割も、石原隆サンと同じじゃないだろうか。
あれほどのバイタリティーとテレビの見せ方を知り尽くした御仁である。本来、その類まれなる才能は自らプレイヤーになるのではなく、『陸海空~』をはじめとして、テレ朝のバラエティ全体を立て直すために、広く生かされるべきである。

同局のバラエティの復活は、ナスD――友寄隆英ゼネラルプロデューサーの手にかかっていると言っても過言ではない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第34回 連ドラを最終回から見ちゃいけないって誰が決めたんですか?

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ドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)の3rdシーズンにこんな話がある。

津川雅彦演じる小説家の安斎が、小学校時代に同級生だった古畑を家に招く。安斎は、若い妻が編集者と浮気していることに絶望し、自らの命と引き換えに彼女を陥れる犯罪を計画する。それは拳銃で自殺して、妻が殺したように見せかけ、古畑に逮捕させるというもの。しかし、古畑に計画を見破られ、未遂に終わる。老い先短い人生を思い、悲嘆に暮れる安斎。この時の古畑の台詞がいい。

古畑「また一からやり直せばいいじゃないですか」
安斎「俺たちはいくつになったと思っているんだ。もう振り出しには戻れない」
古畑「とんでもない。まだ始まったばかりです。いくらでもやり直せます」
そして安斎に詰め寄り、こう諭す。
古畑「よろしいですか、よろしいですか。例え、例えですね。明日、死ぬとしても、やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

――この回は、『古畑』史上唯一事件が未遂に終わり、犯人が逮捕されない珍しい回となる。え? 再放送もやっていないのに、いきなり何の話を始めるんだって?
いえ、これには理由があるんです。皆さん――最近、ドラマ見てます? 1月クールの連ドラ。多分、最初のほうは見ていたけど、途中から平昌オリンピックが始まったりして、何話か見逃すうち、いつしか脱落していた――なんて人も多いのでは。もう、終盤だし、最終回は目前。今から見直しても話についていけない、と。

そこで、冒頭の話です。古畑に倣って、そんな方々に僕はこう訴えたい。
「例え、例えですね。明日、最終回だとしても――連ドラを最終回から見ちゃいけないって、誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

山田太一さんの連ドラ理論

これは、本連載でも前に一度紹介したけど、脚本家の山田太一先生が連ドラの在り方として、こんな趣旨のことを話されたことがあった。
「連続ドラマというのは、映画館で見る映画と違い、視聴者がアタマから黙って見てくれるものじゃないし、途中2、3話飛ばされることもある。それでも、ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる。そういうドラマが優れた連続ドラマだと思います」

いかがだろう。先ほどの古畑の言葉と併せて、この山田先生の言葉を解釈すると――例え、最終回からドラマを見始めたとしても、十分楽しめるということになる。そう、今からでも遅くはないのだ。皆さん、連ドラを見ましょう。例え、それが最終回からでも――。

そこで今回は、僕がおススメする1月クールの連ドラの見どころをサクッとご紹介したいと思います。

名人・野木亜紀子がオリジナルに挑んだ『アンナチュラル』

まず、TBS金ドラ枠の『アンナチュラル』である。ご存知、脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でもお馴染みの名人・野木亜紀子サン。これまでは原作付きの脚色が多かった彼女だけど、今回はオリジナルに挑戦。しかも、法医学ミステリーという、かなり難易度の高い分野だ。正直、さすがの野木サンでもどうかと思ったが――いやいや、前言撤回。驚いた。これが、めちゃくちゃ面白いのだ。

物語の舞台は、不自然死究明研究所なる架空の施設。通称「UDIラボ」。石原さとみ演ずる主人公・三澄ミコトは、そこに勤める法医解剖医。不自然な死(アンナチュラル・デス)を遂げた死体を解剖して、死因を究明するのが彼女の仕事だ。

共演陣に、ミコトのよき相棒として市川実日子演ずる臨床検査技師の東海林夕子、そして窪田正孝演ずる医大生のバイトの久部。一方、UDIにはもう一人、法医解剖医がいて、全く組織に馴染もうとしない中堂を演じるのが、井浦新。そして、彼ら個性的なメンバーを束ねるのが、どこかトボけた神倉所長。演じるのは松重豊サン――。

そのフォーマットは『踊る大捜査線』

物語は基本、一話完結である。ただ、石原さとみ演ずる主人公ミコトの幼少期に壮絶な事件があったり、井浦新演ずる中堂の抱える秘密があったりで、ゆるく連続ドラマ的な側面もある。その意味では、あの『踊る大捜査線』に近い。だからUDI内の人間関係も刻々と変わる。

で、野木サンの脚本だけど、これがもう、神レベルなのだ。もはやハリウッド・ドラマのクオリティに近い。毎回2転、3転あって、表層的な事件だけじゃなく、人間の内面に訴える展開もある。それでいて連ドラ的に話も転がるから、次の回も気になって仕方ない。

そして特筆すべきは、その演出。これはヒロインである石原さとみサンの力も大きいけど、基本ライトコメディで見やすいんですね。法医学というと、つい暗い話を連想しちゃうけど、いえいえ、全然明るい。それって、連ドラにとってすごく大事なことなんです。かと言って、ちゃんと締めるところは締めるから、ふざけた話にならない。要はメリハリが効いているということ。

ハイ、今クール一番というより、今年一番のドラマだと思います。まだ1月クールだけどね(笑)。

吉岡里帆の単独初主演作『きみ棲み』

次に取り上げたいのが、同じくTBSの火曜10時の『きみが心に棲みついた』である。この枠は近年、『逃げ恥』や『カルテット』などの話題作が放映され、枠としての注目度も高い。比較的ドラマ好きの人たちが好んで見る枠で、作り手のモチベーションも高く、新しいことにチャレンジしやすい良枠だ。

で、1月クールは、吉岡里帆主演の『きみ棲み』。なんと言っても、彼女にとって初の単独主演ドラマになる。今、最も伸び盛りの女優なだけに、これは期待せずにはおられない。
――と言いたいところだけど、脚本は、深キョンとディーン・フジオカが共演した『ダメな私に恋してください』(通称・ダメ恋)や、波瑠と東出昌大が共演した『あなたのことはそれほど』(通称・あなそれ)の吉澤智子サン。いずれも同枠で放映されたドラマで、後半、視聴率を上げたのはよかったんだけど――特に『あなそれ』に顕著だったんだけど、軽く炎上したんですね。

そう、放映前から脚本に一抹の不安があったんです(笑)。そうでなくても、吉岡サンは同性の視聴者から誤解されやすい。炎上に発展しなければいいが――。
だが、悪い予感は当たる。

生温かい目で、ネタとして楽しみたい『きみ棲み』

『きみ棲み』は原作(コミック)付きのドラマである。だから、脚本が全て悪いワケじゃない。あらかじめ、そこはフォローさせてください(笑)。

まず、吉岡里帆演ずるヒロイン今日子は、下着メーカーに勤めるOLである。その性格は、昔から自分に自信が持てず、動揺すると挙動不審になるため、あだ名は「キョドコ」。まぁ、それはいい。
そんな彼女には、ある心のトラウマがある。それは、大学時代に知り合った、向井理演ずる星名に「君はそのままでいい」と言われ、つい好きになってしまい、彼の言うままに行動したところ、心も体も傷ついてしまったこと。これが物語のベースになる。

そして1話。会社の先輩から合コンに誘われたキョドコ。そこで、桐谷健太演ずる編集者の吉崎と出会うが、ストレートな性格の彼から説教を食らい、逆にその誠実な性格に惹かれる。最初はキョドコを避けていた吉崎も、次第に彼女の素直さに気づき、2人は接近する。しかし、キョドコの前に、再び星名が現れ――という三角関係。

視聴者の心情としては、キョドコと吉崎にくっついてもらいたいんだけど、星名から頼まれごとをされると断れないキョドコもいて(実は心の中では今も彼が好き)、下着姿でランウェイを歩かされたりして、「何やってんだよ!」とテレビの前でツッコんでしまう。

まぁ、早い話がヒロインに感情移入しづらいんだけど、それは吉岡里帆サン自身も分かっていて――とはいえ、役者というのは元来、変わった役をやりたがる生きものでもあり、彼女なりに前向きに演じている。
そんな次第で、生温かい目で、ネタとして楽しみましょう(笑)。

平凡なキムタクが見られる『BG〜身辺警護人〜』

続いて、テレビ朝日の『BG〜身辺警護人〜』である。ご存知、主演は木村拓哉。テレ朝の連ドラは『アイムホーム』以来3年ぶり。枠も前回と同じく、あの『ドクターX』と同じ木9枠だ。

で、キムタクと言えば視聴率だけど、中盤まで平均14%台半ばと、前回の『アイム~』と同じくらい。昨今の連ドラは2桁行けば御の字、十分だと思います。さすが木村拓哉。
そして脚本は、前に『GOOD LUCK!!』(TBS系)と『エンジン』(フジテレビ系)で彼と組んだことのある井上由美子サン。キムタクに何をやらせればいいのか、わかってる脚本家の一人ですね。

物語は、かつて有名プロサッカー選手のボディーガードを務めた、キムタク演ずる島崎が、とある事故の責任を取り、今はしがない民間警備会社で働いているところから始まる。社内の部署異動で再びボディーガードの仕事に就くが、腕は確かだけど派手な立ち振る舞いを好まず、堅実な仕事を身上とする。その辺りのキャラ設定は、1話で江口洋介演ずる警視庁SPの落合に対し、民間ゆえに、あえて丸腰で犯人と接する意味を説いたりして、これは見応えがあった。

鍵は平凡・キムタクの中年バージョンの確立か

そう、要は“平凡・キムタク”の路線なんです。系譜としては、かつての『あすなろ白書』や『ラブジェネレーション』、『GOOD LUCK!!』に近い。

その、警視庁SPに対する“民間警備会社のボディーガード”という立ち位置は、あの『踊る大捜査線』の本店に対する“所轄”を連想させる。それって、ドラマの主人公としては王道なんですね。小さな仕事を地道に遂行していたら、大きな仕事にぶつかって、結果的に大きな仕事まで解決してしまうのは、この種の物語の定番フォーマット。1話は比較的、その構造がうまく行っていたと思います。

ただ、回が進むごとに、かつての“一流ボディーガード”のキャラが見え隠れして、時おりスーパーマンぶりを発揮するのが、ちょっと惜しい。やるなら、過去の栄光を封印して、とことん平凡キャラで行くのも1つの美学。でも、思い切ってそこへ振り切れないのは、キムタク自身に迷いがあるからかもしれない。
若い時の彼なら、『あすなろ白書』であえて脇の取手クンの役を選んだように、引き算の芝居ができたんだけど、それは当時の彼の“自信の裏返し”でもあったワケで――。今の木村拓哉にそれを求めるのは少し酷かもしれない。

ただ、日本屈指の名優であるのは確かなので、その脱皮に期待したい。

『もみ消して冬』は類似作のない異色コメディ

さて、続いて紹介するドラマは、日テレの土曜ドラマ『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』である。
最近はジャニーズの主演作が多い土曜22時枠だけど、今回もHey! Say! JUMPの山田涼介が主演を務める既定路線。脚本は、『プロポーズ大作戦』や『世界一難しい恋』の金子茂樹サンで、彼もまたジャニーズ主演作を書くことが多いが――昔から独特の作風で知られる人で、それは今回も同様である。

そう、このドラマ、かなり異色作なんですね。普通、ドラマは何らかの元ネタがあるものだけど、同ドラマに限っては類似作が見当たらない。山田涼介演ずる主人公・北沢秀作は華麗なる一族の末っ子で、エリート警察官。兄と姉がおり、小澤征悦演ずる兄・博文は天才外科医、波瑠演ずる姉・知晶は敏腕弁護士、そして一家の主は中村梅雀演ずる私立中学の学園長の父・泰蔵である。同ドラマはこの一家が繰り広げる異色コメディなのだ。

見どころは、ドSキャラの波瑠

物語は、北沢家に起きた不祥事を、兄と姉から、末っ子のエリート警察官である秀作がもみ消し工作(軽犯罪!)を押し付けられ、それを解決することで一家が平和を取り戻すというもの。いちいち「火曜サスペンス劇場」の音楽がかかったりして、コメディ全開だ。話自体もさることながら、中でも一番の見どころは――波瑠である。

本来、役者の格で言えば、彼女は主役を張るべき人である。だが、『世界一難しい恋』で脚本の金子茂樹サンと組んだ縁だろう、今回は敢えて脇に甘んじている。そして、その「ドSキャラ」が実にいいのだ。伸び伸びと演じている。

同ドラマはオリンピックの開幕前まで視聴率二桁と堅調に推移してきたが、それは波瑠のおかげと言っても過言じゃない。それくらいのハマり役なのだ。以前、彼女が主演した朝ドラ『あさが来た』のヒロイン・あさ以来と言ってもいい。彼女を見るために、このドラマはあるとも――。

『トドメの接吻』はよくある話だが…

そして最後に紹介したいのが、日テレの日曜ドラマ『トドメの接吻』である。このドラマ、早い話が、よくあるタイムリープものですね。アニメ『時をかける少女』や、漫画原作の『僕だけがいない街』と同じ系譜。時間をさかのぼって、何度も人生をやり直すというもの。

同ドラマは、山﨑賢人演ずる主人公・旺太郎の前に、ある日、門脇麦演ずる謎の女が現れ、無理やりキスされるところから始まる。気がつくと、なんと一週間前に戻っている――。鍵は“キス”。やがて旺太郎はこのからくりに気づき、学習することで自らの運命を変えていく。

この物語には、1つの大きな背景がある。それは12年前の海難事故。旺太郎の父が船長を務めるクルーズ船に、幼い旺太郎が弟・光太と密かに乗り込み、その時に事故が起こる。旺太郎は救出されるが、光太は消息不明に――。

そして現代――。実刑判決を受けた父の代わりに、賠償金を払うことになった旺太郎はホストとなり、客の金に執着するクズ男になっていた。そんなある日、100億の資産を持つセレブの令嬢・美尊(新木優子)が友人に連れられ来店する。美尊を格好の金づると狙いを定めた旺太郎は、彼女に取り入るために、何度もタイムリープを繰り返す――。

山﨑賢人vs.新田真剣佑

同ドラマの見どころは、この“クズ男”のホストを演じる山﨑賢人ですね。これが実に似合っている(笑)。チャラい、あくどい。普通、主役はどこかで賢者モードになりたがるけど、クズ男を振り切って演じる山﨑賢人サンはさすがである。

そして、もう一つの見どころは、山﨑賢人演ずる旺太郎が、美尊に会いに乗馬倶楽部を訪れた際に出会う、彼女の兄――新田真剣佑演ずる尊氏だ。こちらも、真剣佑お得意のキャラというか、段々とダークサイドに落ちていく描写が実にいい。

正直――よくあるタイムリープの話だけに、最初は連ドラで10話前後も話が持つものかと心配したが、稀有でした。オリジナルのドラマだけど、実によく練られている。それもそのはず、脚本は『ROOKIES』のいずみ吉紘サン。緻密なプロットを積み上げ、ストーリーテリングを練り上げるのが上手な方。これぞ名人芸だ。

――という次第で、まだまだ1月クールで面白いドラマはたくさんあるけど、ひとまずはこの辺で。あとは、皆さんの目でそれぞれお確かめください。
なに、今からでも遅くはありません。最後に、あらためてこの言葉を送りたいと思います。

「例え、例えですね。明日、最終回だとしても――連ドラを最終回から見ちゃいけないって、誰が決めたんですか? 誰が決めたんですか?」

(文:指南役 イラスト:高田真弓)


第35回 ポプテピピックはお祭りである

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皆さん、この1月クールで最も印象に残ったテレビ番組は何です?

――え? 『アンナチュラル』?
まぁ、確かに野木亜紀子サンの脚本はアメリカのドラマみたいで、法医学の話でありながら人間ドラマの側面もあったし、人の死を扱いながらコメディの要素もあって見やすかったし、1話完結ながら連ドラ的な面白さもあったし、何より主人公ミコトを演じる石原さとみサンをはじめ、中堂役の井浦新サン、久部役の窪田正孝サン、東海林役の市川実日子サン、そして所長役の松重豊サンら魅力的なキャスト陣だったし――。

うん、僕は『アンナチュラル』は1月クールで最高のドラマだったと思う。いや、間違いなく今年の連ドラTOP3に入る傑作だと思う。でも――“テレビ番組”全体にまで広げると、ちょっと様相が変わってくる。

1月クール最高のテレビ番組――僕は、それはアニメの『ポプテピピック』だったと思う。

『ポプテピピック』とは何か

そう、ポプテピピック――奇妙奇天烈なタイトルだが、特段の意味はない。ちなみに、英語表記は「POP TEAM EPIC」。微妙に発音と表記が合わない気もするが、直訳すると“ポップなチームの叙事詩”。
ま、それもよく分からないので(笑)、やはり、さしたる意味はないと思われる。

原作は、竹書房が配信するウェブコミックのサイト『まんがライフWIN』で連載中の4コマ漫画である(ちなみに無料で読める)。作者は大川ぶくぶ先生。2014年11月から連載を始め、2度の休載を挟んで、現在はシーズン3が配信中だ。

主人公はポプ子(背が低いほう)とピピ美(背が高いほう)の2人の女子中学生コンビ。無邪気ですぐ暴走するのがポプ子で、達観してクールなのがピピ美である。コスチュームはセーラー服。しかし、学園シーンなどは一切登場せず、漫画はひたすら2人を中心に、シュールやパロディ、スラップスティックな世界観が描かれる。版元の竹書房を罵倒することも多く、キャッチコピーは「とびっきりのクソ4コマ!!」――。

アニメ化にあたって

基本、不条理マンガなので、マーケットはそれほど広くないと思われがちだ。だが、これが意外にも連載開始1年ほどで人気が沸騰する。火をつけたのはLINEのスタンプだった。「おこった?」「完全に理解した」「二度とやらんわこんなクソゲー」「そういうの一番きらい」「クソリプ」「さてはアンチだなオメー」「サブカルクソ女」「私が最初に言いだした事になんねーかな」――etc.

――過激な言葉が並ぶが、それとは裏腹に、主人公2人の絵柄はポップで可愛い。そのギャップが若者たちにウケたのだ。以後、全国で『ポプテピピック』のコラボカフェが開かれたり、グッズが販売されたりと人気が加速、遂にアニメ化が決定する。当初は2017年10月スタートと告知されるが、製作元のキングレコードの「勘違い」(!)という理由で3カ月後に延期。この辺りの人を食った煽りも、同マンガの世界観だと違和感がない。

かくして運命の日――第1回放送の2018年1月6日深夜25時を迎える。

世界トレンド1位に

その日、世界が変わった。
――なんて書くと、また大袈裟なと思うかもしれないが、本当に世界が変わったのだ。なんたって、その日、「ポプテピピック」というワードがTwitterの世界トレンド1位になったのである。

そのアニメは何もかもが掟破りだった。
いきなり冒頭から『星色ガールドロップ』なるフェイクアニメが始まり、そのままオープニング(これもフェイク)に突入したり、事前に告知されたキャストの女性声優(小松未可子、上坂すみれ)とまるで違う渋い男性声優の声でポプ子とピピ美が喋り始めたり(ちなみに、ベテラン声優の江原正士サンと大塚芳忠サン。大御所です)――中でも最大のサプライズは、30分の放送枠の後半、ポプ子とピピ美の声優だけ変えて(三ツ矢雄二、日髙のり子)、全く同じ内容の15分アニメが再放送されたことである。

それらの掟破りの結果、Twitterのタイムライン上には「やっぱりクソアニメ!」「人類には早すぎる!」などのコメントが並び、タイトルの“ポプテピピック”が栄えある世界トレンド1位に輝いたのだ。そして、その“事件”に触発され、同アニメを配信したニコニコ動画は史上最速で100万再生を達成する。

常識破りのサイマル放送

世界トレンド1位ということは、裏を返せば、それだけリアルタイムで『ポプテピピック』が多くの人に見られたということになる。
だが、ここでも同アニメは掟破りの手法でそれを成し遂げる。

普通、アニメでTwitterをバズらせるには、日テレで放送されるジブリ映画がお手本だけど、地上波キー局の圧倒的な番宣とリーチを駆使して、リアル視聴の“共通体験”を煽るのが一番だ。典型的なのが、映画『天空の城ラピュタ』の呪文「バルス!」である。いわゆるお祭り視聴の創出だ。

対して――『ポプテピピック』が取った手法は、それとは真逆である。
まず、放送するのは地上波キー局ではなく、東京ローカルのTOKYO MX。こう言ってはなんだが、番宣もリーチも期待できない。だが、ここからが凄い。オンエアに合わせて、複数の媒体で同時に放送(配信)する、掟破りのサイマル放送(IPサイマル放送)を行ったのだ。

どういうことか。まず地上波のオンエアに合わせて、BSでも同時に放送した。局は、アニメ番組に力を入れるBS11だ。そしてネットでも同時配信した。あにてれ、AbemaTV、Amazonビデオ、GYAO!、dTV、ニコニコ動画、ビデオマーケット、Hulu、FOD、Rakuten TV――と、実に10のサイトだ。アニメ作品を複数のサイトで配信するケースは多いが、ここでポイントになるのは、“同時配信”であること。つまり『ポプテピピック』は、地方にいても、外出先でも、どこにいても、ちょっと手を伸ばせば、誰でもリアルタイムで視聴できる環境だったのだ。

そう、同アニメを語る際、この“リアルタイム視聴”が最大のポイントになる。

民放テレビのビジネスモデル

普通、1つの番組を同時に複数の放送局やサイトで見られるサイマル放送(もしくはIPサイマル放送)は、よほどの事情がないと行われない。かつて民放各局が持ち回りで作り、大晦日に同じ番組を同時放送した『ゆく年くる年』とか、4月21日の放送広告の日に全局で流す特別番組とか、そういう特殊なケースに限られる。

なぜなら、民放テレビは、スポンサー収入が何より大事だからである。番組を放送することは、イコールCMを見てもらうこと。何を置いてもCMが大事。そのためには、リアルタイムで番組を見てもらわないといけないし、それを阻害する要素は排除しないといけない。つまり、ネット配信するにしても、オンエアを邪魔しちゃいけない。必ずオンエア終了後の配信が鉄則になる。一人でも多くの視聴者にリアルタイムで放送を見てもらい、視聴率を稼ぎ、CMを見てもらう――これが地上波民放テレビのビジネスモデルである。

しかし、アニメ番組となると、少し様相が変わってくる。

深夜アニメのビジネスモデル

その昔、アニメといえば、子供向けにゴールデンタイムの浅い時間帯(19時台)に放送されるものだった。しかし、近年は大分様相が変わって、『サザエさん』や『ドラえもん』、『ちびまる子ちゃん』といった国民的アニメを除いて、ほぼ深夜に放送される。
なぜなら、アニメというものは制作費がかかり、その割に視聴率が稼ぎにくく、スポンサーの獲得が難しいからである。そのため、近年は「製作委員会方式」が取られることが多い。

それは、テレビ局や広告代理店、映画会社、玩具メーカーらが共同出資して、作品の二次利用の売上げを出資比率に応じて分配する制度。これなら制作費を集めやすいし、リスクも分散できる。要は、昨今のアニメファンはマーケットが縮小する一方、パトロン化しており、一人が高額のDVDやグッズを買ってくれるため、二次利用の売上げに特化したビジネスモデルである。極端な話、オンエアは作品の宣伝とも言える。

前代未聞の単独出資

――だが、『ポプテピピック』は、これらスポンサー方式とも製作委員会方式とも異なる、第三の道を選んだ。
それが、キングレコードの一社製作・提供体制である。つまり、全ての制作資金をキングレコードが出資する。その代わり、二次利用その他の版権も全て同社が手中にする。

これはちょっと珍しい。一社で制作費を負担するのはかなりの高額になるし、リスクも伴う。しかも相当、二次利用の売上げが大きくないとペイしない。だが――キングレコードは敢えてそのリスクを冒してまでも、単独出資にこだわったのだ。それには理由があった。

大事なのはリミッターの針を振り切ること

単独出資方式は製作委員会方式と比べて、リスクが高い。だが、メリットもある。それは――クリエイティブの自由度が格段に上がること。
製作委員会方式だと、どうしても合議制になって、作品の内容も無難になりがちである。一方、単独出資だと、キングレコードがいいと言えば、それでOKになる。

そう、これこそが『ポプテピピック』にとって、何より大事だったのだ。同アニメは先に述べたように、その内容が掟破りである。リミッターの針を振り切っている。つまり“クソアニメ”だ。だから祭りが沸き起こり、世界トレンド1位になれたのである。

お祭り視聴のメリット

そう、『ポプテピピック』にとって何より大事なのは、“お祭り”を作ること。そのために、同時配信の手段は多ければ多いほどいい。だから掟破りのサイマル放送(IPサイマル放送)なのだ。それは、従来の地上波の民放テレビのビジネスモデルと真っ向から対峙するもの。そして、『ポプテピピック』は見事にその賭けに勝った。

お祭り視聴が生むメリット――それは、濃いファンばかりでなく、ライトファンも、通りすがりの一見さんも、老若男女が見てくれることに尽きる。聞けば、同アニメの視聴者層は、下は子供から上は60代まで幅広いという。例えば、第3話の放送終了後に「秋葉原でポプ子のお面を配布するので、ポプ子でホコ天を占拠しよう」と軽く呼びかけたところ、老若男女の千人以上が殺到。たちまちイベントは中止に追い込まれた。
――そう、かようにそれは、一人のパトロンに高額の買い物をさせる従来の深夜アニメのビジネスモデルと全く異なる。視聴者のパイが大きい分、ごく普通のライトなファンに、同アニメ関連の軽い買い物をしてもらうだけで、二次利用の収入を増やすビジネスモデルである。

前代未聞の声優キャスティング作戦

今回、『ポプテピピック』が話題となった要素の一つに、メインキャストの2人――ポプ子とピピ美の声優を毎回変えるという前代未聞の作戦もあった。何より、初回から事前に告知していた配役と違ったのだ。
以下が、これまでに起用された声優の一覧である。

第1話
Aパート
ポプ子:江原正士、ピピ美:大塚芳忠(原作マンガにシャレで書かれた希望声優)
Bパート
ポプ子:三ツ矢雄二、ピピ美:日髙のり子(『タッチ』上杉達也と浅倉南)

第2話
Aパート
ポプ子:悠木碧、ピピ美:竹達彩奈(声優ユニット「petit milady」メンバー)
Bパート
ポプ子:古川登志夫、ピピ美:千葉繁(『北斗の拳』『うる星やつら』で共演)

第3話
Aパート
ポプ子:小松未可子、ピピ美:上坂すみれ(※事前発表キャスト)
Bパート
ポプ子:中尾隆聖、ピピ美:若本規夫(『ドラゴンボールZ』フリーザとセル )

第4話
Aパート
ポプ子:日笠陽子、ピピ美:佐藤聡美(『けいおん!』『生徒会役員共』で共演)
Bパート
ポプ子:玄田哲章、ピピ美:神谷明(『シティーハンター』海坊主と冴羽獠)

第5話
Aパート
ポプ子:金田朋子、ピピ美:小林ゆう(『けものフレンズ』で共演)
Bパート
ポプ子:中村悠一、ピピ美:杉田智和(声優界の「磁石コンビ」※イニシャルに由来)

第6話
Aパート
ポプ子:三瓶由布子、ピピ美:名塚佳織(『交響詩篇エウレカセブン』レントンとエウレカ)
Bパート
ポプ子:下野紘、ピピ美:梶裕貴(ラジオ「下野紘&梶裕貴のRadio Misty」コンビ)

第7話
Aパート
ポプ子:こおろぎさとみ、ピピ美:矢島晶子(『クレヨンしんちゃん』ひまわりとしんのすけ)
Bパート
ポプ子:森久保祥太郎、ピピ美:鳥海浩輔(『テニスの王子様』『NARUTO-ナルト-』で共演)

第8話
Aパート
ポプ子:諸星すみれ、ピピ美:田所あずさ(『アイカツ!』星宮いちごと霧矢あおい)
Bパート
ポプ子:小野坂昌也、ピピ美:浪川大輔(『よんでますよ、アザゼルさん。』アザゼル篤史と芥辺)

第9話
Aパート
ポプ子:中村繪里子、ピピ美:今井麻美(『THE IDOLM@STER』天海春香と如月千早)
Bパート
ポプ子:斉藤壮馬、ピピ美:石川界人(『残響のテロル』ツエルブとナイン)

第10話
Aパート
ポプ子:徳井青空、ピピ美:三森すずこ(『ラブライブ!』矢澤にこと園田海未)
Bパート
ポプ子:小山力也、ピピ美:高木渉(『名探偵コナン』毛利小五郎と高木渉)

第11話
Aパート
ポプ子:水樹奈々、ピピ美:能登麻美子(『いちご100%』『地獄少女』で共演)
Bパート
ポプ子:郷田ほづみ、ピピ美:銀河万丈(『装甲騎兵ボトムズ』キリコとロッチナ)

――いかがだろう、レジェンドからアイドル声優まで、華麗なる有名声優たちの名前が並ぶ。そのラインナップだけでも驚きだが、絶妙なのは、各回とも何かしら関係のある2人がキャスティングされている点。

その理由について、同アニメのプロデューサーを務めるキングレコードの須藤孝太郎サンはこんな風に語っている。「アドリブも含めて、役作りを全てご本人たちにお任せしています。そうなると、ごく親しい声優さん同士のほうが盛り上がるので」――つまり、良く知った仲ならアドリブも出やすいだろうという安直な理由である。しかも、ほとんどがリハーサルなしの一発本番とか。だが、それがよかった。かの黒澤明監督もテイク1を重視したというが、それは役者の自然な演技が見られるからである。『ポプテピピック』も同様、毎回、声優たちの個性がさく裂し、神回が頻発した。

声優大作戦のメリット

何度も繰り返すが、『ポプテピピック』にとって何より優先されるのは、リアルタイム視聴を増やして、“お祭り”を作ることである。それがマーケットのパイを広げ、ライトな視聴者を増やし、二次利用収入の拡大につながる。

そう、前述の声優キャスティング作戦も当然、お祭りを生んだ。視聴者サイドは、毎回「今度はどんな繋がりか?」と2人の共通点を推理し合い、さらにABパートのアドリブの違いもネタにした。そうなるとTwitterなどでのネタバレを恐れ、リアルタイムで見るしかない。「この祭りに乗り遅れるな!」の心理である。

さらに、その作戦は声優サイドにもプラスに働いた。第2話のBパートのポプ子に起用されたベテラン古川登志夫は、こんな風に語っている。

「声優個々の演技論の違いが明確に分かるポプ子とピピ美の複数キャスティング。ある意味、俳優教育、声優教育に一石を投じるコンテンツにも思える。基礎訓練(土台)は同じでもその上に建てる演技論(家)は多様」

極論にせよ「演技論はプロの表現者の数だけ有る」は成り立つ、と。

怪我の功名、ABパート

――いかがだろう。古川サンの言葉はベテラン声優だけに、業界に波紋を呼んだ。実際、今回キャスティングされた声優たちは、最初は“お任せ”演出に戸惑いつつも、やり終えた後は一様に満足感を覚えたという。
恐らくそれは、微妙な“競争心”が芽生えた結果である。同じポプ子とピピ美を演じる他の声優たちより面白くやりたい――と。特に顕著なのは、全く同じ内容で比較されるABパートである。ここでは台本にないアドリブの違いまでが視聴者に丸わかりで比較される。声優たちが燃えないはずはない。

これは、マーケットでは当たり前の法則だけど、競争こそが製品を面白くする最良の方法なのだ。テレビの世界でも、NHKの朝ドラが今日の地位を築けたのは、大阪放送局も制作を担当するようになり、東・阪がテレコに放送する体制に移行してからである。互いに競争心が芽生え、質が向上したのだ。一時期低迷していたTBSの日曜劇場が復活したのも、『JIN-仁-』の平川雄一朗チームと、『半沢直樹』の福澤克雄チームが互いに競争心を抱き、切磋琢磨した結果である。

このABパートは、実は苦肉の策だった。原作が4コマなので、どう作ってもアニメは15分がMAXだ。しかし、地上波で流すには30分枠がマストであり、残り15分をどう埋めるかを考えた結果、前代未聞の声優だけを変えて再放送するフォーマットが生まれたのである。
結果オーライだ。

リスペクトの系譜

アニメ『ポプテピピック』は1話15分だが、その中身はバラエティに富んでいる。ストーリーものあり、ショートネタあり、ヘタウマタッチのコーナーあり、ドット絵のコーナーあり、なぜかフランス人アニメーターのコーナーあり――とにかく、矢継ぎ早に画面が切り替わる。短いネタだと数秒程度。そして切り替わる度に「ポプテピピック」のロゴのアイキャッチが入る。

僕はそれを見て、ふと往年の伝説的バラエティ番組『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』を思い出した。矢継ぎ早に展開されるショートコント(短いものなら数秒)、スタジオVTR・屋外フィルム撮影・アニメーションといった多様な映像の見せ方、そして時おり入る「ゲバゲバピー!」のアイキャッチ。似ている――と思ったら、あるインタビューで前述のキングレコードの須藤孝太郎サンがこんなことを語っていた。
「そもそも原作自体が哲学だったので、どうしようかという話になった際、バラエティ感を出していく方向性に決定しました。オムニバスといいますか、ショートショートの形……例えば『ウゴウゴルーガ』のような……」

ビンゴ! やはりバラエティ番組だったのだ。しかも、『ウゴウゴルーガ』といえば、フジテレビの奇才・福原伸治サンの演出である。そう言えば以前、福原サンが「ウゴルーは、日テレの『カリキュラマシーン』のリスペクトから生まれた」と語っていた。カリキュラといえば――そう、日テレのヴァラエティー・ショーの神様、井原高忠サンの企画である。井原サンといえば――『ゲバゲバ90分!』だ。

繋がった。『ゲバゲバ』から『ポプテピピック』へ連なる名作バラエティの系譜。エンタメの世界では、“優れた作品に、旧作へのリスペクトあり”と言われる。

『ポプテピピック』が面白いワケである。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第36回 視聴率の正体

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前回の本連載の『ポプテピピック』のコラム、思った以上に反響があり、正直驚きました。お読みいただいた皆さん、ありがとうございました。
要は――地上波キー局の番組じゃなくても、まるでお祭りに参加するように見ていた人が多かったんですね。あらためて、過渡期にある今のテレビ界の姿をおぼろげながら可視化できたように思います。

さて、そこで1つ気になったこと――。そんな風に“お祭り視聴”が実現できた『ポプテピピック』、いわゆる視聴率はどれくらいだったのだろう。

もちろん――同番組は、TOKYO MXとBS11のサイマル放送に加え、10の配信元による異例のインターネット同時生配信。現状のビデオリサーチの計測方法では視聴率の全体像は測りようがない。とはいえ、初回放送時に、Twitterのトレンドランキングでは「ポプテピピック」が栄えある世界1位という偉業を達成した。仮に、地上波キー局の番組として放送されていたなら、どれくらいの視聴率を稼いでいたのだろうかと、単純に興味が湧く。

もう1つの世界トレンド1位

それを推測するのに、1つ参考になるかもしれない番組がある。
昨年11月にAbemaTVで放映された「新しい地図」の3人(稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾)による『72時間ホンネテレビ』だ。同番組も『ポプテピピック』同様、ツイッターのトレンドランキングで「森くん」が世界1位になるなど、SNS上を大いに賑わせた。しかも、インターネットによる生配信番組という立ち位置も同じだ。

ちなみに、同番組は、3日間の総視聴数が7400万を超えたことでも話題になった。ただ、それは視聴者が番組にアクセスした合計値なので、一人が何度も番組にアクセスしたケースもあり、単純な“視聴者数”とは異なる。それでも、ネット配信番組としては前代未聞の数値に「いよいよネットが地上波に追いついたか?」なんて感想も多く聞かれた。

しかし――同じ月の月末、それを打ち消すような報道が流れる。
突如、ビデオリサーチ社がニュースリリースとして、同番組の推定視聴者数を「207万人」と発表したのだ。先に発表された総視聴数との開きに、業界関係者ばかりでなく、お茶の間も少なからず困惑した。
いや、騒動はそれだけに収まらない。翌日、AbemaTVを運営するサイバーエージェントの藤田晋社長がビデオリサーチ社に抗議して、同記事は削除されたのだ。詳細な経緯は不明だが、なんとも後味の悪い空気が残った。

ちなみに、ビデオリサーチ社は推定視聴者数の算出に際し、同番組へのスマホやPCからの接触率を2.4%と推計したという。測定方法が違うので単純には置き換えられないが、仮に視聴率でこの数字なら深夜の番組だ。ゴールデンなら即打ち切りのレベルである。

推定接触率2.4%――。衝撃の数値だ。ネット生配信に、ツイッター世界トレンド1位と、同番組と成り立ちが似ている『ポプテピピック』も、実情はその程度の視聴率(接触率)だったのだろうか?

SNSと視聴率は連動しない?

『72時間ホンネテレビ』と『ポプテピピック』に共通するのは、SNS上の異常な盛り上がりである。両番組とも配信中(放送中)は関連ワードがツイッターのトレンドの上位を独占するなど、いわばお祭り状態だった。

その状況は――直近ならそう、「平昌オリンピック」が近いだろうか。肌感覚では、オリンピック中継と『72時間』と『ポプテ』は、SNS上の盛り上がりにおいて、さほど差がないようにも思われた。

ちなみに、下が先の2月の月間視聴率TOP5である。見事にオリンピックが独占している。しかも最近、とんとお見掛けしない高い数字ばかりだ。

2月の月間視聴率TOP5(ビデオリサーチ調べ/関東)
1位 平昌オリンピック中継(フィギュア男子フリー羽生金)   33.9%
2位 平昌オリンピック中継(開会式)             28.5%
3位 平昌オリンピック中継(カーリング女子準決勝日本対韓国) 25.7%
4位 平昌オリンピック中継(カーリング女子3位決定戦)    25.0%
5位 平昌オリンピック中継(スケート女子1000m小平銀・高木銅)24.9%

一方、昨年11月の『72時間』は推定接触率2.4%である。その差は10倍以上――。
もしかしたら、SNSと視聴率は連動しないのだろうか?

SNSで可視化されたテレビの強み

いや、そんなことはない。本連載でも以前、第1回の「テレビはオワコン!?」で指摘したように、例えば、アメリカの「スーパーボウル中継」は、スマホ元年と言われる2010年以降、それまでの40%台前半の視聴率から一気に40%台後半へとハネ上がり、以後もずっとその状態をキープしている。要は、スーパーボウルの中継を見ながらSNSにアクセスすると、皆が自分と同じ思いでいることが確認できたんですね。そんな“同時体験”の快感に視聴者が目覚めたのだ。

そう――これが、テレビ視聴が持つ快感。例えば、普段飽きるほど聴いている曲でも、テレビやラジオから流れてくると、思わず聴き入ってしまう。あれは「今この瞬間、自分は皆と同じ曲を聴いている!」という快感に浸れるから。SNSはそれを可視化してくれたのである。

「箱根駅伝」はお正月の孤独を紛らわせたい男女が集う

同様の現象は、日本でも見受けられる。日本のお正月の風物詩――『箱根駅伝中継』(日本テレビ系)もその1つだ。

実際、青山学院大がV4を飾った今年の視聴率は、往路が歴代1位の29.4%、復路が歴代3位の29.7%と、視聴率的には大成功の大会だった。断わっておくが、山の神もいない、際立ったスターのいない大会である。

番組は、レース開始時刻の午前8時10分前に始まり、往復ともゴールテープが切られる午後2時過ぎまで、実に6時間以上も完全中継される。そんな長時間にわたって30%近い視聴率を維持できるのは、ひとえにSNSのお陰である。何せ、レースが行われている間、ツイッターのタイムラインはほぼ「箱根」一色。みんな「この祭りに乗り遅れるな!」と、チャンネルを合わせるのだ。

ちなみに、NTTデータの調査によると、箱根駅伝のツイートを分析した結果、浮かび上がった平均的視聴者像は、男性が34歳、女性が28歳で、男女ともに未婚が多くを占めたという。そう――皆、お正月の孤独を紛らわすために、誰かとつながりたかったのだ。

視聴率と比例して増えた『逃げ恥』のツイート

視聴率とSNSの相関関係は、ヒットドラマを通して見ると、もっと分かりやすい。
例えば、2016年10月クールに放送され、「恋ダンス」現象を巻き起こしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。家事代行の雇い主と従業員の関係で出会った2人の男女が、“契約結婚”を通して、やがて真実の愛に目覚める話である。同ドラマで脚本家の野木亜紀子サンが一躍ブレイクし、主演を務めたガッキーと相手役の星野源サンの人気も爆発した。

同ドラマの視聴率とツイート数の変化を追うと、見事に比例して右肩上がりなのが分かる。初回は、視聴率10.2%に対して、ツイート数は1万そこそこだったのが、中盤の5話では視聴率13.3%に対して、ツイート数は約2万。終盤の8話になると視聴率16.1%に対して、ツイート数は3万5千、そして最終回は視聴率20.8%に対して、ツイート数は8万を超えたのである――。

SNSの落とし穴

――以上を踏まえると、やはり視聴率とSNSは相関関係にあると思って間違いないと思う。
だが、実は1つ、SNSには大きな落とし穴がある。それを教えてくれるのは、かの国民的歌番組である。

――そう、『紅白歌合戦』だ。
紅白も先の番組たちと同様、毎回、SNSが盛り上がる番組として知られるが、スポーツ中継やヒットドラマと違い、その関係は少々“いびつ”である。

面白い記事がある。
電通総研のフェローであり、メディアコンサルタントの境治サンの署名記事で、昨年1月6日のYahoo!ニュースにも取り上げられた『「グダグダ紅白」がツイッターでもっとも盛り上がったのは「ゴジラマイク」だった』がそう。この中で、境サンは2015年と16年の紅白のツイート数を比較・分析している。

興味深いのは、15年に比べて16年のツイート数が約1.5倍も増加している点。境サンは、同年の「シン・ゴジラ」ネタ(ありましたナ)を始めとするグダグダ演出がネガティブな反応も含めてSNSを盛り上げたと分析する一方、それが視聴率を押し上げたかどうかは、確認できないと結論付けている。
実際、ツイート数が前年の1.5倍になった割には、16年の紅白(第2部)の視聴率は15年(同)からわずか1%しか増えていない。

母数の圧倒的な違い

僕は、その記事を読んで、境サンの分析に頷く一方、あるデータにくぎ付けになった。それは、紅白についてツイートした人数である。15年が約3万3,000人で、16年が約5万9,000人――なるほど、そもそもツイートした人数が倍近く増えているので、ツイートも増えたワケである。

いや、僕が驚いたのはそこじゃない。その母数だ。紅白の視聴率は約40%。大雑把に言えば、約4,000万人が見た計算になる。対して、ツイートしたのは3万~6万人。桁が3つも違う。3つだ。正直、3万人が6万人に増えたところで、視聴率の母数――4,000万人に比べたら、吹けば飛ぶような数字である。

サイレントマジョリティー

総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2017年7月)によると、日本におけるツイッターの利用率は約3割弱という。つまり、約3,000万人だ。このうち40%が紅白を見たとすると、約1,200万人。そのうち実際に紅白に関してツイートしたのは6万人。率にして、0.5%――。

0.5%である。SNS時代と言いつつ、積極的に発言する人々の割合はこんなものなのだ。恐らく――0.5%の背後には、その10~20倍の沈黙の読み手がいると思われる。そう、サイレントマジョリティーだ。近年の米スーパーボウルや箱根駅伝の視聴率上昇は、そんな沈黙の彼らが動いた結果だろうし、SNS時代を迎えても紅白が大きく数字を伸ばせないのは、やはり彼らが動くのをためらっているからかもしれない。

地上波テレビの視聴率の正体

段々、見えてきた。
確かに、視聴率とSNSには相関関係がある。しかし、それは視聴率全体を押し上げるというよりは、一種の上澄み液みたいなもので、影響を及ぼすにしても全体の5~10%が上乗せされるに過ぎない。

一方、テレビの視聴率を構成する大部分――残る90~95%が、テレビの強みであり、今日に至るまでテレビが繁栄してきた正体なのだ。SNSが影響を及ぼさない、いわば視聴率の“幹”の部分だ。

僕は、その視聴率を構成する正体は、地上波テレビ(NHKとキー局)の持つ“リーチ”力だと思う。
リーチとは、テレビ業界の専門用語で「到達率」のこと。元々の意味は、ある期間内に特定のCMに触れさせることを指したが、それが転じて――テレビというメディアの持つ“引力の強さ”のような意味合いでも用いられるようになった。

地上波テレビの伝家の宝刀――リーチ

ほら、家にいる時、何をするともなくテレビをつけることってありません? 新聞のテレビ欄を見ることなく、とりあえず日テレにチャンネルを合わせてみたり、「今、なんかやってないかな」くらいの軽い気持ちでザッピングしたり――。

あの行動がリーチである。そして、テレビが他のメディアと比べて圧倒的に強いのが、その引力の強さとハードルの低さなのだ。深く考えもせず、ちょっと手を伸ばすだけで、簡単にテレビの扉を開いてしまう。別段、『紅白歌合戦』を見たいつもりじゃなかったのに、気がついたらテレビをつけて紅白を見ていた――それがリーチ。地上波テレビが半世紀を超える歴史で築き上げた、いわば“伝家の宝刀”である。

見たい人しか見なかった『72時間』と『ポプテ』

そして、話は冒頭に戻ります。
ビデオリサーチ社が一度は発表したものの、AbemaTVの藤田晋社長の抗議を受けて撤回した、あの数字。『72時間ホンネテレビ』の推定視聴者数は「207万人」で、推定接触率は「2.4%」――。

つまり、あの数字は、純粋に『72時間』を見たいと思い、行動を起こした人々の数値だったんですね。実際、番組を見るには、自らアプリにアクセスしたり、サイトを探したりといった強い行動力が求められる。
それに対して、地上波テレビの視聴率は、特に目的もなく、なんとなく手を伸ばしたらテレビを見ていた人々の数値――伝家の宝刀“リーチ”で構成される。その割合は、視聴率全体の実に90~95%にも達する。

藤田社長にしてみれば、ビデオリサーチ社の出した『72時間』の数字はそれなりに説得力のあるものかもしれないけど、そもそも地上波テレビとは視聴率の成り立ちが違うのだから、それと比較されるような数字はスポンサーの誤解を招きかねない――そんな心境だったのかもしれない。

そうなると、このコラムの冒頭で提起した『ポプテピピック』の視聴率の近似値も、自ずと見えてくる。それは、『ポプテ』を見たいと強く思い、行動したユーザーたちが、SNSによって可視化された数値である。地上波テレビのリーチで構成される圧倒的な視聴率とは別もの。恐らく――『72時間』の数値と大差ないと思われる。

民放キー局が放送法改正に反対する理由

ここから先の話はあまり長くない。
そういえば最近、「放送法改正」に関するニュースがチラチラとネットなどを騒がせている。聞けば、民放キー局の主要5局は、それに反対を唱えているという。その理由として、放送法4条の撤廃に触れて「政治的公平が保たれなくなる」云々――。

まぁ、欧米の先進国ではとうに、それに該当する放送法は撤廃されているし、極端な政治的偏りやフェイクニュースの類いは、政府よりも、BPOなりの第三者機関で取り締まるのが本来のスジなので、実はそこは大きな争点ではない。

ここまでお読みになられた皆さんなら、薄々、民放5局が法改正に反対する本当の理由が分かると思う。そう、放送法改正の要とは「放送と通信の融合」のこと。それはつまり――地上波テレビの伝家の宝刀である“リーチ”が失われる危険性を意味する。

アメリカのテレビは日本の未来?

実際、とうに放送と通信の垣根が取り払われたアメリカでは、地上波テレビの優位はない。4大ネットワークは有料放送のHBOや動画配信のNetflixらと同列に並べられ、人々はケーブルテレビと契約して、膨大なチャンネルの中から番組を選んで視聴する。視聴率はよくて2~3%という世界である。

そんな状況を見せられたら、民放5局が反対したくなるのも分かる。なんたって伝家の宝刀だ。フォースを失ったヨーダは、ただの老人である。

とはいえ、この4月から日本でも視聴率の測定法が変わる。それまでの世帯視聴率から、個人視聴率をベースとしたリアルタイムとタイムシフトの合計値になる。それは、まさにアメリカを後追いする行為だ。
そう、時代は変わる。結局、世の中を動かすのは視聴者のニーズである。視聴者がテレビの多チャンネル化を望めば、自ずとテレビの未来もその方向へ進む。

その時、テレビ界に求められるのは、SNSも含めた“能動的”な新たなる視聴率の指標だろう。シード権のように特定の事業者(放送局)だけが享受できる「リーチ」とは違う、創意工夫して視聴者を獲得した番組が正当に評価される環境づくり――。

そんな未来では、人々は今よりもっとテレビを好きになっているかもしれない。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第37回 未来のテレビ

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このごろ、テレビ関係者と話していると、よく「5G」の話題になる。
5Gって?
――いわゆるモバイルネットワークの第5世代移動通信システムのことだ。Gとは「Generation(世代)」の略。ちなみに現在が4Gである。

思い返せば、1G(第1世代)が登場したのが1980年代の半ばだった。そこで普及したのが自動車電話やショルダーフォンである。ほら、ドラマ『抱きしめたい!』(88年/フジテレビ系)で浅野温子が肩から下げてたアレ。そして、2G(第2世代)に移行したのが90年代前半。ここでアナログからデジタルになり、メールのやりとりが可能になって、女子高生の間でポケベルが大流行した。ドラマ『ポケベルが鳴らなくて』(93年/日本テレビ系)がこの時期。とはいえ、当時は数字のやりとりしかできなかったので、彼女たちは「0840=おはよう」「0833=おやすみ」「114106=愛してる」などと、数々の暗号を編み出した。

3G(第3世代)の登場は21世紀である。ここで携帯電話もインターネットが可能になった。NTTドコモのiモードが活躍したのが、この時代。そして2010年代に入ると、モバイルの世界は4G(第4世代)へと進化し、高速での大容量通信が可能となった。ここで普及したのがスマホである。

日本は4G先進国

意外と知られていないが、日本は世界トップクラスの4G先進国である。
国別の4Gの普及率を見ると、トップはお隣の韓国で、次いで日本。その普及率は実に95%を超える。国土の面積や、離島や山岳地帯の多さを考えると、日本の普及率は驚異である。

それは、半世紀を超える日本のテレビ行政と無縁じゃないという。放送法のNHKの項目には「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように……」と書いてあるが、NHKや民放各局が日本中に中継局を置いて、離島だろうが山岳地帯だろうが、誰もが公平にテレビを見られるよう努力を重ねてきたノウハウが、4Gのネットワークにも生かされているのだ。中継局が足りず、ケーブルテレビに頼るようになったアメリカとそこが違う。

そして、来るべき5G(第5世代)――。
その登場は、日本は世界に先駆け2020年ごろと予測されている。あと2年だ。そして――これがテレビの世界を一変させるかもしれないのである。

衝撃の5G

5Gで何が変わるか?
――簡単に言えば、動画の超高速化と大容量化、それに伴う低コスト化である。

現在、Wi-Fiなどに接続せずにスマホで動画を見ると、すぐに通信量が上限を超え、速度制限がかかってしまう。これがネックで、若い人たちはほとんどスマホで動画を見ることはない。
ところが、これが5Gになると、通信速度は100倍、通信量は実に1000倍になるという。要は、今の1000分の1のコストで動画が見られるようになるんですね。これだと、どれだけ動画に接続しても速度制限がかかる心配はない。つまり――外出先でも気軽にテレビ番組や動画が見られるようになるってワケ。

そして、その恩恵を最も受けると言われるのが、若者たちなのだ。

若者のテレビ離れの原因

テレビ界で「若者のテレビ離れ」が叫ばれるようになって久しい。
思い返せば、その発端は2011年あたりだったと思う。その年、何が起きたかというと――東日本大震災が発生し、SNSが脚光を浴びて、スマホが一気にマーケットを広げたんですね。前年まで一桁の普及率に過ぎなかったスマホ市場が、この年倍増。それをけん引したのが、10代と20代の若者世代だったんです。

そう、若者がスマホに夢中になった――これが2011年のトピック。その結果、どうなったかというと、彼らのテレビの視聴時間が減り、比較的若者層に見られていたフジテレビがその影響をモロに受けてしまった。
実際、この年フジは前年まで7年連続で保持してきた年間視聴率三冠王の座から陥落。それを象徴するように、かつて同局で07年に平均視聴率17.0%とヒットした若者向けドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』が、4年ぶりにリメイクされるも――平均7.1%と惨敗。そう、わずか4年の間に、若者がテレビから離れてしまったのだ。

そして以降、若者のテレビ離れはますます進み、一方でテレビ界は視聴率を取るために中高年層に照準を合わせるようになった。その結果、彼らが好む情報バラエティや刑事ドラマの類いが急増する。若者のテレビ離れと言いつつ、その実“テレビの若者離れ”と言われるのはそういうことである。

なぜ若者はスマホに夢中になったのか

それにしても――なぜ、スマホはそれほどまでに若者たちを惹きつけたのか?
1つ考えられるのは、“時間”である。

そう、時間――。
ネット社会の現代は、情報が氾濫している。Googleの元CEOエリック・シュミットが「人類が生まれてから2003年までに作られたデータ量と同じ量のコンテンツが、現在では48時間で作られている」と述べたほど、現代は情報の洪水の中にある。
そんな中、僕らは日々、莫大な情報の取捨選択に忙しい。嗅覚に優れ、好奇心旺盛な若者たちなら尚更である。そんな時代を生き抜くには、いかに時間を効率的に使いこなせるかが鍵になる。

そこでスマホだ。
それは、世界とダイレクトに繋がれるツールである。しかも、どこでも自在に持ち運べる。つまり――情報の取捨選択に費やす時間を、自分の思い通りに“編成”できる。そこに若者たちは惹かれた。

すべての情報はスマホから

一方、テレビに目を向けると、放送プログラムはテレビ局の都合で編成され、視聴者は決められた時間にテレビの前に座っていなければいけない。録画した番組を見るにしても、テレビの前にいないといけないのは同じだ。
若者にしてみれば、ドラマを見るために、貴重な1時間をテレビの前に束縛されるのは、耐えられないのだ。

そんな次第で、今や若者たちはあらゆる情報をスマホから取り入れるようになった。ファッション誌がここ数年、急速に売り上げを落として休刊が相次いでいるのも、スマホにマーケットを奪われたからである。わざわざ発売日を待って、書店に足を運ばなくても、スマホを開けば様々なアプリを通じて流行の服や探している服にアクセスできる。しかも、その情報は無料で、クリック一つで購入もできるのだ。

ドラマ受難の時代へ

――とはいえ、スマホが全てに万能というワケではない。スマホにとって苦手な分野もある。その最たるが「動画」である。先にも述べたように、Wi-Fiなどに接続せずにスマホで動画を見ると、すぐに通信量が上限を超え、速度制限がかかってしまう。これがネックで若者たちは大人たちが思っているほど、スマホで動画ばかり見ているわけではない。中には、「WiMAX」などのモバイル機器を使って動画を楽しむ若者もいるにはいるけど、まだまだ少数派だ。

一方、テレビ局の側は、視聴者に“見逃した番組”をタイムシフトで見てもらおうと、今や連ドラの多くは一週間限定で、ネットで無料配信されている。でも――その施策が若者たちに十分に活用されているとは言い難い。

だが、そんな心配も、あと2年もすれば解消されるかもしれないのだ。

2020年、テレビは再び若者メディアに?

そう、それが2020年に予測される「5G」時代の到来だ。
先にも述べたように、5Gになると通信速度は今の100倍、やりとりできる通信量は実に1000倍になるという。要は、現行の1000分の1のコストで動画が見られるようになるということ。
そうなると、Wi-Fi環境のない若者でも、外出先で好き放題、動画を見ることができる。連ドラの見逃し配信も24時間、好きな時にアクセスできる。

こうなると、何が変わるかというと――再びテレビ局が、若者向けにドラマを作るかもしれないんですね。現在、連ドラは、中高年層が好む刑事ドラマや医療ドラマが多くを占めているが、これが90年代のように若者向けのラブストーリーが氾濫するようになるかもしれないのだ。
バラエティも、現行の情報バラエティや医療バラエティの隆盛から、再び若者向けのお笑い番組やドキュメントバラエティ路線へ回帰するかもしれないのだ。

テレビの視聴スタイルが変わる

いや、それだけじゃない。
動画のコストが事実上、フリーになることで予想される最大のシフトチェンジ――それは、スマホなどのモバイル端末で動画が流し放題になることで起きる“テレビの視聴スタイルの変化”である。

そう、現在、僕らはテレビを見るとき、あらかじめテレビ欄などで番組をチェックしてから見る。しかし、その視聴動機が大きく変わるかもしれないのだ。ここで活躍するのがスマートウォッチ――腕時計型のスマホである。

まず、スマートウォッチでNHKのアプリを立ち上げ、番組をオンエア状態にする。そして一旦、メインの画面は他のアプリに切り替える(番組はバックグラウンドで再生され、音声も自動でオフに)。だが、他のアプリの操作中に、番組がSNSでバズったり、緊急性のあるニュースが流れたりすると――自動的にテレビ画面に切り替わり、音声もオンになる仕組みだ。かくしてユーザーは生で決定的瞬間に立ち会えるのである。

これ、以前のコラム「『AbemaTV 72時間ホンネ』テレビを検証する」でも解説したけど、テレビの視聴スタイルが「テレビを見る→何かが起きる」から、「何かが起きる→テレビを見る」に変わる――ということなんですね。
モバイル端末でテレビが流し放題になることで起きる最大のシフトチェンジが、まさにこれである。

2020年代はIPサイマル放送時代へ

その予兆はある。
来年の2019年、NHKはインターネット同時配信(IPサイマル放送)を始める予定なんですね。既に、先のリオデジャネイロオリンピックや平昌オリンピックで試験的に実施したIPサイマル放送が、いよいよ24時間体制になるということ。ちなみに、イギリスの公共放送のBBCは2007年からネット同時配信を始めているので、これでも随分遅いくらいだ。

一方、民放各局は今のところ、この流れに反対している。民放自身はスポンサー対策や設備投資、系列局との調整などでIPサイマル放送のハードルが高く、NHKの抜け駆けを許さないという姿勢である。
だが――放送行政の大きな流れで言えば、既にラジオ業界がNHKと民放の共同で、ネット同時配信アプリの「radiko」を実現させて聴衆者を増やしたように、早晩、テレビ業界もその流れに乗ると思う。何より優先されるべきは、視聴者の利便性だからである。

リコメンド+少し巻き戻し

そう、来るべき5G時代の2020年代――。
NHKと全民放がネット同時配信(IPサイマル放送)を実現すると、テレビの視聴スタイルは大きく変わる。
先に示したスマートウォッチによるモバイル視聴(動画流し放題)が標準となり、もはやテレビは“何かが起きてから見る”メディアになる。

それは、こんなイメージだ。
まず、スマートウォッチで全テレビ局のアプリを立ち上げ、全ての番組をオンエア状態にする(5Gの容量なら全く問題ない)。そしてメインの画面では、別のアプリを操作している。と、その時――突如、画面が切り替わり、××テレビの『△△』という番組が立ち上がる。サプライズでゲストが呼ばれ、自分の贔屓の女優の○○が登場したのである――。

そう、未来のテレビは“リコメンド機能”が進化し、ユーザーの嗜好を自動で解析して、リアルタイムで決定的シーンに誘導してくれるのだ。
いや、それだけじゃない。その際、ほんの少し巻き戻して、決定的シーンの直前から見せてくれる(追っかけ再生みたいなもの)のだ。これなら、コトが起きてから誘導されても、肝心のシーンを見逃す心配はない。

スポーツは究極の3D中継に

来るべき5G時代――。
実は、テレビの世界ではもう一つ大きな進化がある。“3D”だ。

5Gになれば、やりとりできる情報量が格段に増える。それが最も生きるのが3Dの分野なのだ。3D映像は普通の二次元の映像に比べて、情報量が格段に多い。だが、5Gならその処理は問題なくできる。

2020年代――スポーツ中継はテレビの最も人気コンテンツになっている。その時代、サッカーや野球などのスポーツ中継はスマートグラスで、3Dで見るのが標準仕様だからである。スタジアムの特等席で、首を回せば360度の臨場感ある中継映像を堪能できるのだ。

さらに、その時代はスイッチャー(映像の切り替え)機能も、視聴者が自ら行えるように進化している。ボタン一つで、スタジアム内に複数設けられたベストポジションに瞬時に移動できるのだ。例えば、サッカーならゴールポストの真裏でも観戦できる。正直、実際にスタジアムで観戦するより、遥かに臨場感があって面白い。

未来のテレビは楽しい

いかがだろう。来るべき5G時代の未来のテレビ――。

その時代、テレビはモバイル端末で見るのが標準になっている。リコメンド機能で、自分が見たい番組やシーンに、オンタイムでほんの少し巻き戻して誘導してくれる。もう、「番組を見逃す」なんて言葉は死語になるかもしれない。

また、その時代、スマートグラスを使った3Dスポーツ観戦も人気を博している。ベストの観戦ポジションを、自らスイッチャー一つで切り替えながら楽しめる。正直、スタジアムで見るより100倍面白い。

そう、未来のテレビは、今よりずっとずっと――面白いのだ。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第38回 まだ間に合う4月クール連ドラ

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突然ですが、割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論)って、ご存知です?

――これ、かつて1990年代に米ニューヨーク市長を務めたルドルフ・ジュリアーニ氏が採用した犯罪撲滅策で、ニューヨーク市内の落書きを徹底的に消してしまおうというもの。当然、消してもまた描かれる。そうしたら、また消す。描かれる、消す――この繰り返し。大事なのは、描かれたらすぐに消すこと。そうこうするうち、気がついたらニューヨークの犯罪率は激減していたそう。

この理論の提唱者が、アメリカの犯罪学の権威であるジョージ・ケリング教授だ。かつて教授は、わざとクルマを放置する社会実験をしたところ、そのまま放置したケースでは一週間経っても何も起きなかったのに対し、フロントガラスを割って放置した場合はすぐに部品が盗まれたことに注目した。そして、こう理論付けた。
「小さな犯罪をそのままにすることで、やがて大きな犯罪の住みかになる」。

そう、これが割れ窓理論。つまりジュリアーニ市長は、これを逆手に取ったんですね。小さな犯罪(落書き)を根絶することで、その先にある凶悪犯罪を減らしてしまおうと。そして結果は大成功。90年代、ニューヨークの治安は劇的に回復したのである。

タイムシフト視聴は“週”回遅れにならないこと

え? なんでテレビのコラムなのに、突然そんな話を始めたのかって?
そう、それは――テレビのタイムシフト視聴も、これと似たようなものじゃないかって思ったから。「週末にまとめて見よう」と録画した連ドラを放置していたら、気がついたら2、3週分、録画が溜まっていた――なんて経験ありません?

僕の経験上、録画したドラマは、次の回が来るまでの一週間以内に見ないと、どんどん溜まる傾向にありますね。まさに割れ窓理論。小さなミスを放っておくと、どんどん積み重なり、やがて取り返しのつかない大きなミスに発展する。

そう、連ドラのタイムシフト視聴で大事なのは、“週”回遅れにならないこと――。

まだ間に合う4月クール連ドラ

――とはいえ、4月クールの連ドラも既に終盤。ぶっちゃけ、3話あたりで視聴が途切れて、後の回は録画したまま放置して、もはや回収を諦めている――なんて人も多いんじゃありません?
でも、大丈夫。前にも言ったけど、連ドラというのは基本、いつ見始めてもいいんです。例え、最終回からでも。繰り返し引用しますが、山田太一先生曰く「連続ドラマというのは、ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる」――。

また、例の「ニコハチの法則」もある。連ドラで大事なのは節目となる2・5・8話。8話といえば、物語の終盤の起点になりやすい。大抵、主人公が自己を見つめ直し、そこから最終回に向けての新たなターンが始まる。つまり8話から見始めても、十分に満足できるんです。

そんな次第で、今からでも遅くない、4月クールの必見ドラマを4つほど解説したいと思います。え? あとのドラマは見なくてもいいのかって? いえね、連ドラを終盤から見始めるメリットとして、見るべきドラマを絞れるという利点もあるんです(笑)。ま、他はお時間のある時にでも――。

今年最大のお祭りドラマ『コンフィデンスマンJP』

一般に、4月クールの連ドラは、1年のうちでテレビ局が最も力を入れると言われる。年度の変わり目だし、そこで華々しくスタートを切って、新年度を盛り上げようと。そのために看板役者と珠玉の企画が用意される。

その意味では、この4月クールで最もその意気込みを感じるのが、フジの月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』である。主演は大スター長澤まさみに、脚本は『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』のヒットメーカー・古沢良太。近年、視聴率も話題性もパッとしない「月9」にとって、久々の大型企画だ。

はっきり言いましょう。もし、未見の方がいたら、このドラマは絶対に見ておいた方がいい。最終回からでもいい。
聞くところによると、制作費はあのTBS日曜劇場の『ブラックペアン』を上回るというし(つまり今クール最高だ)、撮影もスタート前に全て終わっており、既に映画化も決まっているし――。そう、資金潤沢、用意周到。つまりフジテレビが社運を賭けているんですね。今年最大のお祭りドラマと言ってもいい。

アンチヒーロー&コンゲームもの

物語は、アニメの『ルパン三世』や往年のテレビドラマ『スパイ大作戦』のパターンだ。いわゆるアンチヒーローもの。そしてコンフィデンスマン(詐欺師)が活躍するコンゲームものでもある。

主人公の長澤まさみ演ずるダー子は、天才的な頭脳と、どんな専門知識も短期間でマスターできる集中力、そして変装の達人だ。ただし、ハニートラップの才能はない。
相棒は小日向文世演ずるベテラン詐欺師のリチャード。彼もまた変装の名人で、言葉巧みにターゲットに近づくインテリだ。この2人に翻弄されつつ、チームの一員として毎度奔走するのが、東出昌大演ずる正直者のボクちゃん。いつも最後は彼も騙されていたことが発覚するのも、お約束。そして2話で登場して、いつの間にかチームに加わっていた神出鬼没の五十嵐。演ずるは小手伸也――。

その基本フォーマットは、世の悪党たちをダー子たちが「詐欺」で懲らしめるというもの。だが、いつの間にか詐欺の実行役のボクちゃんも騙され、釣られてお茶の間も騙されるという二重、三重のどんでん返しが面白い。
普通、海外ではこの手のインテリ系のドラマは複数の脚本家によるチーム制で書かれるが、それを古沢良太サン一人で書いているのも凄い。『古畑任三郎』における三谷幸喜サンと同じだ。

ニコハチ傑作に駄作なし

今のところ、視聴率は8~9%台で推移し、一度も二桁に乗せていない。でも、SNSの反応や各種ネット調査を見る限り、内容に対する満足度はかなり高い。

ちなみに、「ニコハチの法則」に当てはめると――最初の通常回である2話は、「リゾート王編」。吉瀬美智子をゲストスターに、無人島を舞台に二転、三転のどんでん返しが繰り広げられた。正直、拡大版の初回の飛行機ネタが大ネタすぎて若干無理があったので、ジャストサイズのフォーマットを提供できた意味で、この2話は傑作だった。初回終了後にネットに渦巻いていたリアリティ面への批判も大方収束し、同ドラマへの評価がグッと増した回だった。

5話は「スーパードクター編」。大胆にもダー子が外科医に扮する話で、ターゲットの、かたせ梨乃演ずる病院理事長を騙して手術してしまう。当然無免許だ。いくらなんでもやりすぎと思ったら、開腹した臓器はハリウッドの特殊造形師ジョージ松原の手による作りもの。これを演じたのがカメオ出演の山田孝之だった。出演時間はわずか30秒。同回はネットでも話題となったので、見てなくても覚えてる人も多いだろう。

そして8話は、りょう演じるカリスマ美容社長を相手に、山形の廃村を舞台に大芝居が打たれた。「子猫ちゃん」と呼ばれる手下から美女たちを選抜し、村に送り込むなど用意周到にコトを運ぶが――最後に依頼者が裏切り、初のオケラ(無報酬)回に。この失敗が最終回へ向けた大逆転への布石にもなっており、節目という意味で、やはりエポックメーキングな回だった。

そう――ニコハチが傑作の連ドラに、駄作なし。

勝負はシーズン2から

さて、『コンフィデンスマンJP』は、既に映画化も決定して、間もなくクランクインと言われる。海外ロケも予定され、ゲストスターもかなりの大物が予想される。この調子なら、ドラマの知名度を生かしてヒットするのは間違いない。
要は、『ルパン三世 カリオストロの城』とか『ミッション:インポッシブル』とか『007シリーズ』とか、そんな娯楽大作ですね。むしろ、この手の企画は、映画こそ相応しいと言える。ウケない理由がない。

いや、それだけじゃない。
同ドラマは恐らくシーズン2が作られる。そして、その時――いよいよ視聴率がブレイクスルーする。
思い返せば、『古畑任三郎』も最初のシーズンは平均視聴率14.2%だったのが、シーズン2で25.3%とブレイク。古沢サン自身の作品『リーガル・ハイ』もシーズン1は平均12.5%だったが、シーズン2で18.4%と大化けした。

そう、1話完結のチームものの連ドラは、シーズンを重ねる毎にファンが増えて、数字が上がりやすいのだ。こと、『コンフィデンスマンJP』は内容面の評価も高く、映画版もヒットすれば――間違いなく、シーズン2は大化けする。その時、一緒になって盛り上がれるように、今からでも視聴しておくことをおススメします。

フジの冒険、モンテ・クリスト伯

続いては、同じくフジの木曜ドラマ、通称“木10”である。かつては月9と並ぶフジの2大看板と言われたが、近年は月9同様、低視聴率が続き、話題になる作品も少ない。

ところが――今クールはちょっと様相が違う。ディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯』である。原作はデュマが書いた、かの有名な『巌窟王』。幸せな結婚を遂げるはずの主人公が、えん罪を被せられ、遠く流刑の島に幽閉される。そこで謎の老人と出会い、莫大な隠し財産の秘密を教わり、十数年後に故郷に戻り、かつて自分を貶めた連中に対峙するという復讐劇だ。これを、現代の日本を舞台にリメイクした。

このドラマ、正直、視聴率は5~6%台と振るわないが、総じて満足度は高い。理由は――“演出”である。
あらすじだけを聞くと、なんだか昔の大映ドラマや韓流ドラマみたいでリアリティに欠けるし、一歩間違えたらネタドラマになりそうだ。だが――同ドラマは違う。ちゃんと今の連ドラっぽいのだ。肝はそこである。

珠玉の演出

それもそのはず、同ドラマの演出チーフは、フジのドラマ班のエースの西谷弘監督。いわゆる連ドラっぽさ――リアリティ感のある絵作りは、彼の功績が大きい。一般に「ドラマの9割は脚本」と言われるが、こと同ドラマに限っては有名な物語のリメイクということもあり、カギを握る「ドラマの9割は演出」である。

え? その割にはディーン・フジオカ演ずるモンテ・クリスト伯の正体に誰も気づかない描写はヘンだって?
そこだ。ドラマの設定では彼は26歳で幽閉され、戻ってきて復讐を開始するのが15年後の41歳。そしてディーン自身の実年齢が37歳。どうやったって顔が同じだからバレバレだ。ならば――そこにリソースは割かない。

あるインタビューで、西谷監督はこう述べている。「整形したのかとか、昔はすごく太っていたのかとか、それを特殊メイクでやろうとかいろいろ考えました。だけど全部小手先だし、見る人にとっては同じ役者さんだとわかっているわけだし、そこは堂々といけばいいと思いました」

何を面白がらせるのか

――そう、そもそもこの物語の面白さは、バレるかバレないかの描写ではなく、復讐の方法だ。さらに、かつての恋人、山本美月演じるすみれだけが唯一彼の正体を見抜く伏線もあり、周囲が気づかないことが大前提。
だから、整形などの小細工は、逆にドラマを安っぽく見せてしまう。ならば――あえて、そこはぬぐって、そのまま演技をさせるのがベストと判断したのだろう。そうすることで、視聴者には顔に触れるのは無意味と伝わる。結果、極めて文学性の高い、リアリティある連ドラになったのだ。

つまり、大事なのは、何を面白がらせるか。
その軸がブレないドラマは面白い。演出の意図が、ちゃんとお茶の間に伝わっているからである。同ドラマには、それがある。

女性2人のバディもの

続いては、『ドクターX~外科医・大門未知子~』をはじめ、先のキムタク主演ドラマ『BG~身辺警護人~』など、今やすっかり高視聴率ドラマの枠として定着したテレ朝の「木9」である。

今クールは、波瑠と鈴木京香の女性バディもの刑事ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』で臨んでいる。中盤まで平均視聴率は12%台で推移し、昨今、二桁行けば御の字と言われる連ドラの世界で、十分結果を残していると言っていい。

同ドラマの原作は、麻見和史サンの『警視庁文書捜査官』のシリーズだ。文書解読のエキスパートが文字や文章を手掛かりに事件解決に挑む視点は新しい試み。とはいえ――主役2人が所属するのは地下の書庫にある第6係と、いわゆる“窓際部署”が活躍するフォーマットは、刑事ドラマのド定番だ。

原作では、男女のバディものだったが、ドラマ化に際して女性2人のバディものに改訂された。理由は、ある女優を使いたかったからである。もっとも、原作でも主役2人に恋愛要素はなく、さしたる影響はない。

視聴率女優、波瑠

そう、原作の男を女に変えてまでも起用したかった女優――それが同ドラマの最大の売りである。女優の名は波瑠。ずばり――同ドラマの安定した視聴率は、作り手の狙い通り、彼女のお陰と言っていい。

思えば、前クールの日テレの『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』でも、波瑠は脇役ながら抜群の存在感を放ち、好調な視聴率は彼女のお陰と言われた。今、波瑠は数少ない“数字を持ってる”女優の一人なのだ。
実際、彼女が一躍ブレイクしたNHK朝ドラ『あさが来た』以降の出演作の平均視聴率を見てみると――

『あさが来た』(NHK)……23.5%
『世界一難しい恋』(日本テレビ系)……12.9%
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジ系)……8.1%
『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)……5.7%
『あなたのことはそれほど』(TBS)……11.2%
『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』(日テレ)……9.8%

――となる。どの作品もその枠の平均点以上の視聴率を残し、何より話題になったドラマが多いのが特徴だ。そう、波瑠は数字・記憶両方を残せる女優なのである。そして特筆すべきは、出演作が1つの局に固定されず、各局にバラけているところ。引く手あまたなのだ。

もう一人のキーマンは高田純次

もちろん、同ドラマは女性のバディものなので、表記上は文書解読エキスパートの鳴海理沙役の鈴木京香とのW主演だ。実際、2人のコンビワークはいいバランスを保っている。「静」の鈴木サンが堂々としているから、「動」の波瑠が自由に遊べる面もある。
とはいえ、脚本は朝ドラ『あさが来た』で波瑠と組んだ大森美香サンで、彼女の生かし方を心得ており、やはり事実上の波瑠の物語と思っていい。

それよりも、もう一人、キーマンを挙げるとするなら――定時に帰る、実直な財津警部を演じる高田純次サンをおススメしたい。昔から、『夜明けの刑事』の坂上二郎サンや『踊る大捜査線』のいかりや長介サンなど、コメディ系の人が実直な刑事を演じると、その刑事ドラマはヒットするという法則がある。同ドラマもその法則の延長線上にあると考えて間違いない。

安定のTBS日曜劇場

最後に挙げるドラマは、こちらもテレ朝の木9同様、今やすっかり高視聴率ドラマ枠として盤石の安定感を誇る、TBSの日曜劇場である。

元々、1956年から続く同局の看板枠。過去に橋田壽賀子脚本の『愛と死をみつめて』をはじめ、倉本聰脚本の『うちのホンカン』シリーズ、加山雄三が復活した『ぼくの妹に』、最高視聴率40%を超えた木村拓哉主演の『ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~』等々、時代時代で話題作を輩出してきたが、安定して数字を稼げるようになったのは、2009年の『JIN-仁-』以降だろう。

なぜ、近年、同枠が復活したかと言うと、前にも述べたけど、『JIN-仁-』や『とんび』、『天皇の料理番』などを手掛けた石丸彰彦P、平川雄一朗D、脚本・森下佳子からなるチームと、『半沢直樹』をはじめ、『下町ロケット』や『陸王』を手掛けた伊與田英徳P、福澤克雄D、脚本・八津弘幸からなるチームが、互いに切磋琢磨した結果なんですね。
そんな局内の適度な競争が、ドラマの質と視聴率を高め、今日の盤石の日曜劇場を築いたんです。

毎度、デジャブのような展開に

さて、そんな日曜劇場の今作は――医療ドラマの『ブラックペアン』である。座組としては、チーム福澤(克雄)の作品になるが、原作はお馴染みの池井戸潤ではなく、海堂尊の作品。脚本もいつもの八津弘幸サンではなく、丑尾健太郎サンとちょっと変化球だ。

そのせいか、同ドラマは『半沢~』や『陸王』などに比べると、ちょっと話が荒く見える。毎度、デジャブのような同じ展開に見えるのだ。恐らく、福澤監督がかなりの部分で脚本にも携わっていると思われるが、やはり餅は餅屋なのかもしれない。

『ブラックペアン』のパターン考

そう、『ブラックペアン』の物語の展開は、大体パターンがあるのだ。
まず、最新医療器機が、小泉孝太郎演ずる高階によって東城大学に持ち込まれる。目的はボスである帝華大学の西崎教授(市川猿之助)の実績を作り、理事選に勝たせるため。それを見透かした内野聖陽演じる佐伯教授はこれに難色を示すが、カトパン――加藤綾子演ずる治験コーディネーターがフレンチで接待したりして、最終的には折れて手術が行われる運びとなる。

そして、手術当日。一同が新しい手術の行方を見つめる中、決まって予期せぬミスが起こる。竹内涼真演ずる研修医の世良は取り乱し、葵わかな演ずる新人看護師は廊下を走り回る。そんな中、趣里演ずる猫田看護師が手を回して、満を持して二宮和也演じる天才外科医・渡海が現れ、華麗なる手さばきで手術をリカバーするというもの。毎回、最新医療機器がスナイプやダーウィンに変わるくらいで、大筋は同じだ。

誰が主人公か

もっとも、あの『ドクターX』も毎度展開は同じだし、1話完結の医療ドラマはこれでいいのかもしれない。視聴率も中盤まで12~13%と推移し、決して悪くない。スマッシュヒットには違いない。

それよりも――同ドラマを見ていて気になるのは、「誰が主人公か?」という問題だ。一応、クレジットの順番で言うと、トップが二宮クンで、セカンドが竹内涼真。トメが内野聖陽サンで、トメ前が小泉孝太郎である。ならば二宮クンが主人公になるが、ドラマを見ていると、語りは竹内涼真だし、物語は彼の目線で進む。実際、原作の小説では、彼が演じる研修医の世良が主人公なので、こちらも違和感がない。

役者の格と、日曜劇場への貢献度(『JIN-仁-』『とんび』等)を思えば、内野聖陽演じる佐伯教授が真の主人公という線もある。いや、ボス(西崎教授)と佐伯教授に挟まれ、なんだかんだと振り回されつつも地味に生き残ってる小泉孝太郎演ずる高階の成長物語なんて見方も――。

ドラマ『ブラックペアン』の楽しみ方

はっきり言いましょう。この手の群像劇は、名目上はクレジットの順番はあるものの、視聴者は誰に感情移入して見てもいいんです。

例えば、僕は――小泉孝太郎演ずる高階医師の目線で楽しんでますね。ボスの論文の実績を上げるために、ライバル大学にスパイとして送り込まれた彼は、毎度、新しい手術にトライするも――思わぬミスで、いつも渡海にアタマを下げて、助けてもらう。プライドはズタズタなんだけど、患者の命を最優先に、前向きに考える――ほら、これって中間管理職であるサラリーマンの悲哀に通じません? いっそ、「サラリーマンドクター」とタイトルを改題して、高階を主人公にしたほうが面白くなると思ったり――。

カトパン攻略法

そう、ドラマはもっと自由に鑑賞していいんです。必ずしも、作り手が考える通りに見なくてもいい。
例えば――カトパンが演ずる役だってそう。

彼女の役は「治験コーディネーター」だ。これ、ドラマのオリジナルキャラクターなんですね。その割に出番が多く、また彼女の演技が女子アナの域を出ないためか、お茶の間からアゲンストが吹いている。
いや、それだけじゃない。彼女の役の描写(わいろ紛いの多額の研究費や負担軽減金を用立てたり、高級フレンチで医者を接待する)が、実際の治験コーディネーターとかけ離れているとして、日本臨床薬理学会がTBSへ抗議したとの報道もある。まぁ、これについては、彼女は言われた役を演じてるだけで、はっきり言って濡れ衣だ。

提案。そんなカトパンを見る際のおススメの鑑賞法がある。
「あれは、カトパンがカトパンを演じている」と思うといい。ドラマの役と思うから、つたない演技力や、事実とかけ離れた設定に違和感を覚えるのだ。そうじゃなくて、カトパン自身と思えば、よすぎる活舌は違和感ないし、権力と才能へすり寄ったり、高級フレンチで食事する描写も“素”と思えて気にならない。まんま、カトパンのままだ。むしろ、俄然リアリティが増して、面白く見える。

――そんな次第で、まだ間に合う4月クール連ドラ、いかがでした? そう、ドラマの見方なんて、もっと自由でいいんです。あなただけの目線で楽しんでみてはいかがでしょう。
そしてもう一つ――最終回から連ドラを見始めても、決して遅くはないってこと。

では、今回はこの辺で。また7月クールにお会いしましょう。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

第39回 フジテレビはV字回復できるか?

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少し前の話題で恐縮だが、フジテレビの4月クールのドラマ『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』の最終回(第9話)が2時間スペシャルで放映され、視聴率6.8%で幕を閉じた。最終回が2時間だったのは、評判がよかったから――ということではなく、単に次の週からロシア・ワールドカップが始まるからである。つまり、終盤の2話を1話にまとめた形だ。

ちなみに、全話通した平均視聴率は6.2%。これは最近のフジの木曜劇場――通称“木10”枠としては、ごくごく平均的な数値。高くも低くもない。実質全10話というのも平常運転。低視聴率で打ち切られたワケでも、評判がよくて最終回を延長したワケでもない。数字上は極めて平凡なドラマだった。

TLは“モンクリロス”の声一色に

――こう書くと、『モンテ・クリスト伯』は、最近のフジのパッとしない一連のドラマの1つと思われるかもしれない。いやいや、そうじゃないのだ。特筆すべきはSNSである。最終回の放映直後のTwitterでは、トレンドのベスト10の半分が――1位「#モンクリ」、2位「#モンテクリスト伯」、4位「#モンテ・クリスト伯」、8位「#モンクリロス」、10位「#ディーンフジオカ」――と、同ドラマ関連で占められたのだ。さらに、タイムラインは“モンクリロス”を叫ぶ声一色に――。こんなことは、久しくフジのドラマでは見られなかった。

そう、『モンテ・クリスト伯』は視聴率以上の爪痕を残したのである。

ゴールデンでテレ東に敗れたフジ

その一方で、最近、フジにとって不名誉な話もあった。
それは、『モンテ・クリスト伯』の最終回が放映された翌週――6月18日週のこと。このところ、2年連続で年間視聴率の「全日」「ゴールデン」「プライム」の3部門で、キー局4位に低迷しているフジテレビ。「振り向けばテレビ東京」と揶揄されているが、遂にそれが現実になったのだ。

その週――フジはゴールデンタイムで、テレ東に0.1ポイントの差をつけられ、民放5位に沈んだのである。これまでテレ東がゴールデンの週平均で他局に勝ったのは、毎年中継する『世界卓球』の期間中のみだったが、この週のテレ東は平常運転。しかも、W杯の中継を1つも持たないテレ東に対して、フジは2つのW杯のゲームを中継したにもかかわらずである。

フジの敗因は?
――それは、あの人の存在が大きなカギを握る。

カギを握る人物

その人物とは、ドラマ『古畑任三郎』や『踊る大捜査線』などの企画を立ち上げた、フジテレビきってのアイデアマン――石原隆サンである。

昨年6月、宮内正喜新社長の体制になって、新たに設けられた役職「編成統括局長」に就任した石原サン。それは、編成局・制作局・映画事業局・広報局の4つの局をひとまとめにして、よりダイナミックな環境で積極的にコンテンツを発信していこうという、アグレッシブな試みだった。

あれから1年――フジの改革はそれなりに進み、石原サンは一つのメドがついたとして、先日、その任を後進に譲っている。とはいえ、改革は道半ばという話もある。
一体、石原サンのもとで何が変わり、そして――何が道半ばなのか。

3つの成果

この1年、「編成統括局長」の役職にあった石原サンは、3つの“大改革”を成し遂げた。
1つ目の成果は、ご存知の通り、フジを長年支えた2つの長寿バラエティ――『とんねるずのみなさんのおかげでした』と『めちゃ×2イケてるッ!』の終了である。賛否あったが、やはり新しいことを始めるには、古い殻を破らないといけない。その意味では前向きな終了だったと思う。

ただ、スクラップ&ビルドの視点で言えば、次の番組を当てないことには、改革は終わらない。現状、新番組は『みなおか』の後が、坂上忍司会のトークバラエティ『直撃!シンソウ坂上』で、『めちゃイケ』の後が、紀行バラエティの『世界!極タウンに住んでみる』――。正直、両番組とも特段目新しくもなく、視聴率で苦戦中である。

ドラマに変化の兆し

2つ目の成果は、先の4月クールの2つのドラマ『コンフィデンスマンJP』と『モンテ・クリスト伯』である。
前者は、『リーガル・ハイ』でお馴染みの人気脚本家の古沢良太サンを起用してのコンゲームもの。脚本を1年前から準備し、初回の放映前には全話の撮影が終了していたという、盤石の体制で作られた。おまけに映画化まで決まっているという。

全10話の平均視聴率は8.88%。まるでフジを象徴するような数字だが、これも先の『モンクリ』同様、視聴率以上に毎回SNSで盛り上がったのは記憶に新しい。大スター長澤まさみの振り切った演技も話題になった。

そして、『モンテ・クリスト伯』は、かの有名なデュマの書いた名作『巌窟王』を、現代日本を舞台にアレンジしたもの。題材といい、設定といい、かなりチャレンジングな企画だったのには違いない。とはいえ、こちらもSNSで視聴率以上の反響を得たのは、先に書いた通りである。

まぁ、SNSで盛り上がったからといって、すぐに視聴率に反映されるとは限らない。以前、本連載の「視聴率の正体」の回でも書いたが、SNSによって動かされる視聴率はせいぜい全体の5~10%。一方で、視聴率を構成する“幹”の部分――90~95%は、“なんとなく”テレビをつけて、チャンネルを合わせている人たち。とはいえ、その幹を動かすには、やはり5~10%の“積極視聴者”の存在は欠かせないのだ。

カンヌのパルムドール

そして3つ目の成果が――先のカンヌ国際映画祭で最高栄誉となるパルムドールを受賞した映画『万引き家族』である。知らない人もいるかもしれないが、同映画の製作には、フジテレビが幹事会社として関わっている。

元々、フジと是枝裕和監督は、監督がドキュメンタリーのディレクターだった時代からの付き合いで、『NONFIX』で数々の秀逸なドキュメンタリーを世に送り出した。
そして、映画は2013年の『そして父になる』以降、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『三度目の殺人』(2017年)、そして今回の『万引き家族』と、5作連続で両者は組んでいる。『万引き~』が当初『声に出して呼んで』というタイトルだったのを、現行タイトルに変えるようアドバイスしたのは、フジの松崎薫プロデューサーである。そして石原隆サン自身も、是枝作品にはアドバイザー的な立場でずっと関わっている。

正直、フジと組む以前の是枝作品は海外で高い評価を得るも、興行的には今ひとつだった。それがフジと組んで以降は全国ロードショー公開となり、興行収入も10倍以上に。それまでの作家性に加え、大衆性も身に着け、メジャー作品へと昇華させたのはフジの功績だった。今回の『万引き~』のパルムドール受賞も、長年にわたる監督とフジとのパートナーシップが実を結んだ側面もあった。

天才プロデューサーの死角

――以上3点が、「編成統括局長」時代の石原サンの3つの成果である。映画で1つの歴史的結果を残し、ドラマでは反転攻勢のキッカケを作り、バラエティでは長年の懸案だった2つの伝説の番組を終了させた。

だが、そこが石原サンの限界でもあった。彼はフジテレビ入社以来、ずっと映画とドラマ畑しか経験していない。ゆえに、『コンフィデンスマンJP』や『モンテ・クリスト伯』のような、世の中の時流とは関係なく、シンプルに自分が面白いと思うドラマを見抜き、推す目は持っていた。しかし――バラエティでは何が面白いのか、多分、分からなかったと思う。天才プロデューサーにも死角があったのだ。

現状、フジに足りないもの

ゆえに、石原サンにできることは、他の民放で評判になっていたり、自局で数字を取っている番組の焼き直しという“後ろ向き”の方策しかなかったと推察する。
タレントではなくディレクターが海外で体当たりリポートする『世界!極タウンに住んでみる』は、テレ朝のナスDの『陸海空 地球征服するなんて』を彷彿とさせるし、坂上忍司会の『直撃!シンソウ坂上』は、やはり同局の『バイキング』の焼き直しに見えてしまう。『梅沢富美男のズバッと聞きます!』にしても、申し訳ないが巷のバラエティの既視感は否めない。

かくして、作り手が今ひとつ面白がっていないであろう番組を、お茶の間が面白がるワケもなく――。

そう、現状のフジに足りないのは、作り手が自ら面白がって作るバラエティである。今や、ゴールデンタイムの8割の番組が、バラエティで構成される。日テレを見れば分かるが、バラエティを制す局が、視聴率を制す時代。先のテレ東にゴールデンの週平均で敗れた話も、そういう事情である。

フジテレビがこれからやるべきこと

いかがだろう。
フジテレビの復活に必要な手順がなんとなく見えてきたのではないだろうか。多分、この先――ドラマは少しずつ持ち直すと思われる。石原隆サンが道筋をつけた“自分たちが面白いと思うドラマを作る”路線に従い、昔のようにフジテレビらしいドラマが増えるだろう。幸い、優秀な作り手やブレーンは、社内外に大勢いる。軌道に乗るまで、もう少し時間がかかるかもしれないが、SNSに引きずられる形で、徐々に視聴率も回復すると思う。

問題はバラエティである。
自分たちが面白いと思うバラエティを作るのは当然として、何か道筋になりそうなヒントはないのか?

――ある。僕は、それはフジテレビの“DNA”だと思う。

フジテレビのDNA

一般に、フジは1959年の開局から70年代までは「母と子のフジテレビ」の時代で、“第二の開局”と言われた80年代以降は「楽しくなければテレビじゃない」の時代だと思われていてる。

でも――実のところ、2つの時代は多くの点で連続している。「母と子」の看板を下ろした以降も、日曜夜7時半の『世界名作劇場』は1997年まで地上波で続いたし、『ひらけ!ポンキッキ』の後継番組の『ポンキッキーズ』も、BSフジに場所を移して、今年の3月まで続いた。ガチャピンとムックの再就職先が取りざたされたのは、ついこの間の話だ。何より、『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』といった国民的な家族アニメは今も続いている。

一方、80年代以降の「楽しくなければ~」の看板も、フジは開局の年から既に、クレージーキャッツの『おとなの漫画』という帯のコメディ番組を生放送していたし、長らくお正月の風物詩と言われた『新春かくし芸大会』も、1964年から2010年まで放送していた。あの『笑っていいとも!』も、その源流を辿ると、68年にスタートした前田武彦とコント55号司会の『お昼のゴールデンショー』に行きつく。

そう、「母と子」も「楽しくなければ~」も――図らずも開局から今日まで、フジのDNAとして連綿と続いているのである。

ここはフジテレビじゃない!

以前、本連載の「フジテレビ物語(前編)」の回でも紹介したが、1969年、日テレの伝説的バラエティ番組『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』の初回収録時に、こんなエピソードがあった。

それは、司会の前田武彦サンと大橋巨泉サンのトークのシーン。2人のやりとりには台本があり、最後に巨泉サンのひと言でマエタケさんがギャフンとなるはずだった。だが、これにマエタケさんがとっさのアドリブで切り返したのだ。スタジオに笑いが起きる。その時である。突然、副調整室のスピーカーからプロデューサーの井原高忠サンの怒鳴り声が鳴り響いたのだ。
「勝手な真似はやめろ! ここはフジテレビじゃない!」

フジテレビの持ち味

日テレのバラエティは、アメリカ仕込みの“ヴァラエティ・ショー”がベースにある。そこには台本があり、出演者はあたかも自分の言葉のように喋るテクニックが求められる。井原プロデューサーが演者に求めたのは、そういうことである。

一方、前武サンは当時、フジテレビで『お昼のゴールデンショー』と『夜のヒットスタジオ』という2つのヒット番組を持つ売れっ子司会者。フリートークとアドリブの名手と呼ばれた。そう、当時のフジは生放送で演者が自分の言葉を発し、アドリブを繰り出せる自由な空気で満ちていたのだ。

思えば、そんな局をまたいだ対比のパターンは、80年代にも再び繰り返された。それは、土曜夜8時の「土8戦争」である。台本通りにコントを演じる王者、TBSの『8時だョ!全員集合』に対し、挑戦者のフジの『オレたちひょうきん族』は、アドリブの宝庫。当初はトリプルスコアを付けられていた『ひょうきん族』だったが、じりじりと差を詰め、遂には『全員集合』を抜き去り、終了へと追い込んだのだ。

カギは非・予定調和

そう――思うに、フジの強み(DNA)とは、昔から一貫して、演者のフリートークとアドリブだと思う。その際、作り手に求められるのは、演者をリラックスさせて、自由な発言が飛び出す空気を作ること。これに関しては、フジは昔から他局に長けている。日テレもTBSも、この自由な空気感はマネできない。

これだ。フジがバラエティで復活する道は、この持って生まれたDNAを生かさない手はない。要はそれを21世紀にアップデートするのだ。コンプライアンスが叫ばれる今だからこそ、挑戦しがいがあるのではないか。

しょせん、日テレ流の作り込んだバラエティで勝負しても、フジに勝ち目はない。それは、日テレのDNAだから。『世界の果てまでイッテQ!』はその集大成なのだ。だったら、フジはフジのやり方で勝負するしかない。そう、何が飛び出すか分からない“非・予定調和”だ。

ターゲットは女性と若者

それともう一つ――フジテレビならではのターゲットの特性にも留意したい。
「母と子のフジテレビ」の昔から、フジは他局に比べて女性と若年層の視聴者が多い傾向にある。これは今も変わらない。各種データを見ても、NHKと民放キー局を通して、フジの視聴者層が最も若い。そして女性が多い。

現状、視聴率を稼ぐには、高齢者を狙えと言われる。日テレとテレ朝の視聴率が比較的高いのは、要は視聴者の年齢層が高いからである。だから、その線で勝負しても、フジに勝ち目はない。

だったら、ここは割り切って、女性と若者にターゲットを絞り、新しいバラエティを仕掛けるのだ。考えたら、『あいのり』や、その発展形の『テラスハウス』(現在は『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』)は今も人気だし、やはり餅は餅屋なのだ。
それに、本当に面白い番組を作れば、例えメインターゲットが女性と若者でも、幅広い層が見てくれる。全盛期の『みなおか』や『めちゃイケ』が20%から30%の視聴率を稼いだのは、そういうことである。

面白い番組は面白い社員が作る

そして、面白い番組を作るにあたって、忘れてはいけないこと――それは、つまるところ、“面白い番組は、面白い社員が作る”ということだ。

思えば、80年代にフジがバラエティで一世を風靡した時は、いわゆる“ひょうきんディレクターズ”らにもスポットが当たった。90年代にフジが連ドラブームをけん引した時は、大多亮プロデューサー亀山千広プロデューサーも注目を浴びた。2000年代に入り、フジが再び三冠王に就いた時は、『めちゃイケ』の片岡飛鳥総監督が脚光を浴びた。

それは、他局も同様である。90年代に日テレがバラエティで視聴率を伸ばした時代は、Tプロデューサーこと土屋敏男サンや五味一男サンが注目を浴びたし、今、バラエティで良くも悪くも物議を醸している『水曜日のダウンタウン』は、TBSの藤井健太郎Dの存在抜きには語れない。テレビ朝日なら『アメトーーク!』の加地倫三サンに、『陸海空 地球征服するなんて』のナスDこと友寄隆英Dが目立っているし、テレ東なら『池の水ぜんぶ抜く』をはじめ、面白い企画は大抵、伊藤隆行プロデューサーの影がちらつく。

そう、フジテレビ復活のカギは、面白い社員がどんどんオモテに出ることだ。もう、「裏方に徹する」なんて謙遜しなくていい。幸い、フジには面白い社員がまだまだ大勢いる。積極的に露出していこう。

フジテレビ復活の顔

最後に、フジテレビ復活を期待して、その顔になってほしい一人の女子アナを紹介して、このコラムを〆たいと思う。
その人物とは――宮司愛海アナである。

思えば、先日、物議を醸したサッカーロシアW杯予選リーグ最終戦の「日本対ポーランド」。フジテレビはその中継局だったが、あの時、スタジオにいたのが宮司アナだった。例の「フェアプレーポイント」で日本が決勝へ進む微妙な空気の中、そんな戸惑う空気をあえて隠さず、さりとてしっかりとした口調で進行する宮司アナが、気になった視聴者も多かっただろう。

彼女は福岡出身で、僕の同郷だから推すワケじゃないけど――似たようなミディアムヘアーの女子アナが多い中、そのショートカットの美貌は抜群の存在感を放っている。何より、アナウンス力・アドリブ・キャラと、その才能は申し分ない。この4月から週末のスポーツニュース『S-PARK』のメインMCに抜擢されたのが、彼女の実力を物語る。いや、それだけじゃない。ここ一番の大舞台のMC――最近では、先の衆院選の開票速報特番や今回のW杯など――は、決まって宮司アナが指名されることが多いのだ。それは図らずも、上層部からの信頼を伺わせる。つまり、彼女なら安心して任せられるのだ。

過去、フジテレビの調子がいい時は、必ず“顔”となる女子アナがいた。古くは80年代前半のひょうきんアナの3人に、80年代後半の『プロ野球ニュース』の中井美穂アナ90年代に入ると、有賀さつき・河野景子・八木亜希子の三人娘が注目を浴び、2000年代に入ると、『めざましテレビ』発でアヤパン・ショーパン・カトパンらが脚光を浴びた

そして今――その顔は、宮司愛海アナが担うべきだと僕は思う。
彼女がフジテレビの顔と世間から認知されたその時、フジは不死鳥のごとくV字回復を遂げていると確信する。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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